流行りの「自己肯定感」、体操で育めるってホントですか?
子どもたちに、本物の自信を Vol.2
近ごろ親同士の会話にも出てくる言葉、自己肯定感。子どもにどう促すのが正解なのか、を探る連載インタビュー企画第2回です。今回は「体操を取り入れることで、心が強くなる」とおっしゃる矢口幼稚園・園長を務める鈴木先生にお話を伺いました。読者を代表してインタビューしたのは、2歳と6歳のやんちゃな男の子を育児中のモデル・辻元舞さんです。
できない子を応援する
子どもたちの姿に感動!
運動が苦手な子も小さな自信を育めるのが体操のいいところ
辻元舞さん(以下敬称略)
子どもたちが元気いっぱい、意欲的にブリッジや逆立ち歩き、跳び箱などに取り組んでいる姿に感動しました! 園に体操を取り入れたきっかけはあったんですか?
鈴木園長先生(以下敬称略)
子どもたちに大切なのは、元気な体と健全な心。人格形成の基盤となる幼児期に特に必要な体力作りとして、体操は先代から引き継いだ時から取り入れていました。園長になり、今後の教育を模索していた頃に出逢ったヨコミネ式教育法の「すべての子どもは天才である!」という理念が心に響きました。見学に行った鹿児島の保育園では、子どもたちが目をキラキラさせていて、体操以外の場面でも、自発的であると感じたんです。心の力、学ぶ力、体の力をバランスよく育める、子どもの自立を促す教育であると確信し、矢口幼稚園の方針に取り入れました。また、運動神経を司る小脳は、科学的にも6歳までにかなり発達すると多くの専門家からも言われています。その時期にあたる幼稚園時代に、できる限り運動神経を高め、運動が苦手な子でも小さな自信を育むことを目指しています。
辻元
皆が諦めることなく、自発的に何度も挑戦している姿が印象で。がんばればできる!と思う気持ちのエネルギーが溢れている姿に、見ている私のほうがエネルギーをもらえた気がします。
園長
壁逆立ちから、三点倒立、逆立ち、逆立ち歩き……と、子どもたちは、ひとつの技ができるようになるともっと挑戦したい、もっと次、という気持ちになって自信を増していくんですよね。とはいえ、スイッチの入り方や、その時期は子どもたちそれぞれ。個別に丁寧に寄り添う職員の技術はもちろん必要ですが、技術よりも子どもの力を信じて一緒に諦めない粘り強さが大切です。矢口幼稚園は運動が得意な子を集めているわけでは決してありませんし、できることがゴールでもありません。『できることが楽しい』『楽しいから夢中で練習する』という気持ちを身につけてもらうことが目的です。運動が苦手な子も、自分を信じて心を強く持てば、大抵みんな、できるようになる、それもこの時期ならではの良さです。
「どうやったら早く走れるか」「上手に逆立ちができるか」など挑戦することで自然に身につく“考える力”で達成へと向かうプロセスも体操の奥深さ
辻元
まだできないお友達に対して、皆で応援している姿がとても印象的でした。
園長
『みんなができる』を大切にしている矢口幼稚園では日常的な光景です。やり方を教えた後は、自分なりのやり方を考えることができるのも体操の面白さ。技に対するコツのアドバイスは欠かせませんが、できている子の技を見ながら、自分で考えて行動し、自分なりのやり方を見つけないと身につかないところも体操の特徴だと思います。お友達が達成している姿を見て羨ましい気持ちや悔しい気持ちが、それぞれの心の中でグルグルしていると思うんですね。その気持ちが子どもの『考える力』を伸ばし、成長に繫がると信じています。
運動神経ばかりじゃない。
できる!と自分を信じる気持ちが
子どものミラクルを生むんです。
辻元
最近では、運動会でも順位をつけない園や小学校がありますね?
園長
矢口幼稚園では、運動会だけでなく日頃から順位をつけています。成長していけば、いつか必ず競争はありますから。順位づけの他にも、運動会の時、年長さんには走る前に自分の目標を自己申告してもらっています。「絶対に1等賞になる!」、「誰々ちゃんには負けたくない!」など、名前を名乗って決意表明を口に出すことで、自分の決意に責任を持つ気持ちを芽生えさせたり、気持ちが萎えてしまった時に、自分を高めていく効果も。普段から目標を口に出し、そうやって、ひとつのことが達成できると、そんな自分が嬉しくて、帰り際には保護者の方に「見て見て!」の大合唱です。上の学年の姿を見ればまた次の目標が生まれる、「次はあれに挑戦しよう!」と自発的な意欲を促せる点にもみんなの中で体操をすることの意味を感じています。
辻元
心の思いと体を一致させる訓練にもなるんですね。
体操のカリキュラムでは皆が自発的
ブリッジや壁逆立ちをたくさん練習して、壁逆立ちのまま手踏みといって片手を順番に外したり、横歩き、三点倒立も。ステップになるような動きの練習をたくさん繰り返した最後には、壁なしでピンと脚を伸ばす逆立ち! 写真は、逆立ち歩きと、跳び箱4段を跳ぶ、年長組の様子。卒園までに9段や10段に挑戦するとか。自分の番までは他の子の応援に一生懸命。できない子には大きな応援の声が鳴り響きます。使ったマットの片付けも自主的に。
諦めない気持ちを育みながら達成感を経験することで自信というお土産を沢山持たせて小学校へ送り出してあげたい
園長
子どもを褒めるさじ加減には工夫が必要ですね。安易に褒めすぎると調子に乗ってしまうことも。褒められることだけが自己肯定感を育むのではなく、心の力が育まれてこそ自己肯定感が芽生えるのではないでしょうか。失敗したことを受け止めて、プラスに流していくこと。成功体験という結果が全てではなく、そのプロセスの中での葛藤とその後の喜びの繰り返しが大切です。『失敗は挑戦した証拠』というフレーズは矢口幼稚園が大切にしている言葉の一つです。子どもなりに失敗したり、挫折をすることもあると思いますが、幼児期のうちに色々な思いを経験してこそ、心も体も健康な大人になれる原点だと思います。小学校に上がり、自分が得意な「体操」を披露した結果、お友達から褒められたことで自信を深めた卒園児のお話を先日も伺ったばかり。こんな嬉しい出来事を聞けるのも、園長として幸せなことです。
矢口幼稚園 鈴木喜恵先生
1930年に設立された、祖母の代から続く幼稚園の3代目園長。学童保育施設『学童塾パピエ』代表も兼任。働く母のための幼稚園作りや、Yaguchi式教育として体操・読み書きなど静と動をバランスよく組み合わせた日々のカリキュラムを通して『心を育む教育』に力を注ぐ。子どもたちの自立をサポートし『自分で考え行動し、自分の意見が言える』幼児教育を実践中。
【モデル着用】パーカ¥45,100(THIRD MAGAZINE)トップス¥10,780(アンクレイヴ/オンワード樫山)ショートパンツ¥27,500(カオス/カオス丸の内)イヤリング¥6,300(アビステ)その他/スタイリスト私物
撮影/吉澤健太 ヘア・メーク/只友謙也〈P-cott〉 スタイリング/石関靖子 取材・文/鍋嶋まどか デザイン/大塚將生〈marron’s inc.〉 編集/藤田摩吏子