「夫より収入が低い私が家事を多く負担するのが当たり前?」「男なら、女なら、という夫のジェンダー意識はどうしたら変わる?」……男の子のためのあたらしい性教育の本『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて』の訳者で「ふたりぱぱ」としてゲイカップルの日常と育児を発信するYouTube「ふたりぱぱチャンネル」も人気のみっつんさんに、夫婦のパートナーシップに悩む読者からの質問に答えていただきました。
みっつん
名古屋市生まれ。2011年、スウェーデンの法律の下、同姓結婚。同年、夫リカとともに東京からロンドンへ移住。2016年、サロガシー(代理母出産)により男児を授かったのを機に、夫の出身地であるスウェーデン、ルレオに移住、現在にいたる。ブログ「ふたりぱぱ」で、サロガシーの経験や子育て日記を綴ったり、SNSなどでその普段の様子をシェアしている。
著書に『ふたりぱぱ ゲイカップル、代理母出産の旅に出る』(現代書館)がある。
YouTube「ふたりぱぱチャンネル」
Question
育児はほとんどワンオペ状態。
でも、夫より稼ぎが少ない私が家事をやるのは当たり前と思ってしまい、夫にお願いできません。
──出産後、仕事に復帰しましたが、ほとんどワンオペ状態で毎日バタバタです。それでも「夫より稼ぎが少ない私が家事をやるのは当たり前」だと思ってしまいます。みっつんさんは普段、家事や育児をどう分担していますか。
僕たちの場合は、できることをできる方がやるといったスタンスなので、きっちり担当を決めているわけではありません。幼稚園へ朝の送りを彼がしたら迎えは僕、寝かしつけは毎晩交代で、といった感じです。結婚し、海外に移住したばかりの頃は、仕事をするのも難しく、パートナーとの収入差も大きかったです。だから、「僕がその分、家のことを頑張らなきゃ」と思っていたんですよね。でも、彼は「無理してやらなくていいよ」と言ってくれたので、だいぶ気持ちが楽になりましたが。ただパートナーに理解があっても、「自分の自立」ということは考えていました。スウェーデンに移住し、語学も一から学ぶ状態でしたが、「働き続けたい」という気持ちが強かったです。カフェでのアルバイトからはじめ、その後YouTubeやブログなど発信する仕事にシフトしていきました。僕の場合は、たとえ賃金が低くても「フルタイムで働いている」という自信を持てると精神的に健やかでいられるようになったんです。特に日本は男女の賃金格差が大きいですし、出産後の職場復帰が難しい社会環境もあると思うので、賃金がパートナーより低いことは本人の責任ではないはずです。僕は、働いているかどうかとか、年収がいくらかで家事負担に差をつけるのはとてもナンセンスだと思います。読者の皆さんもそこは堂々と自信を持って、パートナーと分担するようにしてほしいです。
Question
夫が「男の子だから、女の子だから」という前提で話をするのが気になってしまいます。
──夫のジェンダー意識がなかなか更新されません。「女の子だったら〇〇大学くらいでもいいな」「男の子だったら大企業に入って良い奥さんをもらえ」などと、子どもの前で将来の進路や結婚について「男の子だから、女の子だから」という前提で話をするのですが、どうすれば理解してもらえますか?
まず、そういう方にこそ、「今からでも僕の本を読んでください」と言いたいところですが(笑)。こういうときは、「個人の考え方の問題ではなく社会のせい」だということにしてしまうのも一つの方法だと思います。これまでの社会では、性について考える教育を受ける機会が少なく、何が正しい知識なのか分からないまま大人になった人も多いはずです。僕自身はゲイなのでマイノリティーとしての立場で意見を聞かれることも多いのですが、別の枠組みから見れば僕自身もマジョリティーとして他の人を無意識のうちに傷つけてしまっているかもしれません。それはもう誰にとっても同じだと思うんですよね。自分が加害者になる可能性はゼロではないということを自覚できるかどうかが大切だと思います。立場の違う人の意見を変えることは難しいのですが、反対する人を無理に説得しようとするよりも、できるだけ同じ気持ちを持つ仲間を増やして社会を変えていく。そちらに時間を割いたほうがいいかなと僕自身は考えています。なので、例えば周りの友だちや自分の家族など理解してくれる人を増やしていくことで徐々にパートナーの考え方も変わっていくかもしれません。
Question
「ママ」「パパ」という役割分担って必要だと思いますか?
──同性パートナーとお互い協力しながら育児をしているみっつんさんの姿を見ていると「ママ」「パパ」という役割分担自体って必要なのかな?と思ってしまいます。性別で分けずにどちらもこの子の親ということでいいじゃないかというか……。
日本では自分の役割や価値が分かりやすくラベリングされているほうが安心という感覚がまだまだ強いと思います。有名企業に属しているとか結婚して母親であるといった誰が見ても分かるラベルがついてないと自信が持てなかったり、自分の立ち位置が見えづらくなってしまったりすることもあるのかもしれません。ただ、僕が見る限り、パパ・ママである前に個々の人間であることを意識している人は、パートナーとの関係もうまくいっているケースが多い気がします。ただ日本の女性の場合は、社会制度的に、結婚し子どもを育てながら自分の幸せを追求するのが難しい状況だとは思うんですよね。僕の友人は主夫をしているのですが、公園で子どもを遊ばせていると、それだけで「男性なのにえらい」とやたらとほめられて居心地が悪いと言っていました。主婦だったら、当たり前のことだとされてほめられもしないのに……と。「男ならば」という社会の前提に苦しんでいる男性もいるのです。社会の中で平等性と公平性が保たれること。「ママ・パパ」というラベルを取っ払っても生きやすい、個を大事にする世の中になることが理想です。
Question
パートナーと暮らしていく上で心がけていることはありますか?
──YouTubeを見ているとお互いをとても尊重し合っているようで、とてもうらやましく思います。
本のタイトルにもなっていますが、結局のところ大切なのは「相手のことをリスペクトする」ということだと思うんですよね。これは相手の意見を全て受け入れて飲み込むということではありません。たとえ、自分と意見が違っても相手の考え方や、そう考えるまでに至った理由について思いを馳せることが必要だと思うんですよね。それは、「自分自身をリスペクトしていない」とできないことです。お互いにリスペクトがあれば、意見が割れてもきちんと話し合いを重ねていけると思いますし、突き詰めた結果、パートナー関係を解消するのが二人にとって良い選択だったというケースだってあると思います。結婚から十数年経つ僕も「リスペクト」についてはまだ練習中ですが。パートナーと人生を築いていく中で、つい「相手のためを思って」「相手のために何ができるか」などと考えてしまうことがあると思います。この考え方は一見良さそうですが自己を抑えて「相手のため」だけを優先するとどこかで破綻が生じる気がします。人のためだからと我慢せず、何より自分の幸せを大切に生きることで、結局相手のことも大切にできるし、それがお互いピンポンのラリーをするように支え合っていく力になると思っているんです。
取材・文/高田翔子
男の子のためのあたらしい性教育の本『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて』¥1,980(現代書館)
取材・文/高田翔子