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『ねずみくんのチョッキ』誕生秘話 ‟ねずみくんは小さい頃の自分”

最初の『ねずみくんのチョッキ』誕生から45年以上に渡り、愛され続けている「ねずみくんの絵本」シリーズ。懐かしい気持ちで子どもと一緒に読んでいるママも多いのでは? 構成や文章を手がけるなかえよしを先生にシリーズに込めた思いをうかがいました。

 

テーマは身近な生活の中から
ねずみくんは小さい頃のぼく

 

ぼく自身、勉強が苦手で、気が弱くて弱虫で、恥ずかしがり屋で、どこか隅っこの目立たないところで、ちょこちょこっと何かを作っている子どもでした。ぼくの子ども時代をキャラクターに投影させたら、お話が作りやすそうだと、ねずみくんを主人公にしました。

 

『ちっちゃなねずみくん』

 

登場するキャラクターは全部動物ですが、ねずみくんよりずいぶん大きな象やライオン、豚など、体の大きさが異なるようにしています。体の大きさが違うことは、個性だと思うのです。その点でいうと、人間よりも個性がはっきりしている動物たちは、絵本向き。動物はそれぞれの個性を活かして生きているのです。みんな違うからいいのです。みんな違うからおもしろいのです。

 

『また!ねずみくんとホットケーキ』

 

だいたい、みんな同じだったらお話なんか作れません。それぞれの違う個性を活かすことで、絵本のお話のアイデアが浮かんできます。

お話のテーマは、なるべく普段の何気ない、誰もが経験している身近な生活の中から見つけるようにしています。それが受け入れられ、長く続いているのかもしれません。

読む人の想像に任せるため
文章も絵も構成もできる限りシンプルに

 

ぼくは大学卒業後、広告代理店に就職して、広告デザインの仕事をしていました。そこで学んだのは、工夫して、わかりやすく表現するデザイン。ぼくはこの考えが好きです。目立つための派手なデザインもありますが、できるだけ手を加えず、除いて、削ぎ取って、もうこれ以上削れないというところまで、シンプルを追求していくデザインに興味を持ちました。

 

 

だから「ねずみくんの絵本」シリーズは画面の余白を多く取り、絵も、キャラクターも、構図やレイアウトもできる限りシンプルに、と思っています。 文章も形容詞や副詞などはなるべく使わず、会話体だけ。背景もなるべく入れずに読む人の想像に任せています。

キャラクターの名前もシンプル。ねずみはねずみくん、象はぞうさん、ライオンはらいおんさん、豚はぶたくんと、さん、くんをつけただけですから。でも、ねずみのねみちゃんだけは、ねずみの“ず”を取って“ちゃん”をつけて、“ねみちゃん”としたら可愛い名前になりました。名前に困るから、一冊の絵本に同じ動物が二人出てくることはほぼありません。

今は上野さんの残した絵を生かして
新たな一冊を作っている瞬間が好き

 

思い出深いのは、シリーズ2作目の『りんごがたべたいねずみくん』。絵本を作り始めたばかりの時でしたので、編集者から「チョッキの次を作ってください」と注文され、正直「えー、次なんて」と思いました。最初の『ねずみくんのチョッキ』は勢いで作れたものの、そう簡単にできるわけがありません。でも次の作品がよくなかったら、もう依頼されないだろうと、キリキリと胃が 痛くなりながら考えついたお話です。

 

 

この話が浮かんだ時「こんなぼくでも、少しがんばればできるじゃん」と絵本を作り続ける自信をつけてくれた作品です。この2冊目がうまれたからこそ、「ねずみくんの絵本」シリーズができたと言えます。

シリーズを35冊刊行したところで、絵を描いていた上野(紀子さん)が亡くなり、「ああ、ねずみくんもこれで終わっちゃうのだ」と、哀しかったです。

「ねずみくんの絵本」シリーズで絵を担当された上野紀子さんと。

 

でも上野が残してくれた、たくさんのねずみくんの絵を見ていて、一応デザイナーであるぼくは「パソコンで合成して組み合わせれば、新しいねずみくんができるかもしれない」と『ねずみくんはめいたんてい』を作りました。今後どれだけ作れるかはわかりません。今のぼくは上野と読者のみなさんの気持ちを想い浮かべながら、上野が描いたねずみくんやねみちゃん、動物たちの絵をいじっているのが最高のひとときです。

 

<担当ライターより>
長文を読むのがまだ難しい我が家の5歳児でも「ねずみくんの絵本」シリーズは、一生懸命音読しています。小さい子でも読みやすい理由は、なかえさんによる、できる限りシンプルにする工夫があるからこそ。今夜の寝かしつけに「ねずみくんの絵本」シリーズを読み聞かせてはいかがでしょうか。

なかえよしを先生

兵庫県神戸市生まれ。日本大学芸術学部美術科卒業。広告のデザイナーを経て、絵本の世界へ。『いたずらララちゃん』(ポプラ社)で第10回絵本にっぽん賞受賞。主な作品に『ねずみくんのチョッキ』(ポプラ社)『こねこのクリスマス』(教育画劇)『ねこのジョン』(金の星社)など多数。2020年、児童文化功労賞を受賞。

取材・文/津島千佳

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