親世代にできることは
自分の価値観を
子どもに伝染(うつ)さないこと
――我慢させなければ永遠にゲームを続けてしまう。国内外でゲーム時間を規制する条例が設けられていますが。
基本的に社会は不安を原動力に動いているので、その条例にも根拠はないでしょう。ゲームばかりしていたらロクな大人にならない、好きなことだけしていたら大変なことになる、という不安に突き動かされているだけ。残念ですがゲームをやめて勉強をさせたところで……。反対に、ゲームを楽しめる人は今後、幸せになれます。実社会ではなかなか満たせない、人と競う・成長する実感、を得られるわけですから。ゲームを悪いもの、くだらないものだと思い込ませるのは良くないですね。
――我々、親世代にできることとは?
なるべくこだわりを持たないこと。教育的な信念も強く持たない方が良いでしょう。日本全国で同じ価値観が共有されていた時代は終わるので、強い信念を持つ人ほど、他者の価値観にイライラを感じやすくなります。自分の価値観を子育てには持っていかない。厳しい価値観は知らない間に子どもに伝染(うつ)るので子どもが幸せになる障害になります。親が価値観を狭めずにいることが重要。ただ、これが難しいんですよね。ネット社会において人は生存本能で不安な情報を集めてしまうし、自分と価値観が合う人の情報をどんどん集めることができる時代。価値観が合う人間同士でクラスター化して、狭く偏った価値観が常識になっていく。
先に紹介した新型コロナウイルスがインフォデミック(情報感染)と称されたように、SNSが人のメンタルに与える影響は我々の想像以上に深刻です。
――親は子どもを自由にさせるべき?
もちろん最低限の躾は必要です。子どもは放任されると、大人に守られていないと感じて恐怖を抱く生き物。例えば、他人を傷つけてはいけない、相手の気持ちにも配慮する、など社会を生きやすくなる最低限のルールは身につける必要があります。それがないと不安定な子になる。これからの時代に必要な躾とは何か、親が考えていかないといけません。
――個人が判断するのは難しいですね。
そうですね。こうすればいい、と明言できるものはありません。予測はできないし、予測しようとしない方が良いのかもしれません。新型コロナウイルスで世界中がここまでパニックに陥るなんて誰も想像できなかったように。どうなるか分かりませんよ。予測できたり、ルールがあったり、教えてもらったりすれば楽でしょうが、そんな既成の知識が役に立たないのが、これからの子育て。楽ではないですが、この状況をポジティブに捉えるなら縛られなくていいということ。何かの価値観、方法論に縛られない、ということが最善の戦略でしょう。子どもの生きる力を信じてサポートに徹する。そんな親の「腹のくくり方」が今、求められているような気がします。
『令和時代の子育て戦略』下園 壮太(講談社 ¥1,400+ 税)
これまでの著書は怒りや不安といった感情と向き合う大人の心の鍛え方をメインにしていたが、変化の激しい時代に大人が自分の感覚で子育てを行うと「生きにくい」価値観を伝えてしまうことに危機を覚え、メンタルヘルスの観点からこれからの子育てについて指南。
イラスト/JUN OSON 取材・文/増田奈津子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2020年6月7月合併号「アフター・コロナの子どもたちへ 元自衛隊メンタル教官 下園壮太さんに訊く 我慢させない、頑張らせない 逆転の子育て戦略」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。