人生の一大事、出産。赤ちゃんもママも無事で乗り切れることが何よりですが、“できるだけ痛みを取りたい”“その瞬間をじっくり味わいたい!”というママに人気なのが「無痛分娩」。
そもそも、どんなお産方法なのでしょうか? 今年7月に2人目を出産したライターが、担当の麻酔科医師 順天堂医院の井上理恵先生に聞きました!
ー無痛分娩の割合が増えているというのは、本当ですか?
井上理恵先生(以下同):はい、年々増えています。無痛分娩の割合は2007年の全国調査では2.6%でしたが、2016年に6.1%に増加しています。2016年には年間5万人以上の妊婦さんが硬膜外無痛分娩を行っていることになります。
順天堂式無痛分娩Q&A50より引用「諸外国の無痛分娩の割合」
ーそもそも無痛分娩とはどういったお産ですか? 和痛分娩とは何が違うのでしょうか?
無痛分娩には大きく分けて、「薬を使わない方法」と「薬を使う方法」の2つがあります。呼吸法によるラマーズ法やリフレクソロジーのようなマッサージによるなど薬を使わない方法も“無痛分娩”です。これらの方法で痛みが取れれば良いのですが、残念ながらこれらの方法だけでは十分ではありません。
薬を使う方法として一般的なのは、背中から管を入れて局所麻酔薬を注入することで痛みを和らげる硬膜外鎮痛法です。少量の局所麻酔薬で十分な鎮痛効果が得られ、赤ちゃんに対する影響もほとんどありませんし、お母さんの意識が低下することもありません。いわゆる無痛分娩とはこの硬膜外鎮痛法を用いてお産の痛みを和ら
また、「無痛分娩」と「和痛分娩」に明確な違いはありません。医学的に言葉の厳密な定義があるわけではなく、無痛分娩(痛みを無くす)といって妊婦さんが過剰な期待をすることを避けるために和痛分娩(痛みを和らげる)という言葉を用いることが多いようです。
―痛みをどこまで取るかは施設によるんですね。
当院では無痛分娩といっても、痛みを0にすることを期待しているわけではありません。高濃度の局所麻酔薬を使用すれば分娩の痛みを全く感じなくすることは可能だと思います。でも、無痛分娩で高濃度の局所麻酔薬を使用すると、分娩の進行が滞ってしまったり、出産時に力が入らずに上手にいきめなくなったりします。また、痛みの感じ方には個人差がありますので、当院では「我慢できる範囲に痛みをコントロールする」ことを目指し安全な範囲でお手伝いをしています。
順天堂式無痛分娩Q&A50より引用「痛みの評価」
―想定よりお産が先に進んで麻酔が間に合わなかった!というケースをたまに聞きます。麻酔はどのタイミングで入れるのでしょうか? 例えば私は8年前第1子を産んだときは、子宮口が4cmに開くまで待ってからの麻酔だったのですが、今回はすぐに入れてもらえました。
麻酔は、陣痛が始まりお産を進めるための子宮収縮がしっかりきている中で妊婦さんが麻酔を希望され、赤ちゃんがおなかの中で元気な状態を確認できた状態で始めます。当院では、無痛分娩を始めるための子宮口の広がり具合などの基準は設けていません。
以前は、アメリカでも、無痛分娩を分娩の早い段階から始めると分娩時間が長くなったり、帝王切開の割合が増えたりするなどの理由で「麻酔の導入は子宮口が5cm以上開くのを待ってから始めるべきだ」との意見が優勢でした。
8年前はその流れの真っただ中だったと考えられます。今回はお2人目の出産だったことや、前回のお産の時間、入院した時点での子宮口の開き具合など色々な条件を検討した上だったのかもしれません。
―そうなんですね。無痛分娩エピソードを先輩ママから聞くと、現状と違っているかもしれないですね。私は2回とも結局陣痛促進剤を使わずでしたが、途中何度か促進剤を入れるべきか先生方が相談していました。促進剤は無痛分娩でよく使われるものなのでしょうか?
計画分娩を行う場合には、必ず子宮収縮薬(誘発剤・促進剤)は必要ですが、自然陣痛が来てからの無痛分娩では、分娩中も必ずしも必要ではありません。しかし、途中で陣痛が弱まったりして分娩が進行しなくなった場合には、子宮収縮薬が必要になります。
当院では無痛分娩を選択した方の半数以上の方が、実際に子宮収縮薬が必要になっているのが現状です。
VERYライターの順天堂医院出産中の様子
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お話を聞いたのは…井上理恵先生
2007年埼玉医科大学卒業。
臨床研修終了後、熊本大学医学部附属病院をはじめ熊本県内の病院で周術期麻酔管理を研修。2013、2014年埼玉医科大学総合医療センターで産科麻酔フェローとして周産期麻酔を研修。2016年より、順天堂医院にて主に無痛分娩を含む産科麻酔を担当。
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