
漫画を通じ、妊娠・出産のリアルやママの気持ちを発信する、子育て漫画家兼テレビ東京局員の真船佳奈さん。作品は笑って泣けて共感の嵐と話題!そんな真船さんに、「正しいお母さん」と思われなければと自意識過剰だった産後から、自意識をぶっ壊して自分を取り戻すまでの葛藤のお話を聞いてきました。
レベルゼロの赤子とレベルゼロの母親
たくさんのことを諦めないとちゃんとしたお母さんになれない!と思ってた
――破天荒な独身時代を経て、母になった真船さんのコミックエッセイ『正しいお母さんってなんですか!?』には、子育てのリアルが満載!「育児斬り」(街中で突如育児に関する提言と「カワイソウ」のクリティカルヒットをくれる知らない人)エピソードも印象的でした。
真船さん(以下、敬称略) きっと赤ちゃんを心配しての善意からの助言だったんだって、今ならわかるんです。だけど、出産直後は自分の育児に自信なんてものはなく、レベルゼロの赤子とレベルゼロの母親で歩いている状態なので、何を言われても責められているように感じてしまって。とにかく正しいお母さんにならなくちゃ、とフリー素材のような一般的で理想的なママを目指していました(笑)。産前は、それとは真逆の自由気ままな生活をしていたので、「その分、人よりも大きく変わって子どもを自分の人生の主役にしないといけない。たくさんのことを諦めないとちゃんとしたお母さんにはなれない!」と思い込んでいたんです。そうやって、育児に全力投球した結果、見事に心と体のバランスを崩してしまいました。
私、こう見えて
すごく真面目なんです(笑)
――ギャグ満載の漫画のテンションとは裏腹に……真船さん、ものすごく真面目でいらっしゃいますよね!?
真船 そうなんです!私、こう見えてすごく真面目なんです(笑)。でも、その真面目さが自分の首を絞めてしんどかった。「家事=タスク」と捉えて、作業中に子どもに呼ばれると「タスクを邪魔されている」と感じてしまったときもありました。そんな中、体調を崩して入院し、結果的に自分の時間ができたことで、改めて漫画を描くことが大好きだったことを思い出しました。コロナ禍の出産だったので、一人でよくわからないまま子育てをする中で「妊娠・出産って、今まで聞いていた美談と全然違うやんけ!」と思うことが本当に多くて。ギャグ漫画にしてリアルなお母さんの姿をみんなに知ってほしいし、孤独なお母さんの支えにもなりたいと思ったのが育児漫画を描き始めたきっかけでもあります。
――真船さんの真面目さは、ママ友付き合いにおいても「自意識」という壁になってしまった時期もあったとか?
真船 変なお母さんだと思われたくなくて、必要以上にカッコつけたり、空回りして大失敗したり、今思うとママ友付き合いにも気負いすぎていましたね。でも、その失敗を経て、ママ友界隈だって普通の人間関係と一緒なんだなと気づきまして。お互い弱みを見せあった先に、本当の友達になれる。先日も、保育園の親子バーベキューで私だけ缶ビールを7本も飲んで、翌日は二日酔いで動けなくなりました(笑)。
――そんなリアルな実感を詰め込んだ最新刊は、それまでの漫画とは反響の種類が違ったとか?
真船 ありがたいことに、まず電子版で読んだ方が紙媒体で買い直してくれたり、家族や出産を控えている方にプレゼントしたという声をよくいただきます。私の母親世代の方が読んで、妊娠中の自分の娘さんにすすめるケースもあるそう。育児漫画を描くようになって、より多くの人と繫がれた感覚です。傷ついたり、実は悲しかったのにそれを表現できずにもやもやしていたこと、そんな気持ちをできるだけ言語化できたかなと。最新刊にはシリアスな話も描いたので、表立って感想を広くシェアするというよりは、DMで「この本は私の本になりました」などのメッセージを送ってくださる方が多かったです。声に出して「お母さんはつらい」とか「お母さんをやめたい」というようなことは、まだ言いづらいのかな。

――そんな中、ちょっと辛辣なDMも届いたことがあったそうですね。
真船 子どもを母に預けてギャグ漫画を描いていたとき、それに対して「子どもを預けてまでこういう漫画を描くんですか」とDMをいただいたことがあります。送ってきた方は、私と同じ子育て中のお母さん。自分は我慢しているのに、なんでこの人は子どもを預けてこんなパッパラパーな漫画を描いているんだろうと思ったのではないでしょうか。私はいまだに息子と遊ぶのが得意とは言えなくて……。ブロック玩具とか粘土とかで、個人個人で遊ぶ方が気が楽です。でも、たとえどんなに子どもが好きな人だったとしても、一息ついたり、自分を取り戻すための時間はきっと必要ですよね。
趣味=育児!?
保育園に預けたら
もうお互いの時間ですね
――ママが自分のための時間を持つことの大切さを、よく描かれていますよね。
真船 親側に子どもを預ける罪悪感があったとしても、子どもの方は案外、保育士さんやシッターさんと遊ぶのを楽しんでいます。家族以外に相談できる大人がいるのは、子どもにとっても親にとってもありがたいことだと思います。預け先についてはしっかりリサーチしますが、信頼できる人が見つかったら全力でお任せし、子どもに対しては「もうお互いの時間ですね」という気持ち。それに他の人に保育してもらっているうちの子の姿ってめっちゃ可愛い!お母さんがお母さんの役割に集中するばかりではなく、離れてみたからこその新しい発見もたくさんある。それに、子どものために何かを諦めたという経験は、たぶんずっとしこりとして残ると思います。その分、子どもに期待しすぎて、子どもに負荷をかけてしまうくらいだったら、お母さんが自分のやりたいことをしている姿を子どもに見せた方がいい。そして子どもに対しても、自分の好きなことを好きなだけやりなよって教えたい。フルタイムのテレビ局員と漫画家を兼業していて、子どもと一緒にいられる時間は多くはないけれど、その分、密度でカバーしています。「趣味=育児」って言ったら誤解されてしまうかもしれませんが、そのくらいの気持ちで育児と向き合う方が自分自身も気がラク。最新刊のラストは、何年かぶりに大好きな友人たちと朝5時まで飲んで、へべれけになって帰宅し、玄関で子どもを抱きしめるというシーンを描いたのですが、実は、このシーンで終わりたいなと最初から決めていました。「こんな自分が大好き。大好きでもいいんだ」という私なりのメッセージを贈りたくて。
――真船さんから見てVERYってどうですか?
真船 今回のオファーをいただいて、友人に「VERYの取材なんだけどどんな格好で行けばいいかな?」と聞いたら、「家にある貴金属をすべて着けて行け!」ってアドバイスをもらいました(笑)。出産前はオシャレが大好きだったのに、出産して体形も変わって、家族で写真を撮るときも「私のことは写さないでくれ〜!」という気持ちで、自分のところだけトリミングしたかったくらい。もう以前みたいにオシャレを楽しむ自分の人生って戻ってこないのかな、と怖かったのを覚えています。でも、仕事復帰して自分はこのままでいいんだなとか、自分には漫画があるなと気付いて。自信を少しずつ取り戻した結果、自分のことをまた好きだと思えるようになりました。そうなると、今度はちょっと明るめの服を着てみよう、これを着て外に出たら楽しいだろうな、などオシャレへの意欲も復活してきました。VERY読者の方には、ずっと輝いていたいというマインドの人がきっと多いと思いますが、それってとても素敵なマインドですよね。お母さんになっても自分の人生は続きますから!
正解のない育児に
正解を求める真面目さがしんどかった

子育て漫画家兼テレビ東京局員
真船 佳奈さん
1989年生まれ。夫と3歳男の子の3人家族。大学卒業後、2012年に株式会社テレビ東京入社。テレビ東京ではバラエティ番組のAD等を経て現在はプロモーション部で働きながら、子育てをテーマにした漫画家として活躍中。
真船佳奈さんが描いている漫画を紹介!

1.正しいお母さんってなんですか!?
「ちゃんとしなきゃ」が止まらない!
今日も子育て迷走中
¥1,300(税抜)/幻冬舎刊
真船さんが「正しいお母さん」像に翻弄されながらも自分らしい子育てにたどり着くまでの育児漫画。ちゃんとしなきゃと苦しい思いをしている全お母さんに読んでほしい一冊。
2.今日もわたしをひとり占め
¥1,300(税抜)/サンマーク出版
幼少期から妊娠期までの真船さんの人生を通じ、ありのままの自分で過ごせるぼっち時間の大切さを教えてくれるエッセイ。読後はぼっち時間をもっと楽しみたくなるはず。
3.令和妊婦、孤高のさけび!
頼りになるのはスマホだけ?!
¥1,100(税抜)/はちみつコミックエッセイ刊
ネットの情報に振り回されながらもコロナ禍での孤独な出産、育児に奮闘する姿を描いた作品。つわりとの格闘、夜間授乳、夫婦関係の変化など共感ポイントが盛りだくさん。
4.オンエアできない!
女ADまふねこ(23)、テレビ番組つくってます
朝日新聞出版刊
真船さんのデビュー作。「どんぐりを600個拾う」など謎の業務にも負けず奮闘する新人AD時代の仕事を描いた漫画。テレビアニメ化もされた人気作。※現在は電子版のみ。
撮影/杉本大希 取材・文/松葉優子 編集/太田彩子
*VERY2025年10月号「VERYママよ、今こそ自意識過剰をぶっ壊せ!」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。











