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元女子プロサッカー選手・大滝麻未さん「産後3カ月で実戦復帰」にかけた想い

元女子プロサッカー選手の大滝麻未さんとイタリア人の夫

今回、取材させていただいたのは現役中に出産し、選手に復帰した元女子プロサッカー選手の大滝麻未さん。今を生きる女性にとって、妊娠・出産とキャリアの両立、その答えを出すことは難しいけれど、彼女の自分の直感を信じ決断し後ろを見ないブレない潔い姿勢は私たちの背中を押してくれます。

[家族のコトバ]

「子どもを産んだら、なんで競技を続けられないの?」子どもを産む=現役引退。そんな思い込みをひっくり返し、背中を押してくれたのは夫のコトバでした。2020年、私はイタリア人の夫と結婚。サッカー選手としても順調なシーズンを送っていましたが、元々子どもは大好きで早く私も子どもが欲しいという気持ちと、まだサッカーを続けたいという思い。その間で揺れていたとき、夫はこう言ったのです。それが気づきとなり、日本では前例の少ない選択肢でしたが、母になることとサッカーを続けることは自分次第で両立できることなのかもしれない、その姿を見せることが次の世代へのメッセージになるのかもしれないと思うようになりました。

からのコトバ
なんで、子どもを産みたいから引退しないといけないの?

元女子プロサッカー選手の大滝麻未さんとイタリア人の夫

夫はFIFAマスター(ヨーロッパのスポーツMBA)の先輩。日本とスイス、2年半の遠距離恋愛の末、結婚。

前例の少ない現役中の出産。産後3カ月でフィールド復帰したものの…

ちょうど日本初の女子プロリーグ「WEリーグ」設立のタイミング。妊娠の希望があることをジェフユナイテッド市原・千葉レディースに伝えたうえでクラブ側も了承し契約。有り難いことにすぐに長男・柚生(ゆずき)を授かることができました。悪阻はそこまでひどくはありませんでしたが、もちろん体調の変化はありました。医師から許可をもらい、国立スポーツ科学センターからもトレーニングの指導を受けつつ、それでも前例がほぼないため、あとは自分にしかわからない感覚を頼りにやれることを見極めて臨月までトレーニングを続け、出産を迎えました。出産後1カ月で練習に復帰。3カ月後には実戦にも戻りました。復帰までのスピードが速かったことに驚かれますが、もちろん復帰には不安が付きまといました。体は戻るのか?元のパフォーマンスは維持できるのか?若い選手にポジションを奪われるのではないか?そして最も驚いたのはボールに思いっ切り行けなくなっていたこと。向かっていく意思はあるのに体がストップをかけるのです。出産で広がった骨盤や重心のズレが原因で出産前と同じプレーはできないことを脳が理解して、無意識のうちに自分を守ろうとしていたのかもしれません。それでも、前と同じようにできないなら、今の自分でどう戦うのかを考え、予測や位置取りで先取りするプレースタイルに変えていきました。若い選手の台頭に正直選手として悔しさを感じることもあったけれどそれも久しぶりの感情だったし、一日一日ほんの僅かでも自分が前に進んで取り戻していく感覚は若い頃以来のものでした。心も体も鍛え直すように過ごしたこの時間は、自分と向き合った大切な時間でした。

一方、端から見るとスムーズに簡単に復帰したように見えてしまったことが、後に続く後輩たちのハードルを上げてしまったのではないかという思いもあります。私の姿を見て“産んでも続けられるんだ”と思ってもらえるロールモデルになれたのなら嬉しいけれど、復帰までの過程や結果は人それぞれであることも付け加えておきたいと思います。

長男からのコトバ
今日もサッカーシューズがいい!

元女子プロサッカー選手の大滝麻未さんと二人の息子

弟が生まれたとき、長男は「ママ見て!」「抱っこ」と頻繁に甘えるようになりましたが、今ではすっかりお兄ちゃんに。

夫やクラブの手厚いサポートで長男はチームのなかで育ちました

復帰を支えてくれたのは夫の存在です。海外の仕事をリモートで続けながら、私の練習中は息子を見てくれました。2人で明確なルールを決めずに、できる人ができることをやる。そのゆるやかな連携が自然に支え合う関係をつくってくれました。もっと練習がしたいと思う日もあれば、早く息子に会いたいと思う日もある。そんな気持ちのバランスを取りながら両立を目指しました。また、ちょうどWEリーグの発足で競技に専念できるプロ契約ができたことも大きかったのです。競技と子育て、そこにもし企業勤務が加わっていたら物理的にも難しかったのではと思います。所属クラブの柔軟で積極的なサポートも両立において大変助かりました。FIFAが定めた産休給与保障のガイドラインがあるのですがジェフはそれを上回る保証をしてくれましたし、アウェイの遠征試合にも夫と子どもの帯同を認めてくれるだけでなく、ベビーシッターの同行に当たる費用を負担してくれました。だから柚生はいつも試合や練習にいて、チームメイトたちも本当に温かく迎えてくれました。「柚生がいたから、あのつらい合宿を乗り越えられた!」なんて言ってくれた仲間も。プロの世界は皆それぞれがライバル。決して甘くはありません。でもあの日々に感じたチームの優しさや包容力は忘れられません。そして女性アスリートの傍らに子どもたちがいる。そんな光景が“普通”になったらいいなと思いました。

今でも柚生は、毎日のようにサッカーのユニフォームを着たがります。スパイクも自分で履きたがる。手伝おうとするとこれだけは「自分でやる!」とお兄さんぶるところも可愛くて。そんな姿を見るたびに、ママの選手としての記憶がどの程度あるのかは分かりませんが、彼なりに「サッカーってかっこいいんだ」と思ってくれているんだなと感じて嬉しくなります。

 

元女子プロサッカー選手の大滝麻未さんファミリー
昨年次男が誕生し4人家族になりました。
試合でプレーする元女子プロサッカー選手の大滝麻未さん
2012年にフランスのチームで選手キャリアをスタート。2019〜2023年はジェフユナイテッド市原・千葉レディースに所属。
子どもを抱いてピッチに入場する元女子プロサッカー選手の大滝麻未さん
復帰から1年、念願だった我が子を抱っこしてピッチに入場する夢が叶いました。

子どもと入場する夢が叶い肩の力が抜け、現役引退

どうしても叶えたかった目標がありました。それは息子を抱いてピッチに立つこと。そのためにはスターティングメンバーに選ばれる必要があります。復帰後、途中交代のメンバーに回ることも増えていましたが、そこを目標に腐らず練習を続けていました。念願叶って、その夢は柚生の1歳の誕生日に行われたホーム開幕戦で実現。でも、嬉しさと同時に実はそのときフッと力が抜けるような感覚もありました。またその後、シーズンが進むにつれ私個人もチームも思うように結果が出せず苦しい時期が続きました。出場時間が少しずつ減り、出場できない試合も増え、自信と目標を失ってしまったのです。正直まだ体は動いたし、周囲も私があのタイミングで引退するなんて思っていなかったと思います。私自身も選手として続けていく使命感を抱いていて、もう一年、もう少しと、気持ちを繫ごうとしていました。でも踏み出せなかった。それは、母になったことでやっぱり価値観が変わったのだと思います。「子どもと過ごす今を逃したくない」気持ちが勝った。それが、あのときの私の選択でした。無理にもう一年を頑張らなくて良かったと今も思っています。人生では選択を迫られる場面が何度も訪れますが、私はいつも直感を信じて、一度選んだら振り返らないようにしてきました。そして、その選択が正しかったと思えるように、自分の足で前に進んできたからこそ後悔はありません。

友人からのコトバ
つらい合宿、柚生(長男)がいなかったら乗り越えられなかったよ

元女子プロサッカー選手の大滝麻未さんと元チームメイト

ジェフ時代のチームメイト。今はそれぞれ別のクラブで活躍中です。(左から)岸川選手、千葉選手、私、鴨川選手、今田選手

引退後、WEリーグの理事に女の子の憧れの場所にしたい

2023年に引退。その後、次男・奏音(かなと)が誕生。今は子ども2人を育てながら、WEリーグの理事という立場で、自分が選手として経験してきたことをこれからのリーグに還元したいという思いで、サッカー界の未来に向き合っています。私自身がサッカーを始めた頃は、女の子がプロを目指せる時代ではありませんでした。でも、あの頃は想像できなかった未来が今はせっかくあるのだから、次の世代には、WEリーグは“目指したい場所”としてもっと魅力ある舞台になっていく必要があると思っています。残念ながら現時点では「将来は海外でプレーしたい!」という女の子のほうが多いことも実情。待遇や認知度の向上、環境面の整備など課題はたくさんありますが、選手が安心してサッカーを続けられる仕組み作りが必要だと思っています。ママもアスリート(仕事)も、どちらも諦めなくていい。そのような世界は女子サッカー界だけでなく共通の願いだと思いますが、私はサッカーを通してつくっていきたいと思っています。母になってもピッチに立つ選手が当たり前になる日を願って。それが、今の私の新しい目標です。

 

大滝さんのHistory

幼少期の大滝麻未さん

兄の影響で小学1年生のときサッカーを始めました。

 

試合でプレーする大滝麻未さん

早稲田大学を卒業後、フランスへ渡りプロ契約を結び選手生活をスタート。その後、日本とフランスのいくつかのクラブに所属。

 

大滝麻未さんと夫のジャンカルロ・ダポト氏

2020年、かねてよりお付き合いをしていたジャンカルロ・ダポト氏と結婚。引退して欧州で生活をすることも考えましたが、私の「東京オリンピックを目指したい」という思いを支持してくれ、夫が日本に移住。

 

出産直後の大滝麻未さんと長男

翌年、長男を出産。すぐに選手復帰を果たしました。

 

大滝麻未さんが長男と入場した公式戦

公式戦で長男と入場。復帰後の1つの目標を達成した瞬間。

 

次男を出産した直後の大滝麻未さんと夫

昨年、次男を出産し2児のママに。WEリーグの理事にも就任し、女子サッカーの環境整備に尽力中。

Profile

大滝麻未さん(おおたき あみ)
1989年生まれの36歳。元日本女子サッカー代表。学生時代から頭角を現し、大学卒業と同時にフランス女子サッカーリーグ1部の名門オリンピック・リヨンで選手キャリアをスタート。25歳で一度引退し、FIFAマスターに入学。同大学院を修了。翌年、現役復帰。そのFIFAマスターの先輩で、その後、スイスのFIFA本部に勤務していたジャンカルロさんと結婚し、日本のWEリーグで現役を続けながら長男を出産。産後3カ月で実戦復帰。2023年、現役を引退。2024年、次男を出産。現在は、WEリーグ理事を務める。

撮影/吉澤健太 取材・文/嶺村真由子 編集/中台麻理恵
*VERY2025年9月号「家族のコトバ」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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