ミュージシャン・坂本美雨さんが小学一年生になった愛娘・なまこちゃん(愛称)とのセンチメンタルな日々や自らの生い立ちについても綴ったエッセイ『ただ、一緒に生きている』が共感を呼んでいます。自らを「センチメンタル母ちゃん」と呼ぶ坂本さんにお話を伺いました。
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我が子から出てきたものだから
“使用済みオムツを捨てたくない!”
――エッセイにあった、愛する我が子の体内から出てきたものだから「オムツを捨てたくない」という感覚になったことがある、というエピソードがすごく印象的でした。
もちろん捨てたのですが(笑)、森山直太朗さんの『うんこ』という曲も同時に思い出したんです。それまでは一緒くたにかわいいと言われたのに、出た途端汚いって言われるのはなんでって。我が家は完母(完全母乳)だったから、お互いのものだけでできた“エキス”みたいに感じた部分があったのかも…(笑)。
――(笑)。まだ「センチメンタル母ちゃん」な面は残っていますか?
私はいつでもセンチメンタルです。娘は友達と一緒にいるのが楽しくもなってきて、学童で「え〜もう迎えにきたの?」という顔をされるといちいち悲しんでいます(笑)。
――自立の階段を登っていますね。「娘がおばあちゃんになったところを見られないんだと思って涙があふれた」というのも、考えたこともなかったのですが、読んでいてそれに気づき泣きそうになりました。
娘に対しては知りたがりなんです。娘が60歳なら私は95歳。そう気づいた時に愕然としました。今、娘が甘えにきてくれない時は、私からベタベタ甘えにいっています。たまに受け入れてくれたり、ドラマを見ていたらそっと白湯を持ってきてくれたりもします(笑)。
――すごい気が利く…! オムツについてのエピソードにしても、坂本さんは何かを失うことへの感受性が強い方なのかな、と感じました。
そうですね。記録したいのも忘れるのが怖いからだし、なくすのが怖いから全部写真を撮ったりするんです。でもそれを表現者としてはどこか客観視しているところもあって。
――客観的になることで、子育てに活かせたことはありますか?
インスタにしろ何にしろ、書いたり表現する癖がついているから、何か大変なことがあってもどこかで「面白いな、ネタになるな」と冷静な自分はいます。それに、本を読んだりして人の体験を知っておくことは大切だと実感していて。辛いことでも、同じような出来事を他の人がどう捉えて乗り越えたか、そのサンプルが頭にあるのとないのでは全然違うと思うんです。自分のみに起こっているのではない、ちゃんと生き延びている人がいると知っておくことが救いになる気がして。
――今はSNSもあり、細かな体験を知るツールはたくさんありますね。
そう、だから子育てのことは少しだけど綴っておいてよかったです。どこの親子も一緒だねと共感してくれたら嬉しい。それと、「理由」を知っておくことも大切だと思います。
イヤイヤ期=敏感期。
言葉を知って
子育てにぐっと客観的になれた
――理由というのは?
例えば韓国語には、「なぜ?」と理由を尋ねる聞き方がたくさんあるんだそうです。人と理解し合う中で、どうしてそうしたのか理解できると、許し合えて寛容になれますよね。私の理屈とは違ってもその人の正義で行っているとわかると理解ができる。例えばモンテッソーリ※では成長の過程で「敏感期」と呼ばれるものがあって、一つのことにとても執着する時期が定期的にくる。イヤイヤ期のことなのですが、2歳児の秩序と違うことが起きると不安だし許せないし、なんだこの世界は!と感じてギャー!と泣く。うまく説明できないから泣くしかないのに、親は理解せずに怒ったりする。そういうことが多いらしいんです。この説明を妊娠中に読んで納得がいったので、実際イヤイヤ期がきて嬉しくなってしまって(笑)。もちろん、その場では怒ったり困ったりするのですが、「これは敏感期だ」と納得できているから、どこか冷静でいられたというか。
※マリア・モンテッソーリ氏による教育法。子どもには自分で自立・発達していこうとする力があり、発達に見合った環境を整えることが必要である、というもの。
――敏感期・・・そう言われると、意識のスイッチが切り替わります。他に参考にしている本はありますか?
『子どもへのまなざし』の佐々木正美先生の本はいろんなものを買っています。ちょうど今も『子どもが喜ぶことだけすればいい』が手元にありますが、常に先生の本は近くにあって、目についたときは必要な時かなと思って開きます。これから介護とか、ペットロス、大切な人の病気など初めての困難なことにぶつかると、どうしても視野が狭くなってしまいがちだと思うんです。でも視野が狭くなる前に頭に入れておくのは大事だったんだなと。
――サバ美ちゃん(猫)も手術を控えられていますよね。
いよいよそういう時が来たか、と思った時に、ここ数年で友達が綴ってくれていた愛猫の闘病日記(『イオビエ ~イオがくれた幸せへの切符』猫沢エミ著)がより胸に迫りました。本ではなくてもインスタの闘病記を読み漁ったりもして。当たり前なんだけど知るって大切だな、とつくづく思います。
――本当に…エッセイでたくさん綴り残してくださってありがとうございます! 最後に、VERYの読者さんたちにメッセージをいただけますか?
育児は一人で抱え込まずに、みんなで育てたらいいと本気で思っているんです。甘えるのもテクニックが必要で、やればやるほどスキルが上がっていきます。そうやって甘え合いができればお互い助かるし、育てやすくなる気がするんです。誰かに子どもを見てもらうときに「申し訳ないな、迷惑かけてる」と思わずに、「きっと楽しいはず!」と心の中で思っておくことも、甘え上手になる秘訣ですね(笑)。
『ただ、一緒に生きている』
著:坂本美雨 ¥1,760(光文社)
東京新聞で連載のエッセイ「子育て日記」に、自らの生い立ちについてなど大幅な書き下ろしを加えた珠玉の一冊。
坂本美雨/1980年5月1日生まれ。1997年Ryuichi Sakamoto featuring Sister Mとして『The Other Side of Love』でデビュー。2015年第一子を出産。2022年デビュー25周年を迎え、現在音楽に留まらず、作詞、翻訳、俳優、文筆、ナレーションなどさまざまな分野で活躍中。大の猫好きとしても有名。Instagram:@miu_sakamoto
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取材・文/有馬美穂