【COLUMN】
「夫婦関係がしんどくなってきたとき」
が自分の心の内を伝えるチャンスです
──「カサンドラ症候群」とはどんな状態を指すのでしょうか。悩みを抱えたときにできることは? 精神科医の岡田尊司先生に話を聞きました。
岡田 尊司さん
1960年、香川県生まれ。精神科医、作家。東京大学哲学科中退、京都大学医学部卒業。同大学院で研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などで、困難な課題を抱えた若者に向かい合う。現在、岡田クリニック院長(枚方市)、日本心理教育センター顧問。著書に『愛着障害』『愛着障害の克服』(以上、光文社新書)『母という病』(ポプラ新書)など多数。
Q1
「カサンドラ症候群」とは?
「相手と気持ちを共有したり、共感したりすることが苦手」なパートナーと過ごす中で、心身を病んでしまう。精神疾患と診断されるほどでなくても、イライラして怒りっぽくなったり、仕事や家事が思うようにできなくなったり、好きだった趣味も楽しいと思えなくなる。症状には個人差がありますが、そのような状態を「カサンドラ症候群」と呼んでいます。つらい思いをしていても、「ちゃんとした仕事に就いている人なのに」「真面目で優しそうな旦那さんなのに」と周囲の人には悩みが理解されにくいケースも多いのです。結婚生活は長く続いていくものなので、そのような状況が続くのは当人にとって非常につらいものです。
Q2
「アスペルガー症候群のパートナーが
カサンドラ症候群になる」と解説が
されていることが多いようですが……
実際に医療機関に本人が行き、アスペルガーだと診断されるまでに至るケースは少数です。共感性に課題を持つ人はアスペルガーだけに限りません。アスペルガー以外にも、「自己愛性パーソナリティ障害」「回避型愛着障害」などと思われるケースも多くあります。日本の場合は男尊女卑の文化が今も根強く残っていることも原因の一つでしょう。共感するのがあまり得意でない人は「相手の話を聞く」ことに価値を置きません。結果としてパートナーの悩みに気づきづらいのです。妻としては「何のために結婚して一緒にいるのだ」という思いにとらわれるでしょう。当初は「いつか変わってくれる」と信じていても、なかなかそうはいきません。結婚生活の早い段階で問題を共有する意識を持つことが重要ですし、それができないとなると夫婦関係を続けていくこと自体が難しくなるかもしれません。
Q3
「夫婦関係がつらい」と感じたときに
何からはじめたらいいでしょうか?
「我慢をしすぎない」ことがとにかく大事です。「しんどくなってきたとき」は、限界だというサインです。話し合いが必要ですし、それが難しい場合は、ストライキや実家への避難といった実力行使も必要です。それを機に、相手が問題に向き合えば脈があります。ただ、「相手にだけ責任がある」と一方的に責めるのでは改善しません。夫婦で一緒に取り組んでいくという姿勢が必要です。傷つくことが蓄積しすぎると、関係を修復しようとしても気持ちが拒否してしまいます。また、「カサンドラ症候群」には育児の問題が絡むこともしばしばです。子どもがいないうちは妻も夫を構う余裕があり、問題が生じても軌道修正しやすいですが、お子さんの発達や不登校といった問題で協力がないと、カサンドラが表面化してしまいます。ご夫婦だけなのに気持ちがすれ違うとなると、問題はより深刻といえるかもしれません。自己愛性の強い夫の場合、妻から不満を言われると「じゃあ俺が悪いのか」と責められているように感じ、逆ギレしてしまうケースも見受けられます。こういった場合、カサンドラに詳しい医師やカウンセラーからのアドバイスのほうが受け入れられやすいでしょう。
Q4
結婚生活を続ける、離婚するなど
「夫婦のこれから」を
見極めるポイントはありますか?
「見極め」というのは最初からできるものではないですよね。「このご夫婦は関係を続けるのが難しいかな」と思っていたら案外踏ん張って、その後良い関係になる場合もありますから。ただ、つらい思いをしていることが一向に共有できない場合は、別れることも選択肢になります。経済的、社会的事情やお子さんへの影響で結婚生活を継続するしか選択肢がないという人もいるでしょう。その場合はできるだけパートナーとの関わりを減らして、必要以上の期待をせずに生活していくことも一つの方法です。アルコールやギャンブル依存症のように、夫婦で問題に向き合った結果、しばらくは関係が改善したけれどその後またうまくいかなくなる……。そういうケースもしばしば起こります。この小説の主人公が悩んだ末に例えば、結婚生活を続けていくほうを選んだとしても、これから先10年、20年経ってどうなるかは分かりません。あとは当人の心にどれだけ余裕があるか、相手に対して思いがあるかに尽きると思います。
取材・文/髙田翔子 撮影/田中 源(陶芸家) 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2023年1月号「「カサンドラ症候群」を知っていますか?」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。