コラムニストのジェーン・スーさん×VERY専属モデル申真衣さんが、世の中の「これが当たり前」という常識が変化している真っ只中の今、できることは何かを考える対談インタビュー。今回は女性の出世・昇進問題の後編です。(全4回。前回はこちら)
産後復帰や転勤にまつわる悩み。個人の問題と思わないで
ジェーン・スーさん(以下、スー):申さんは、経営者の側としては、社内にもっと上に立つ女性の数を増やしていこうと思っているんですか?
申真衣さん(以下、申):最近、管理職になる女性が増えてきたのですが、昇進に伴って転勤になるケースもあって。社内結婚した夫婦の中には夫側が妻の転勤についていく選択をする人もいます。話を聞くと、育児をしながらどうやって仕事を回すかということに加え、夫のキャリアを犠牲にしたんじゃないかという罪悪感を感じてしまうこともあるようです。これは男女どちらでもあり得ることですよね。私がその方に言ったのは、「どうか個人の問題だと思わないでください」ということ。今、あなたの働く時間が限られているのは、一人の問題じゃなくて、ここから先、子育てする人全員の課題だし、今は男性でも子育てに積極的に関わりたい、と思っている人が沢山いるから、自分のためだけじゃなくて、みんなの問題として考えようと話しています。部下も巻き込んで話ができるようになれば、「いつか自分も子育てしながら管理職になれるかもしれない」と下の世代も考えられるようになるからと。でも、転勤などの会社のシステムから変えるとなると大がかりなので一朝一夕にはいかず、経営側の判断としては、難しいこともまだまだありますね。
いま、子育て真っ最中の人へ
——子どもを産んだあとも仕事を続ける、今は育児優先の生活をする。いろいろな選択肢は増えてきているけれど、多様性があるからこそ、「これでいいのか」と迷う人が多いように感じます。どんな生き方をしてもいいと言われても制度は整っていないですし。
申:正解を提示されたい、という気持ちはよくわかります。
スー:大事なことは「自分で考える訓練」だと思うんですよ。例えば今、お母さん業が生活の中心にあるのだとしたら、自分で子どもを責任もって育てているっていう事実だけでも素晴らしいのだから、そこにぶれない軸を持ってくればいい。誰かが正解を決めてくれるのを待つんじゃなくて自分で考える方向へ舵を切っていったらいいんじゃないかな。子どもがいるかどうかで自分の価値が高いとか低いとか決められることは絶対にないけれど、今していることにもっと誇りを持っていいと思うんですよ。私は産んでも育ててもいないけれど、四六時中見張ってないと大変なことになる生き物と毎日一緒に過ごす生活は想像できません。それができているということだけでものすごいことですよ。
「自分で考えること」が一生消えない財産になる
スー:「どうしたら考える力が身につきますか」とよく聞かれるのですが、一つのニュースを数紙の新聞で見比べてみると、扱いの大きさや伝え方のニュアンスが全く違うことに気づきます。
申:そうですね。朝日と讀賣を読み比べるだけでも、一面に持ってくる記事の選び方なんかが全く違うから。
スー:子育て世代はとくに、そもそも新聞を読む余裕なんてないという人も多いと思うけれど、一つの情報を鵜呑みにせず、いくつものソースから当たる習慣というのは、身につけたほうがいいと思います。「考える力」って観察する力がないと鍛えられないので。将来、今ある仕事や地位を失って貧乏になる可能性は誰にでもあるけれど、調べて考えて得た「わぁ、発見!」という財産は誰にも奪えないんですよ。「そうだったのか!」という気づきから得た知識は、一生涯自分の物なので。年をとっても目減りしないから、持っているほうが人生が豊かで楽しいよってことは言っておきたいですね。
<第3回に続く>
Profile
ジェーン・スーさん
1973年、東京生まれ東京育ち。作詞家、コラムニスト。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のパーソナリティとしても活躍。
申真衣(シンマイ)さん
1984年生まれ。大阪府出身。VERY専属モデル。株式会社GENDA代表取締役社長。
『きれいになりたい気がしてきた』
『美ST』連載が待望の書籍化!“効かせ甲斐のあるお年頃”を迎えて改めて考える、美の楽しみ方と向き合い方とは。「どうせ生きるなら、好きな自分で生きていきたい」「誰に遠慮する人生じゃなし、自分のための美ですもの」「四十代も終わりかけになって、ようやく女が楽しくなってきた」。これから40代を迎える方も、いままさに同年代という方も、お年頃セカンドシーズンが楽しくなるエッセイ44本!(光文社刊)
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撮影/イマキイレカオリ(ジェーン・スーさん分) 西崎博哉<MOUSTACHE>【申真衣さん分】 取材・文/髙田翔子 スタイリング/村瀬萌子(ジェーン・スーさん分)