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トライアスロン出場・谷真海さん「家族」というチームで目指したパラリンピック

■ 息子のコトバ

「トライアスロン、いつ終わるの?」

 

息子も頑張っているからこそ
半端なことはできない

子供が生まれてからは、私のプライオリティは家庭が一番。そうは決めても、1歳ぐらいまでは予定通りにいかない子育てに〝もう自分の夢を追うことはできないのかも〞と悩みました。そんなときも救ってくれたのは、スポーツ。子連れ参加のバランスボールのレッスンで、汗をかきながらママたちと悩みを共有すると、心がすごく元気になったんです。「今は子育てを頑張るとき。それが私の役割なんだ」と割り切れるようになりました。スポーツの力ってすごいですよね(笑)。

4歳になる息子は、私がアスリートであり、東京パラリンピックを目指すことを応援してくれています。私の障害のことは詳しくは説明していませんが、生まれたときから足のないママしか見ていないので、息子にとってはきっと当たり前のことなんですよね。つかまり立ちの頃から、朝起きると私に義足を持ってきてくれたり、海から上がるときは夫が肩を貸してくれるのですが、最近は自然と息子が手を差し伸べてくれるように。やんちゃですが、その優しさにはホロッときちゃいます。小さな頃から当たり前に車椅子や腕のない人が身近にいるので、歩けないから車椅子、足がないから義足というふうに、息子は障害を〝その人の個性〞と捉えている気がするんです。

ときどき切なくなるのは「ママ、トライアスロンいつ終わるの? 東京パラリンピックはまだ?」と聞かれるとき。きっと、これが息子の本音。長期間離れることになる合同合宿には参加しませんが、 海外遠征などで家を空けてしまうことはどうしてもある。小さな子供にとってはむずかしい環境です。テレビ電話で泣かれてしまうこともあって、ママといる時間がもっと欲しいし、もっと甘えたいんだと思います。でも、そうは言わずに息子も頑張ってくれている。私もやるからには、半端なことはできないですよね。いつか大きくなったとき「あのときパパとママ、すごい頑張ってたよね」って、その姿を思い出してくれるように全力を尽くさないと。

「簡単には1位になれないんだよ」って、スポーツの厳しさも息子は知っています。

■ 私のコトバ

「面白い人生になってきた!」

 

足になっただけで
私自身は何も変わらない

私の障害は、そんなに大げさなことじゃないんです。今まで開いていなかった扉がたくさんあることに気づくこともできたし、 20、30代で新しいチャレンジをするきっかけもそう与えられるものじゃないと、マインドもポジティブに変わりました。

この号が出る頃には息子を連れて海外に個人合宿に行く予定。いい機会なのでホテルではなくホームステイをして、息子も現地保育園に通わせ親子留学形式に。送り迎えをしながらトレーニングも頑張るつもりです。たとえ前例がなかったとしても、その都度で自分自身のベストを考えた行動をする。そんなふうに思い切った決断ができるようになりました

2020年の東京パラリンピックは、家庭が一番というプライオリティを守りつつ〝子育てをしながら世界を目指せる〞という、ひとつの可能性を追い求める最初で最後のチャンス。私がトライアンドエラーをしながら歩んでいくことで、ママ・アスリートへの新しい道筋を作れたらという願いもあります。

あとは私の姿を見て、障害に対する意識が変わってくれたら嬉しい。ずっと周りに気を遣われないよう生きてきましたが、体の一部が義足になっただけで私自身は何も変わっていない。病気になったとき母からもらった〝神様は乗り越えられない試練は与えない〞という言葉の通り、試練はチャンスになり、想像もしなかった新しい道を歩み、今ここにいる。「面白い人生になった」と、谷真海という生き方を今、とても楽しんでいます。

©竹見修吾 一度は閉ざされかけた東京パラ五輪への道。「出場目指して最後まで駆け抜けたい」。

谷さんのHistory

1. 大学では、小学校の頃から憧れていたチアリーディング部に。2年生のときに骨肉腫を発症し「右足膝下を切断しなければ1年半」と命の期限を宣告される。
2. 病室で出会った恵美子さん。「太陽みたいに明るくて上品で、辛いときこそ笑顔でいる大切さを教えてくれた人」。
3. 谷さんのクラスはPTS4。一時は東京パラ五輪の実施種目から除外されたが、ルール改定によりすべての障害クラスに出場資格が。東京パラリンピックの道が再び拓かれた。
4. 世界が感動した招致スピーチ。「東日本大震災でもスポーツに助けられた」。
5. 出会って1年で結婚。「パラリンピックに導かれた気がします」。
6. 将来は子供の夢をサポートしてあげたい。

 

撮影/須藤敬一  取材・文/櫻井裕美  ヘア・メーク/小松胡桃〈ROI〉  編集/磯野文子

※掲載中の情報は2020年VERY3月号「連載・家族のコトバ」誌面掲載時点のものです。

 

■谷真海選手の出場種目スケジュール■

「トライアスロン 女子 PTS5」
2021年8月29日(日) 6:30 – 11:10

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