「お金ってなんで必要なの? 」何気ない子どもの質問に、 ドキッとしたことがあるママたちに向けて 。タッチーこと田内学さんの連載が復活!今回は、子どもの金銭感覚について悩むママにお答えします。
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ママのための「お金の教育」
悩み相談室
戸惑うママ Sさん(30代 専業主婦、5歳、2歳、0歳のママ)
某テーマパークに行ったとき、一緒に行ったお友だちがたくさんお土産を買ってもらったのを見て、5歳の娘が「なんで自分は一つだけなの?」と。家庭ごとのルールがあることは説明したのですが、「ケチ!」と言われて、モヤモヤ。また、娘と2歳の弟はしょっちゅうおもちゃの取り合いでケンカになるのですが、そのたびに娘が「同じのもう一つ買えばいいじゃん」と言うことも。なんでも簡単に手に入ってしまうと金銭感覚が狂うのではないかと心配で、買い与えすぎないようにしているのに…。
希少なのはお金?資源?労働力?
子どもと考えれば、「なんでも簡単に手に入る」とはならないはず
読者・Sさん(以下、S) 我が家はよく遊園地や水族館に連れていくのですが、5歳の娘とは「お土産は記念に一つ。金額も相談して買おうね」と約束しています。とはいえ、誕生日は特別にいくつかプレゼントをリクエストしてもいいことにしていますし、パパが出張のお土産をたくさん買ってきてくれることもあります。それでも、私は「なんでもすぐに買ってあげる」ことに抵抗があるのです。
田内 学さん(以下、田内) 実際に娘さんから、「ママはなんにも買ってくれない」と責められるようなことはありますか?
S お出かけをする際には「ほしいものは一つだけ買ってあげる」と決めています。ただ、スーパーに買物に行った際もその約束は守っておやつを買っているので、日常的に「ママなんて」というようなことは言われてはいません。ただ、ママはパパより厳しい、とは感じているようです。
田内 Sさんがお子さんにものを買い与えすぎることに抵抗があるのは、どうしてでしょうか?
S 私自身、金銭面で比較的厳しくしつけられてきたと感じているからです。誕生日やクリスマスを除いて、リクエストするたびに親に何かを買ってもらえるということはなくて。でもそのおかげで、お金についてはきちんと向き合って考えることができていると思います。ただ、客観的に見ると、我が家の子どもたちはかなり恵まれた環境で育っていると思います。それに気づいてほしいのです。たとえ周りのご家庭がどんなに買い与えていたとしても、それはそのご家庭の方針です。我が家はブレずに、あえて厳しくいきたいと考えています。
田内 なるほど。ではSさんは、お子さんにはどんな人になってほしいですか?
S 知性と品性のある人に育ってほしいと思っています。経済的にも自立してほしいですし、その上で、計画的にお金が使えるようになってもらえたらうれしいです。実は今、子どもたちのおもちゃの取り合いもすごくて。上の子はすぐに「同じおもちゃをもう一つ買ってくれればいいのに」と言いますが、そんなことで2つも同じものを買うのは、無駄遣いだと感じてしまいます。貸し借りすることで思いやりの気持ちを持ってほしいという、親心もあります。
不要なものを買う=作った人の
労力も資源も無駄にしてしまう
田内 「計画的なお金の使い方についてどう教えたらいいのか」とよく聞かれるのですが、個人的には知識を教え込むより周囲の大人の行動から学んでもらうのが早いと思っています。親が買物をする際に、「こういう理由があって、ママはこれにお金をかけているの」と解説してあげると、子どもがすんなり納得することもあります。そういう意味では、知性と品性を意識したお金の使い方として、ご自身が実践されていることは何かありますか?
S 使い方とは違うかもしれませんが…外食に行った際、お店を出たら支払ったほうに必ず「ごちそうさまでした」と伝えるようにしています。子どもたちもそれを見て、「ごちそうさまでした」と真似するようになってくれました。
田内 なるほど。お金を出してくれたことへの感謝の気持ちを、言葉と行動で表しているのですね。今ふと思ったのですが、感謝を伝える先がもっと増えると、お子さんにとってもSさんにとっても経済に対する新たな視点が生まれるかもしれません。パパやママが自分のためにレストランのお金を払ってくれていると理解しているから、お子さんもお礼を言うのですよね?ただ、モノを作る過程には必ず誰かの労働力も発生しています。レストランで料理を作ってくれる人がいるから、食事ができているわけです。お金を払うときには、その向こうに受け取ってくれる人がいます。それを踏まえて、レストランの人にも「ごちそうさま」を伝えられるといいと思います。さらに付け加えるなら、レストランで使われている食材にも目を向けるといいでしょう。モノの原料は、突き詰めると限られた自然資源です。昔の人が「お米一粒にも神様がいる」と言っていたのは、自然資源が限られていると知っていたから。「レストランでたくさん頼んで残してしまったけれど、お金をたくさん持っているから問題ない」という考えが間違っているのは、小さい子でもなんとなくわかると思います。労働力も資源も無駄にする行為だからです。たとえは大げさですが、億万長者が1兆円でピラミッド建設を始めたとしましょう。大金持ちにとって、1兆円は大した額ではないかもしれません。でも、建設にかかる資材や労働力がピラミッド建設に集中すれば、日本中で人手不足や資材不足、価格高騰が起こる可能性があります。そう考えると、希少なのはお金より労働力や資源と言えます。何が希少なのか、何がありがたいのかを考えられるようになると、成長した際に多角的な視野が持てる人になると思います。
S 今のお話を聞いて、娘があれこれほしがっても、うまく諭すことができそうな気がしてきました。我が家が余分に買いすぎなければ、他の子がそのおもちゃを手に入れられるかもしれないし、必要でないものを買うことで、作った人の労力も資源も無駄にしてしまうということですよね。
田内 そういう説明なら、お子さんも納得しやすいかもしれません。「お金が大切なもの」と口で教えるのは簡単ですが、私は大切なもの=希少価値があるものだと思っています。家族が大事なのは、かけがえがないからです。だから、決してお金だけが希少とは言えません。お金が希少という価値観がある子は、親がお金のことであれこれ言い争っているのを見て学んだのかもしれない。でも、Sさんのお宅ではそういったことは起こらなそうですよね。
S そうですね、今まで夫婦間でお金のやり取りで揉めたことはないです。パパがたくさんおもちゃを買ってきたとしても、彼に不満は言わないかもしれないです。
「自分が手放すことで誰かの役に立つ」
経験をフリマでするのもいい
田内 もし使わなくなったおもちゃがあるなら、フリーマーケットで売るのもいい経験になると思います。自分にとっては不要品でも、それがあると生活が豊かになると思って手に入れる人がいる。自分が手放すことで、誰かの役に立つということが学べるいい機会です。フリマアプリだとお金の移動しか見えないので、機会があったら自分で会場に立ってみるといいですよ。日本と米国の金融教育の違いはいろいろと挙げられますが、一番大きいのは、「誰かの役に立つから稼げる」という視点があるかどうかだと僕は考えています。米国は、子どもの頃からレモネードを売ったりベビーシッターをしたりして、第三者のために何かをしてお金をもらう機会がたくさんあります。誰かに役立つことをするとお金がもらえることを積み重ねることで、経済的視点が育っていきます。
S 「誰かの役に立つからお金がもらえる」という言葉が響いています。今までその視点では考えてこなかったかも…。
田内 これは経営者的感覚でもあると言えます。経営者は常に、自分の仕事が何に役立つのか、それで稼ぐためには何をしなければいけないということを考える必要がありますから。Sさんのご家庭はパパが経営者として働き、ママが専業主婦ということですが、例えば、「自分がほしいものはパパのお金で買っているけれど、じゃあパパはそのお金をどうやって手に入れているのか?」なんて話をお子さんとしてもいいと思います。お金の源流をさかのぼってみるような感じです。もし子どもには理解しにくいような事業内容なら、「パパの会社にお金を払ってくれる会社はどんなことをしているのか」と、元をたどっていく。どこかに必ず消費者が存在しているはずです。その構造が理解できると、お金やモノに対する考え方も変わってくるのではないでしょうか。
S 5歳の娘にはまだ理解が難しいかもしれないですが、折を見て伝えていけたらと思います。
田内 いきなりこういう話をされると、大人でも頭に入りにくいと思います。何かきっかけがあって、子どもが少しでも興味を持てそうなタイミングで伝えられるのがベスト。冒頭でお話があったように「ケチ」と言われたら、家に帰ってからその話をしてみるとか。もしかすると「ケチと言われて、ママは傷ついた」と伝えるだけでも、お子さんにとって胸に響くものがあるかかもしれません。
S 確かに!モヤモヤしたのは、そう言われて私が傷ついていたからですね。とてもスッキリしました。なんでも買ってあげて金銭感覚が狂ったらどうしようという心配ばかりしていましたが、労働力と資源を大切にするという視点に気づいて、私の視野も広がった気がします。親にとっても勉強になりました。ありがとうございました。
田内学さん
1978年、兵庫県生まれ。2001年、東京大学工学部卒業。2003年、同大学院情報理工学系研究科修士課程修了後、ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーダーに。2019年に退職後は、子育てのかたわら、金融教育家として講演や執筆活動を行っている。@tauchimnbで経済やお金の情報を発信中。
『きみのお金は誰のため
ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』
田内学著¥1,650/東洋経済新報社
中2の優斗はひょんなことで知り合った投資銀行勤務の七海と謎めいた屋敷へ。そこにはボスと呼ばれる大富豪が住んでおり「お金の『3つの謎』を解けた人に屋敷を渡す」と告げられる。大人も子どもも一緒に読みたいお金の教養小説。
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イラスト/犬ん子 撮影/吉澤健太 取材・文/樋口可奈子 編集/中台麻理恵
*VERY2025年2月号「ママのための「お金の教育」悩み相談室」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。