「私が生まれたときママは何をしていたの?」
■ 娘のコトバ
「私が生まれたときママは何をしていたの?お買物?」
娘に伝える
「産みの母」の存在
産みの母の存在を娘にいつ伝えるか。私がお世話になっている団体では早めに子どもに話し、小さいうちから自然に受け入れたほうが子どものためになるという考えでした。私は娘が2歳半を過ぎた頃から、産みの母の存在を話しています。あなたにはママ以外にも産みの母がいること、産みの母があなたを託したのは、あなたの将来を思ってのことであること。娘は「私が生まれたとき、ママは何をしていたの?お買物?」と(笑)。時間をかけながら少しずつ理解してくれたらいいと願っています。
家族とは最初からあるものではなく、時間とともに徐々に作られていくものだと今では感じるようになりました。それまでは、急に母親になり、この子の母は私で良いのかと葛藤もありましたが、それでも毎日一緒にいて、ともに過ごす時間が積み重なれば重なるほど、家族になれることを実感中です。
そしてそこから家族の多様性についても思いを馳せるように。それぞれの家族にそれぞれの形があり、同じである必要はないんだなって。例えばLGBTQの家族の形。イベントで多様な家族像について意見交換したり、公私ともに交流する友人もできました。
自分の世界を持ち始めた娘の成長は頼もしくも寂しくもあります。
対話できる家族のあり方や
家族のさまざまな形を広めたい
現在はTBSに戻り、アナウンサーとしてではなく報道記者として仕事をしています。以前と大きく意識が変わったのは、経験者だからこそ寄り添える取材をしたいと思っていて。まず取り組んだのは、子どもを特別養子縁組に出さざるをえなかった生みの母の取材でした。
また、NYで出合った「オーラルヒストリー」という分野を東京大学学際情報学府にて研究中です。報道というのは、客観的事実が重要ですが、「オーラルヒストリー」は当事者から話を聞き、個人の〝主観的事実〟を大切にした手法です。人の記憶を通して歴史を考えます。個人的には相談員の鈴木さんが作った特別養子縁組の絵本を読み聞かせるYOUTUBEの発信もしていく予定です。
次なる課題は多様化する家族間のコミュニケーションの取り方。私自身、厳しい父のもとで育ち、子ども時代は自分の思いを家族に伝えられなかったので、次世代の子どもたちにはもっと対等なコミュニケーションを通して家族の関係を深めてもらいたい。現在、姫路女学院高校で月に一度、リベラルアーツの授業をしています。高校生が家族と対話することで、仲の良い家族はもっと仲良く、もし関係性に問題がある場合には変化のきっかけになってほしいと思っています。
これからもますます多様化していくだろう家族間のコミュニケーションを私の経験も加味しながら模索していくことをテーマにしていきたい。さまざまな家族の形があることを受け入れる社会を作る、その一端を担えたらと思っています。
久保田さんのHistory
■ PROFILE
久保田智子(くぼたともこ)さん
1977年広島県生まれ。大学卒業後、2000年にTBS入社。アナウンサーとして「報道特集」などを担当。2017年TBSを退社後、夫とともにNYへ。コロンビア大学にて修士号を取得。2020年帰国、その後復職、現在に至る。
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撮影/吉澤健太 ヘア&メーク/石井織恵 取材・文/金沢由紀子 編集/永吉徳子
*VERY2022年7月号「連載・家族のコトバ」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。