生活リズムも価値観も自分優先ではなくなったけれど、本当は誰にでもあるずっと変わらず好きなことをインタビューする「ママですが、これが好き!」。
史上最年少で芥川賞作家となった綿矢りささんは〝漢字好き〟が高じて、中国語検定のHSK5級に合格するほど中国語レッスンにハマっているそう。3月7日発売のVERY4月号では、その魅力について語っていただきました。本記事では、書き続ける意欲の源や出産がもたらした作品への変化、6歳の息子さんに伝えたい教育などについて伺いました。
若くしてすでに作家人生が20年を超える綿矢さんですが、私生活では6歳の息子を持つママでもあります。
マルチロールになったことで書きたい世界が二分化
——出産や子育てを経て、作風に変化や影響はありましたか?
今まで以上に日常生活と小説の世界が切り離されてきたので、生活にまつわることはエッセイに、日常から離れた恋愛や人生の悲喜こもごもは小説で創作したいと思うようになりましたね。
以前は2つの世界の乖離はそんなに大きくなかったのですが、作家以外にも「妻」や「母親」の顔が加わりマルチロールになったことで変化しました。フィクションの世界に与える影響はまったくないのですが、エッセイに書きたいことが増えました。
フィクションは、自分が好きな映画や小説などから、「こういう作品を作りたいな」という思いが湧いてくるので過程が別物なのです。
——20年以上も執筆し続けることは並大抵のことではありませんが、やはり産みの苦しみは大きいですか。
書きたいものがある時はいいのですが、それがない時は本当にどうしようもないというか。まさに「万事休す」になるので、それが一番大変です。
執筆中も、想像ではすごく鮮やかに場面が描けているのに、頭の中のその世界を正確に言葉で表現できない時は、苦しいです。あとはシーンとシーンをつなぐ〝ブリッジ〟が思い浮かばない時とか。もっとこういうシーンにしたいのに具体案が見つからない!って、苦しくなります。
——その渦中にいる時はどのような対策を?
「足りていない」と自覚しているものをひとまず放り込んでおいて、何回か見直しているうちに育てていく、というのが地道ですが一番効果のある方法ですね。突然パッとひらめく、なんて、もちろんそれが一番なんですけど。
そうならない時の方が多いですし、「これはひどいな」という段階から少しずつ、自分ができる限界まで完成度を高めていく。時間と見直しで文章を育てる感覚です。
——長年、執筆し続ける意欲はどこから湧いてくるのでしょうか。
17歳の時から、「こんなこと書いちゃっていいのかな」と思いながら書いている時が一番楽しくて(笑)。主人公がめちゃくちゃな事をし始めた時とか、怒られたら直そうと考えながら思いつくまま自由に書いている時がすごく楽しいんです。
私自身、親に厳しく育てられたこともあるのか、自分が常識として持っている価値観からかけ離れ、実生活ではあり得ない感情の飛躍や行動の奇抜さを表現する楽しさがモチベーションになっている部分が大きいです。
物怖じせず実力を発揮できる人に育ってほしい
——本誌では息子さんと本の趣味が違う、というお話もありましたが、どんな本を読みましたか?
年中さんくらいの時は、『めん たべよう!』(小西英子著、福音館書店)『サンドイッチ サンドイッチ』(同)など、見開きでおいしそうな麺類やサンドイッチの絵が描いてあって、これは息子にも刺さりました。あんまり好きすぎて、全部暗記してたくらい(笑)。私も読んでいる時は、気分が上がりました。
息子は私と違って物語があんまり好きではないようで。自分のお気に入りだった絵本にも見向きもしてくれなくて……泣ける名作を薦めましたが、湿っぽいのは苦手なようで、一回きりで「もういい」なんて反応でしたね。
クイズやなぞなぞが入った仕掛け絵本は好きなんですけど。あ、一つだけ感動系のお話で気に入ってくれたのが、『よるくま』(酒井駒子作、偕成社)。男の子の夢の中で迷子のよるくまと一緒にくまのお母さんを探しに行く話です。
——綿矢さん自身が経験した教育で受け継いでいきたいものはありますか。
当時は親に言われてイヤイヤ出場していたピアノの発表会や英語暗唱コンテストは、今になって思えば、集中して練習し舞台上で成果を出す、といういい訓練になりましたね。それは親に感謝しています。
息子にも物怖じせずに実力を発揮できるような人に育ってほしいので、そうした経験を積ませてあげたいですね。
反面教師という点では、親は生まれた時からずっと京都に住んでいて、「新しい世界を見せる」というより、生まれ育った環境でどれだけ適応して育てるかを重視していたので、少し閉塞感があったかもしれません。
息子にはさまざまな経験を通じて広い世界を見せて、人生でどんな変化があってもひるまず向き合っていけるように手助けできたらと思っています。
●綿矢りさ(わたやりさ)
女子高生と小学生が風俗チャットでひと儲けを企むという衝撃的な小説『インストール』で作家デビュー。当時17歳の高校生で同作を発表するや、第38回文藝賞、第15回三島由紀夫賞を立て続けに受賞。発行部数が60万部を突破し、上戸彩さん主演で映画化も。
デビュー作品として異例のヒットを飛ばしてからも、早稲田大学在学中に次作『蹴りたい背中』が第130回芥川賞を受賞し、当時19歳で史上最年少受賞記録(23歳)を更新。
その後も『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』『ひらいて』など、数々のヒット作を発表し、いずれも映画化されるほど多くのファンから愛されています。
綿矢さんの一人時間の過ごし方や、子育てエピソードは本誌のインタビューで! VERY4月号をチェックしてみてください。
【綿矢さん衣装】白ブラウス¥33,000(TELOPLAN)ピアス¥254,100リング[右手]¥514,800[左手]¥648,200(すべてTASAKI)
赤ワンピース¥165,000(KEITA MARUYAMA)ピアス¥698,500リング¥1,914,000(ともにTASAKI)
KEITA MARUYAMA 03-3406-1065
TASAKI 0120-111-446
TELOPLAN カスタマーサポートcustomer@teloplan.co
撮影/佐藤航嗣〈UM〉 スタイリング/宮本祐希 ヘア・メーク/陶山恵実〈ROI〉 取材・文/馨都