VERY November 2021
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November 2021

2021年10月7日発売

890円(税込)

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『旦那が突然死にました。』著者・せせらぎさん「今の人生を自分の手で輝かせるしかない」

大好きな夫とかわいい2人の子ども。平凡ながらも幸せな日々がずっと続くと信じていた……。コミックエッセイ『旦那が突然死にました。』で描かれるのは、「配偶者の突然の死」という現実。突然奪われた当たり前の日常。悲しみに暮れる間もなく、やってくる死後の手続き、仕事、育児……。悲しみと絶望の中で新たな人生を模索する著者のせせらぎさんに話を聞きました。

※掲載中の内容は、VERY2021年9月号(8/7発売)取材時のものです。

 

❝「打ち合わせが終わった」と
連絡をもらうだけでドキドキするほど
本当に好きだった❞

「その日」は突然やってきた

   旦那さんが亡くなったのは、たまたま夫婦喧嘩の最中でせせらぎさんが子どもを連れて実家に帰っていたときでした。

あまりに突然のことで、現実を受け止めることができませんでした。連絡を受け駆け付けたときにはもう、死亡確認が終わっていて救急隊も帰った後で……。刑事さんたちがやってきて。ビニールをかぶせた靴を履いたまま部屋に上がって現場検証しているのを見て、「ああ、ドラマみたいだ」と思ったことを覚えています。「なんでこんなことに?」「あなたは何をしていたんですか?」「スマホのパスワードは?」と立て続けに質問されました。死因のわからない段階だったので、警察は事件性があるのか調べなくてはならないのだと頭では理解はしていても、いったい何が起きたのか、こっちが聞きたいという心境でした。私が実家に帰っているとき、夫はたった一人で亡くなっていたのです。健診も受けていたし、命にかかわるような持病もなかったのにいったいなぜ、と思いました。当時は夫婦喧嘩の真っ最中。これまでも小さな諍いや喧嘩はあったけれど、彼に対してここまで腹が立ったのははじめてでした。なぜ、こんなときに? もしも私が実家に帰らずそばにいたら結果は違っていたのではないかと、何度後悔したかわかりません。友人は「こんなタイミングでないと、きっと別れられない運命だったんだよ」と言ってくれましたが。

今思えば彼は体調が悪くて、しんどかったのかもしれません。家族で出かける時間になっても起きてこなくて、寝起きに普段は言わないようなひどい暴言を吐かれて、「人としてそれはどうなの?」と許せなくなってしまったんですよね。それから数日間、会話もせず、目も合わさずに過ごして、私はそのまま実家に帰りました。それがまさか永遠の別れになるなんて思ってもみませんでした。葬儀の手配、銀行口座や保険の手続き。人が死ぬと残された家族がしなくてはいけない作業が膨大にあります。警察署で死亡届を書かされたとき、手が震えてしまって彼の名前がなかなか書けませんでした。認めたくない、信じられないと思いながら何枚もの書類にサインをしました。

 

「最愛の人」を亡くすということ

   亡くなった旦那さんはどんな方だったのですか?

私にとって唯一無二の存在でした。新卒で入ったデザイン会社で上司と部下という関係で出会い、付き合うようになりました。仕事をする上ではとても厳しい人で、新入社員の頃から何度泣かされたかわかりません。結婚することになったときは彼を知る社内の人はみんな驚いていました。飛行機に乗り遅れたり、部下の結婚式を寝過ごしてすっぽかしたりといいかげんなところも多かったけれど、仕事に対して妥協を許さない姿勢や、多くの人に愛される人柄を尊敬していました。

こんな人には私の人生の中で二度と出会えないだろうと思って結婚した最愛の人です。彼といる時間が人生の中でいちばん楽しくて幸せで、子どもが生まれてからもそれは変わりませんでした。子どもを抱っこしながらでもいつだって手をつないで、仕事のある平日でも毎日2時間は夫婦でしゃべっていたと思います。「いま打ち合わせが終わった」とか仕事中に連絡をもらうだけでドキドキするほど、本当に好きだったんですよね。仕事上の師匠であり、恋人であり、子どもたちのお父さんでもある。そんなかけがえのない相手を突然亡くして、これからどうしていいのか全く先が見えなくなりました。

彼が死んだ次の日くらいからは、無意識のうちにスマホで「死別 幸せ」とか検索していました。こうなったからには、夫に先立たれても最高に幸せに生きている人を見つけたかったんですよね。でも、たいていそこにあるのは、愛する人を亡くして、つらい悲しいという体験談ばかり。子どもは当時まだ1歳と3歳でした。そんな状態で夫を亡くした人がこれからどうしたらいいのか。誰も教えてくれないし、どこにも書いてありません。私は、当時勤めていた会社を辞め、育児の合間に彼の仕事を手伝っていたので、夫の死と同時に仕事も失い、交友関係も希薄でした。何も持たない状態で真っ暗闇に突き落とされたようなものです。

そのときに思ったのは「こんなにつらい状態のまま生きていくのは絶対嫌だ」ということ。人よりつらい思いをする分、なんの根拠もないけれど幸せが手に入るはず。そう信じて、そのためならなんでもやってやろうと思うようになりました。今まで通りの人生の中で彼だけがいないならもう生きていく自信がありません。死んで横たわっている彼を見て、ああ人は死ぬと、からっぽの物体になってしまうんだなと実感しました。私自身も今日明日突然死んでしまうかもしれない。今までできなかったこと、やってみたいなと思ったこと。なんでも「あ、やりたい」と思ったその瞬間にはじめるようになりました。

 

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