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そのひと言が“教育虐待”!?専門家に聞く“教育熱心”との違いとは?

新型コロナウイルスの影響で、長らく続いている子どもの休校。子どもの学力低下を不安に思うあまり、勉強させたい気持ちもつい強くなりがちです。子どもの能力を少しでも伸ばしたい、より良い環境を与えてあげたいと思うのは、親として当たり前の感情です。ただ、その熱心さが行き過ぎると、子どもを傷つけてしまう怖さも。“教育熱心”と“教育虐待”のボーダーラインはどこにあるのか、二児の母で臨床心理士の武田信子さんに聞きました。

◉武田信子さん
臨床心理士。武蔵大学人文学部教授。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。自身も二児のシングルマザー。教鞭をとる傍ら、子どもたちの養育環境をより良くするための様々な研究、活動に尽力している。

「子どものため」「将来のために」は危険信号
今の子どもをきちんと理解することを忘れずに

はじめにお伝えしたいのは、教育虐待は親の責任ではなく、日本の社会や学校教育を含めたこの国の現状が原因だということ。都内の思春期病棟の診療でも、地位も学歴もある裕福な家庭の子どもが精神科で苦しんでいる姿をたくさん見てきました。私は海外でも子育てをしてきましたが、親も子どももこんなに苦しむ必要はありません。

 

日本人には「高学歴・高収入=幸せ」という価値観が根付いていて、それを与えるのが良い親だと思っている。また、母親の中には子育てを成功させることにすがっている人もいます。それは、未だに子育てが母親の責任が強いと思われているから。バックグラウンドには社会の問題があると強調したいですね。

 

子どもの成果=自分の評価と
一致させないこと

 

教育熱心と教育虐待の一番の違いは、前者は子どもが幸せになればいい、後者は子どもを期待通りに育てれば親として成功と考えていること。自分が虐待をしているかわからないという人もいますが、虐待に当たる言動としては、子どもを思い通りにしたくて脅しの言葉をかける、睡眠時間を削る、体調の異変を認めない、交換条件で無理なことを強いる、遊ぶ時間を与えないなどです。「子どものためを思って」「将来のために」と言い訳をしても、これらは子どもの発達プロセスを無視して親の理想を押し付けているだけであり、虐待に当たるので要注意です。

 

教育虐待は勉強においてよく用いられますが、幼児期の習い事や学習にも当てはまります。今は1歳から習い事をさせる親もいますし、幼稚園児でもお稽古で予定がびっしりという子もいますが、好ましくありません。遊びや無駄と思える時間は子どもにとってとても重要で、レクリエーション(recreation)というように、クリエイティブになるには休憩が必要だということ。食休みなしにそのまま食べ続けるのが危険なのと同じです。小学校入学前に身につく感性や五感、非認知能力がベースになって、色んなことに挑戦したいという気持ちが湧くもの。その力を育めた子は勉強も楽しめますから、それを奪う幼児期の詰め込みも虐待と言えるでしょう。

 

教育虐待の影響はすぐに表れるとは限りません。心も脳も傷つき、鬱状態になる。自己効力感が持てず無力感を抱える。常に他人の評価を気にしてしまう。自己決定ができないなど様々で、成長してから症状が出ることもあります。

 

 

子どもを褒めなくていい
認めるだけで十分

 

最近では「褒める育児」という考えも流行っていて、子どもの自己肯定感を上げるために一所懸命褒めようと意気込む親も多いですが、わざわざ褒める必要はなく、認めてあげるだけで十分です。「公園でたくさん走った」と言われたら「そうなの、楽しかったね」、勉強ができたら「よかったね」でいい。本来は何かができるようになっただけで、子どもは十分に嬉しいもので、親はそこに寄り添えばいいんです。できたことを褒めると、次は褒められることをやるようになってしまいます。そして大事なのは、成功も失敗も認めてあげること。「失敗したね、だったら次はどうしようか」と言って一緒に考える。そうしたら、子どもはまた頑張ろうと思えますから。

 

名古屋の事件以降、加熱する中学受験が問題だと騒がれていますが、地元の環境が不安で受験が必要なケースもあるでしょうし、勉強が好きな子にとっては受験もチャレンジングで楽しいでしょう。重要なのは、受験の意味をどこに位置づけて、親がどう説明するか。合格がゴールではなく、途中経過の一つだと親がしっかり理解し、子どもにも示す必要があります。

 

今、自分が教育虐待をしているかもと不安なら、少し意識して子どもから離れてみましょう。例えば、親も子も、多様な生き方をしている大人たちとの関わりを増やすこと。親が子育て以外の趣味や仕事を持つこと。子どもを周りと比較しないこと。子どもの成果と自分の評価は別であると理解することも重要です。
今は、自分の子どもを経済界で成功させるために、いかに他の子よりもよい位置につけさせるかが重要に思えて、競争意識で孤独に頑張ってしまう時代。でも、人はそれぞれの個性を生かして共同社会で生きてこそ幸せ。自分たちの生きる社会全体をよくするために、周りの大人と一緒に子どもたちを育てる意識を持ちましょう。

 

何より重要なのは、自分がされて嫌なことは子どもにしないこと。子どもを一人の人間として扱い、意思を尊重することを忘れないでほしいですね。

 

◉教育虐待とは
子どもの人権を守る「カリヨン子どもセンター」のスタッフの間で使われていた言葉で、2011年の子ども虐待防止学会で、武蔵大学の武田信子教授が広めた概念。教育・しつけの名の下に行われる強制や過干渉など、子どもの発達を無視した行為を指し、勉強だけでなく習い事やスポーツも含まれる。2016年に名古屋で起きた、中学受験を巡り父親が息子を刺殺した事件で注目されることに。

撮影/古本麻由未 取材・文/宇野安紀子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2020年4月号「受験勉強だけじゃない、過剰な習い事も… もしかして、教育虐待?」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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