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上野千鶴子さんに聞いた、VERY世代の「女の子だからお受験させる」発言の背景

時々耳にする、VERY読者さんの発言が編集部で話題になりました。
「うちは女の子だから小学校受験をさせようと思って」。
ん? 女の子だから? 受験するもしないも選択肢。
なのに、つい、女の子「だから」と口をついてしまうことってありませんか?
「受験勉強でガツガツ勉強するより、のびのびと育ってほしいから、付属小学校を受験させた」。
「娘には『稼ぐ力』より『ある程度の学歴、学力』があって、『柔軟性や許容力』のようなものを身に付けてほしい」。
「女の子は、東大に入れなくても名の通ったランクの大学に入れれば御の字だと思っている自分がいる」。
「心のどこかで、女の子なら、バリキャリになるより良縁に恵まれる方がいいと思っている。」
これらはすべて、実際に都内在住ママたちから聞いた話。
VERY世代がついそう考えてしまうのはなぜなのか? 社会学者・上野千鶴子さんにお話を伺いました。

「“仕事してほしいけど、
女の幸せもつかんでほしい”
それを両方背負ったVERY世代は、
娘にこんな重荷は味わわせたくない。
そう伝わってきたわ。」

2019/10/uenochizuko02.jpg

――「うちは女の子だから小学校受験をさせようと思って」。自身は学生時代に勉強を頑張っていたり、いま、仕事をバリバリやっていたり、“男女の平等”に人一倍敏感なはずのママたちからも、自分の子どものこととなると「男の子だから」「女の子だから」というフレーズが発せられることが気になります。

 

 このアンケート回答を読んでいると、娘にも学歴は必要としながらも「女の子は勝ち抜く力より、情操教育に重きを置きたい」、男性に負けずバリバリ働く女性をかっこいいと認めつつ、「自分の娘にはそこまでは求めない」というママが多いようね。きっとあなたたち世代は恵まれている分、大変な世代なのね。疲れてしまっている感じが伝わってくる。

 

――「恵まれている分、大変な世代」とはどういうことでしょうか?

 

 あなたたちの母親が若い頃は、女が働こうとしたら「結婚は無理」、結婚したら「仕事を続けるのは無理」ってどちらかは自動的に免除されたのよ。でも今、あなたたちへの期待は二重負担。母親たち世代は、娘に「男性と同じように働いてほしい」「でも女の幸せもつかんでほしい」「片方だけじゃ一人前じゃない」って。だから、疲れたあなたたちは、自分の娘たちには「こんなに疲れる人生は、送らなくてもいいのではないか」と思っているのじゃないかしら。
古い価値観というより、世代が一巡してまわってきたツケね。「女向きの人生」、それは頑張らなくてもいい人生。でもきっと息子にはそんなこと言わないわよね。

 

―― たしかに私たちの母親の時代とは大きく違いますよね。

 

 あなたたちの母親の世代(現在65歳前後) の女子の大学進学率は約8%だったの(*参考統計①)。その一方、結婚適齢期での既婚率は非常に高くて(*参考統計②)、無業率も高い。既婚女性が働く受け皿が社会になかったのね。企業が受け入れてくれるのは結婚までの腰掛けか子育て後のパートのおばさん。もしこの人が男性と同じように働いていたら、夫より活躍したかもしれないという力量のある主婦を山ほど見てきたわ。ところが、社会が変わり、雇用機会均等法ができた。ならばと、母の果たされなかった望みが、娘への期待となって肩にのしかかった。まずは教育投資をして、学歴をつけさせた。女も企業に入れる時代になったしね。そして元気な祖母たちが孫の教育にしゃしゃり出てくるようになったのも、また現代の特徴ね。

参考統計1
参考統計2

 

結婚が盤石だと思っている
あなたたちが不思議だわ

 

――そうだとしても、親が教育における期待値に男女差をつけてしまっていいのでしょうか?

 

 結婚がデフォルトだと思っているんでしょ。さらに、その結婚が盤石だとまだ思っているんじゃないかしら? 実は数年前にもVERYの取材を受けたのよ。主婦雑誌だと思っていたから、へ〜VERYから私に取材が来る時代になったんだって感心して、送っていただいた見本誌を見てみたの。そうしたら表紙に驚くべきキャッチコピーが書いてあって。「基盤のある女性は、強く、優しく、美しい」(※取材当時)。私、大笑いしちゃった。

 

―― えっ

 

 基盤というのは英語に訳すとインフラストラクチャー。マルクス用語では下部構造、つまり、人間の生活を支えるものを意識とかイデオロギーを指す上部構造と、経済力や物質的な価値を指す下部構造に分けることができて、インフラというのは下部構造のこと。つまりそれは夫と安定した収入ね。それを提供してくれる夫がいれば、そりゃ「強く、優しく、美しく」いられるでしょう(笑)。

きっと、自分の子どもの教育に男女差をつけてしまう人は、子育てと仕事の両立に疲れ、娘には結婚で基盤(下部構造) をゲットして生きる方法だってあるよ、っていう選択肢を示しているのね。でも、この人たちが、どうして結婚が盤石なものだと信じられるのか不思議でならないわ。

 

――結婚していた方がなにかにつけて安定感や余裕はあると思う方は多いのかもしれません。

 

 でも、あなたがたが基盤をゲットできた時代と、20年後、娘が結婚して基盤をゲットできる時代の社会環境は大きく違うだろうということは自覚してほしい。もっと上の世代は結婚しない選択肢はなくて、離婚する能力もなかったから離婚率は低い。でも今は非婚率も離婚率も上昇している。あなたたちのまわりでも離婚している友達はざらにいるでしょ?アメリカでは2組に1組が離婚。日本でも今は女性たちは子どもがいても我慢しない。あ、でも離婚できない社会より、離婚できる社会の方がずっとマシ。(参考統計③)。

 

――たしかに。友人知人に「離婚した」と報告されてもそれほど驚かなくなりました。

 

 それにそもそも絶対結婚ができるだろうという考えも甘いかも。一生の間に一度でも結婚したことがある人の割合を「累積婚姻率」というのだけど、近代化とともに上がって、1960年代のピークには男性が97%、女性が98%。猫も?子も結婚していて、おひとりさまなんてレア、規格外だった(笑)。それをピークとしてずっと下がり続け、反対に、一度も結婚経験がない人の割合を「生涯非婚率」というのだけど、最新のデータだと男の4人に1人、女の7人に1人(参考統計④)。しかもこの「生涯非婚率」は、50歳の時点で一度も婚姻経験がない人の割合。今の30代の生涯非婚率は男が3人に1人、女が5人に1人になるだろうと予測されている。その子どもたちの時代になったら、この数字はもっと上がるでしょうね。

 

――既婚率98%! 今は選択肢が多いから、悩みが増えています。

 

 それに男性の既婚率と年収の関係(参考統計⑤)。見事に比例しているの。つまり、金のある男しか結婚できない(笑)。女性にとっては、夫のシングルインカムで暮らしていけるかどうかってことよね。年収1000万円とは言わないけれど、600万円超ほしいってなる。じゃあ、そういう男性が同年齢人口のなかにどれくらいいるかっていうと、平均所得も減ってきているし、昔に比べたら、それも少なくなってきているのよ。

 

仕事を持っていることは、
マストです

 

――ということは、女性も仕事を持っていた方がいいし、そのためにも男女差なく教育は受けた方がいいということですよね?

 

 仕事はした方がいいも何も、ダブルインカムは今やマストです。女の子への教育投資については、女性の進学率はどんどん上がっているのに、これまでは専攻にジェンダー隔離がありました。文系や語学系、芸術系のいわば「虚学」は女子が圧倒的に多かった。一方、医学、工学や経済学、法学は「実学」。女子の進学は少ない(参考統計⑥)。教育投資も投資、つまりインベストメント(投資) は将来のプロフィット(利益)を求めるものなのになぜ投資効果の少ない専攻を女子は選ぶのか? それは女性が非合理的だから、という説に対して、フランスの教育社会学者マリー・デュリュ=ベラは著書『娘の学校』のなかで「合理的選択だ」と説明した。女子の教育投資には、2つの市場があって、その1つは結婚市場。もう1つが労働市場。これまでの女子の教育投資はもっぱら結婚市場に向けられていた。理由は、労働市場で将来女性が到達できる年収や地位よりも、結婚市場を通じて夫から得る年収や地位の方が高い蓋然性があるからって(笑)。だから、高学歴になっても、結婚しやすい専攻分野に行くのよ。男を脅かさない女性と言ってもいいかもね。「女子力が高い」「教養のある才媛」が結婚市場では人気だから。

 

――女子力……。

 

 でもフランスも日本も、これは80年代までのこと。90年代になってからは、高学歴女子の資格志向が強まった。文系だと法学、理系は医学・保健系が女子学生数が増えているわね。弁護士や医者は手に職系の高給版よね。その結果、医師国家資格試験も司法試験も合格者の女子比率が上昇して3割を超した。なのに医師国家資格試験は合格者の女子比率が3割まで伸びてからずっと横ばいだったのよ。ヘンだな……と思った女性医師たちもいた。そこにバレたのが、昨年問題になった東京医大不正入試。医学部入学時点ですでに女子学生数を抑えるゲート・コントロールがあったことをデータが物語っていた。

参考統計3
参考統計4
参考統計5
参考統計6

 

将来の子どもたちには、
リスクマネジメントできるように
選択肢をたくさん与えなさい

2019/10/VERY_201909_253.jpg
◉上野千鶴子さん/東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクション ネットワーク理事長。日本における女性学、ジェンダー研究の第一人者として、数々のベストセラーも発表。2019年4月の東京大学入学式での祝辞が大きな話題を呼んだ。趣味はスキーやドライブというアクティブな一面も。

―― 仕事も子育ても両方頑張らないといけない、でもまだまだ見えない性差別はある。そんな時代に、私たちが子どもに教えられることはなんでしょうか?

 

 競争に勝ち抜くことだけがベストではないわ。誰もがそんなスーパーウーマンでもなければエリートでもない。ビッグな幸せじゃなくてもそこそこの幸せでいいのよ。仕事も結婚も両方ほしいというのは自然な要求だと思うし、子育てが人生の最優先課題になる一時期もある。だからこそ、そこそこの自分がそこそこの夫と助け合って生きるためには、やっぱり交渉力を身に付けなきゃね。

子育てでテンパるのは当たり前。子育てってね、夫婦が戦友になれる生涯最大のチャンス。子どもが大きくなれば、人間力も試される。そのチャンスを逃してはいけない。子どもには、ママとパパが互いにちゃんと協力と交渉をしているところを見せるべきよ。夫を単なるインフラにしちゃダメ! そういえば昔、「夫はATM」なんていう言葉があったわね(笑)。

 

――それ、聞いたことあります。

 

 それと、子どもに人生の選択肢をたくさん与えること。最大のリスクマネジメントになるわ。あれがダメならこれがあるさって柔軟に。語学力は武器になるわね。でも語学が大事ってなると、すぐに幼児期から英語教室に行かせたがる親がいるけど、そうじゃなくて語学力なんて経験を通して後から身に付くものだから、人とコミュニケーションをとりたいという動機や、学びたいという意欲を持つことが大事。小さいときから海外を連れて歩くのもいいし、あ……パックツアーはダメよ(笑)。最近は国内にも外国人コミュニティがたくさんあるから、そこでも異文化体験はできるわね。子どもを連れて歩くのって一見大変そうだけど、子どもって他人の家のドアを、まるで自動ドアのように開けてくれるものよ。

 

撮影/植本一子 取材・文/嶺村真由子 編集/城田繭子

*VERY2019年9月号「“男女の不平等”には敏感なはずの私たち。でも、子育てではつい言っちゃっていませんか? 女の子だから小学校受験させる の因果関係を、上野千鶴子さんに聞いてみた」より。
*掲載中の情報は、誌面掲載時のものです。

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