子育て、夫婦関係も
絶対悲観主義で
──仕事への構えはたとえば子育ての構えにも応用できるのではないかと。私の子どもも思ったのと違うというか、むしろ正反対にみるみる育っていって。
そりゃそうですよ。違う人間ですから。
──他の人が何考えているかわからない、とわかっていても、自分の子どもはなんとかなるんじゃないかと思っている親も多いのではないかと。
僕はですね、絶対悲観主義とも通じるのですが、自分のことは絶対に棚に上げないようにしているんです。子どもを育てているお母さまに申し上げたいのは、じゃあ、あなたはどうだったんですか?ということなんですよ。ご両親の思いどおりになりましたか?
──耳が痛いかも。
なるわけないんですよ。人間っていうのはひとりひとり人格を持っているわけで、そこが人間の尊さ。
──本の中に「成功体験に復讐される」と書かれていましたが、②の「うまくいった」が続くとしたら。
成功と失敗というのはカテゴリーなんですよ。それに対して「うまくいった」というのは程度問題ですね。意外とうまくいったけど、それは成功体験ではない。勝ち組だとか、負け組だとか、あの人は人生の勝利者だとかいうのは、程度問題でしかないものを勝手に成功とか失敗とか決めつけてるだけです。
──結婚にも同じことが言えますか?
結婚に成功も失敗もない。結婚は生活として続いていくことに意味があるわけで、非常に事後性が高いもの。この人と結婚して成功したとか失敗したとかではなく、それが良いものであるようにやっていくしかないわけです。結婚生活は仕事ではないけど、まったく違う人と時空間をともにして、そこに婚姻という制度も入ってくるので思いどおりにはならないわけですが、やってるうちに折り合いがついていく。だから30年やってみれば、と。もちろんどうしても嫌だったらやめればいいんだけど。
──離婚する人は失敗したと思ってますよね。
結婚、離婚というのもカテゴリーです。DVとか極端な例は別ですけど、「ちょっとうまくいかなかったな」という程度問題の話で。
──例えば、夫にがっかりしたり、子どもの将来を心配しているママたちがいます。
「VERY」の読者の方はよく鏡の前にお立ちになるんじゃないかと思うのですが、その時にヘアスタイルやお化粧のノリを確認するだけじゃなく、自分の目を見ていただきたいですね。その目の奥にある心を見て「自分はそんなに完全な人間かな」と思っていただくだけで、それに対する考えも変わっていくと。宗教家みたいなことを言ってますが、自分を棚上げしないことが大切。
──私自身、これまでの人生を振り返って「こうなるといいな」と思ったことはほとんど実現しませんでしたが、「こうなったら嫌だな」と思ったことも起こらなかったという印象があって。幸も不幸も思いもしなかったアングルからやってきた。これって絶対悲観主義と通じるところはありませんか?
そういう面もあると思います。結局、要するにコントロールできないわけですよ。人間の世の中なんで。コントロールできないことをコントロールしようとするところからあらゆる不幸が始まると思います。僕は妻にも娘にも「好きにやってください」と、それだけでやってきました。普通の愛情を注ぐだけで十分。「こうなって欲しい」とか全く期待してません。幸せの認識は本人の中にしかないからです。
BOOK
『絶対悲観主義』
(講談社+α新書)
絶対悲観主義の利点として、今回取り上げた「簡便性」「仕事の立ち上がりが早くなる」のほかに、「悲観から楽観が生まれる」「失敗への耐性が強くなる」「自然に顧客志向になる」「自分に固有の能力の在り処がはっきりする」などが紹介されています。3万8,000部(6刷)。電子版7,000DL。
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編集後記
「お前ら過信しすぎや。自分がもっとできると思うから落ち込む。何があってもこんなもんやと思っているから俺は落ち込まへん」
「結果は決まってるんだから、あとはなるようになるしかないと思うようにしている。人生の最終決定権があると思ってしまうとうまくいかなかったときに自分を責めてしまってつらくなってしまうこともある。結果は決まっていて自分はそこへいくための方法を選んだだけなんだと思えれば」
前者は明石家さんまさん。後者は芦田愛菜さんの言葉です。どちらも(TikTokで採集)「絶対悲観主義」に通じるところがあると思いませんか。
書店で楠木さんの本を見かけた時、その帯にある「心配するな、きっとうまくいかないから」のコピーに、これは自分で書いたのではないか?と思うくらい、共感してしまいました。(楠木さんと私は同い年。私もまもなく定年、みなさんさようなら)。
村上春樹氏の初期の短編『コンドル』は、占い師に「今日家を出たら想像もつかないことが起こるから外出するな」と言われ、家の中で「想像つかないこと」を書き出していくけど、いくら書き続けても、それは結局想像できたものなので、想像つかないことは想像つかない、というジレンマを描いています。
自分もろくにコントロールできないのだから、ましてや他人や世の中をコントロールなんかできるはずがありません。「欲求」した「承認」はほとんど得られない。たいていの場合、幸せは「想定してない」時に「想像もつかない」方向からやってくる。
「大切なものはほしいものより先に来た」ジン・フリークス『HUNTER×HUNTER』 32巻。(あ、ジャンプだ)。
取材・文・編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2023年2月号「楠木 建さんインタビュー 仕事も子育ても、「絶対悲観主義」でいこう!」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。