成長の一過程とわかっていても、我が子の反抗はなかなか堪えるもの。何を言ってもダメ?過ぎ去るのを待つしかない?と諦めたくなりますが、「そもそも反抗期なんてものは存在しません」と言うのは、東京学芸大学附属世田谷小学校教諭の沼田晶弘さん。子どもへの効果的な声かけや親のマインドセットの持ち方、第一次反抗期といわれるイヤイヤ期の乗り越え方もお聞きしました。
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\カリスマ教師・ぬまっちに訊く/
「反抗期というのはそもそも
存在しないんですよ」
◉PROFILE
東京学芸大学附属世田谷小学校教諭
沼田晶弘さん
1975年東京都生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、スポーツ経営学の修士を修了後、2006年から現職。子どもの自主性を引き出すユニークな授業はメディアやビジネス界でも注目されている。『家でできる「自信が持てる子」の育て方』(あさ出版)、『世界標準のアクティブ・ラーニングでわかった ぬまっち流 自分で伸びる小学生の育て方』(KADOKAWA)など著書多数。2歳娘の父。
反抗期ではなく自己主張期
子どもの成長を喜べばいい
──まず率直に、反抗期って一体何なんですか? 反抗期の子どもの心の中では何が起きているのでしょうか?
反抗期っていうのはそもそも存在しないんですよ。親が勝手に反抗したと思っているだけ。たとえば「あの部下って反抗的だよね」と受け取るのか、「あの部下はよく意見を言う」と思うのか、それってこちらの都合ですよね。あと、親と子どもは成長するにつれて中心が絶対にズレてくるんです。子どもはだんだん親との違いを主張するようになる。違う人間なんだから当然ですよね。自分がイヤだからイヤと言っているだけなのに、それを反抗と言われてますますイヤになるわけです。だから、本来なら自己主張期と呼ぶべきものを誰が名づけたのか反抗期なんて言っているのが良くないんですよね。
──自己主張期と言われると、ポジティブに感じますね。
日本人は自分の意見を言うことができないと言われることがありますが、子どもの頃は散々「反抗するな」と叱られたのに、大人になったら急に「自己主張ができない」「議論ができない」って、そんなこと言われても困りますよね。自己主張が芽生えたと同時に反抗と言われて、主張を認めてもらえなかったのですから。
イヤイヤ期の解決法は
子どもに選択肢を与えること
──VERY読者にとっては、子どもの反抗というと2、3歳のイヤイヤ期に悩んでいる人も多いです。
イヤイヤ期と反抗期は同じで、どちらも自己主張しているだけ。ただ、2歳は基本的に自分がイヤなことをイヤと言っているだけですよね。うちの娘が今ちょうど2歳ですが、ご飯を食べないで豆腐ばかり食べるからご飯も食べなさいと言うと泣くか無視するか、シャボン玉やりたいというのをダメと言ったらジタバタして泣くかしかないので、イヤイヤ期なんていう可愛い名前がついているんです。けど、思春期は言葉が発達した分、親の琴線に一つ一つ触れていくんですよね。攻撃力がついているから何を言ったら親が嫌がるかわかってる。だから反抗期という言葉がついているんでしょうね。
──思春期の子どもとのバトルは精神的に消耗しますが、まだ聞き分けのない2歳のイヤイヤと対峙するのもなかなかしんどいです。イヤイヤ期はどう乗り越えればいいのでしょうか?
僕は娘がイヤイヤ期だと思ってなくて、むしろ自分の意見を言えるようになって良かったねと捉えています。だから、一番簡単なのは親の捉え方を変えること。あと、僕は必ず選択肢を与えています。これを食べてって言うとイヤと言うから、「これとこれとこれ、どれがいい?」と。選択肢を3つ与えて全部イヤということはまずないので。お腹がいっぱいでテレビを観たがったときは、「テレビを観る前にもう一口食べてみない?」とか。確かに、ちょっと前まであんなに微笑みかけてくれて、単語も一語しか言わなかった天使ちゃんがイヤだなんて言うようになって、親はショックですよね。「あんなに可愛かったのに!」って。だけど、イヤなことをイヤって言えるようになったんだと喜べたらいいと思います。
──最近は反抗期がない子どもも増えているようです。
反抗期がなくて友達同士のような親子が増えていますが、それは子どもが自己主張していたのをちゃんと主張と捉えてディスカッションしているケースが多いんだと思います。そもそも親が命令したり、自分の思い通りに動かそうとしなければ反抗は起きませんから。ただ、気をつけてほしいのは、親は反抗期がないと思っていたら、実は子どもが反抗したのをすべて押さえつけていたケース。自慢げに「うちの子、反抗期がなくて~」と言う人はだいたいこれですね。我が子は反抗期がないと思ったら、自分の言動を一度振り返ってみたほうがいいかもしれません。
つい言ってしまいがちな
「学校どうだった?」に注意!
──親が命令したり押さえつけなければ反抗は起きないとおっしゃいましたが、丁寧な言い方をしているのに反抗されることもありますよね。「そろそろ勉強したら?」と声をかけただけなのに「うるさい!」とか……。
「◯◯したらどう?」は丁寧な言い方ですが、そこで選択肢を限定しちゃってるんですよね。たとえば、旦那さんに「今日何時に帰ってくる?」と聞かれるのと、「今日6時に帰ってきたらどう?」と言われるのではどうですか?
──後者はちょっとウザったいですね(笑)。
それですよ。ウザったいというのがキーワード。学校の様子を知りたいから子どもに「学校どうだった?」と聞くわけですけど、旦那さんから毎日「今日、仕事どうだった?」って聞かれたらどうですか?
──毎日聞かれてもそんなに報告するような変化はないです。
でしょ? 子どもも「別に、普通」って言うでしょ。逆に、よほど楽しいことがあったら聞かれなくても自分から話すんですよ。なぜお母さんが〝学校どうだったシンドローム〟に陥るかと言うと、小学1、2年生は毎日が刺激的で楽しすぎて子どもが何でもかんでも話してくるんですよ。でも、学年が上がるにつれて話はだんだん減ってくる。それは学校に慣れてきて順調な証拠でもあるんですが、親は物足りなくて毎日毎日同じことを聞いてしまう。あとは、「学校どう?」と聞かれてついつい何でもかんでも喋ってしまうと、たまに「そんなことしたの⁉」と怒られたりして、それなら話さないほうがマシと思ってしまう。だから、「最近、学校の話を全然してくれないんです~」と言うお母さんに、「お母さん、問い詰めてませんか?」って聞くと、「あぁ、そういう日もあったかなぁ」なんていうこともありますね。
──どう声をかければ、スムーズに学校の様子を聞けるのでしょうか。
具体的に聞くことです。「今日の給食、○○って書いてあったけど、どうだった?」とか「最近、◯◯ちゃん元気? 昼休みって何して過ごしてるの?」って。そうすれば子どもも話し始めますよ。
反抗期が過ぎ去るのを
ただ待つだけでは損
──反抗期は嵐のようなものだから、何もせずに過ぎ去るのを待てばいいとか流すのがいいという意見も聞きますが、何もできずにいつ終わるかわからないのもしんどいです。
流すっていうのは相手に失礼だから、喜べばいいと思います。ついに私を怒らせるようになったかって。怒るっていうことは同じ土俵に乗ったということですから。イラッとしないように我慢しなさいという意味じゃなくて、「あ~、なるほど。そうくるんだ、ふーん」と思うことが重要。もっと言うと、昔の自分と似ているなとか気づけると、対処法も見えてきますよね。そもそも終わるのを待っていたら何年か損をするんですよ。18、19歳になったらそりゃあだんだん変わってきますよ。だいたい20歳を過ぎたら親に感謝するし、結婚式で親に手紙を読んで泣くでしょ。でも、そうなるまでただ待つのは損。親が子どもへの言い方を工夫できれば乗り越えられるはずです。
──男女の反抗期の違いってあるんでしょうか。
それはわかりやすくて、女子のほうが弁が立つので、壮絶な空中戦になりますね。お父さんと息子はどちらも口下手なので基本的に冷戦です。反抗期は特に、男子と母親の相性が悪いんですよね。組み込まれているDNAが明らかに違いますから。古代に遡ると、男性は外に狩りに行く体で女性は木の実を集めたり生命を育む体だから、理解できないと思ったほうがいいんです。さらに、血が繫がっているとどうしても自分の分身に見えてくるんですよね。旦那はほっとけるのに、息子はほっとけないっていう現象ですよ。旦那が同じことをしてもイラつかないのに、息子がやると「なんで?」とか「ちゃんとしなさい」と言っちゃう。だから、子どもは血が繫がってる他人だと思うこと。
子どもには子どもの感覚がある
親も子どもから学ぶ姿勢を
──きちんと精神的に距離を取ることですね
あと、僕は小3で初めてファミコンを触りましたが、娘は1歳からずっとiPadを触ってるんですよね。そりゃあ、あらゆることの感覚が違いますよ。だから、親も子どもから学ばなきゃダメ。今ってそうなってるんだって。そういうことを擦り合わせて、子どもには子どもの感覚があるというのを理解しないと。
──ネットやSNSも、私たちの子どもの頃とは全く違った使い方をしています。
インターネットもそうで、スマホに子ども用フィルターがついていると何の勉強にもならないですよ。ちょっと真剣に調べようと思ったら何も出てこないですよね。フィルターをかけずにいたら何でも入ってきちゃうけど、それをクリックしたらどうなるか、わかっていてやらないほうが最強でしょ。教えたらちゃんとわかるのに親が先回りしちゃってる。SNSの使い方だってそうですよね。転んだら危ないからって親が日本中の石ころを拾って歩いてるんですよ。子どもの行動範囲がどんどん広がっているので親は疲れるし、もう広がりすぎてて拾えないですよ。だから、大事なのは転び方と立ち上がり方を教えること。もちろん裏でサポートしても構わないけど、できることはやらせていかないと。ドアに指を挟んだら痛いし、転んだら痛い。自分で失敗して覚えていかなきゃいけないと思います。
──お話を聞いて、親が反抗期を作り出しているのかもしれないとすら思えました。
大前提として、反抗じゃなくて自己主張だから喜ばしいことなんだと考えること。そのうえで子どもとちゃんと対話すること。子どもの言葉を聞くことですね。親が何か命令したり、自分の思い通りにしようとしなければ、子どもは反抗なんてしてこないはずですから。
ぬまっち流「いわゆる反抗期?」を乗り越える
5つのポイント
- 反抗ではなく〝自己主張〟と前向きに捉えること
- 子どもの主張を聞いてきちんと対話すること
- 「◯◯しなさい」ではなく、選択肢を複数与えること
- 「学校どうだった?」はNG、聞くなら具体的に聞くこと
- 親も子どもの新しい感覚を学ぼうと心がけること
『もう「反抗期」で悩まない!
親も子どももラクになる〝ぬまっち流〟思考法』
(集英社)
「反抗期」は子どもが自分を主張し始める子育てのチャンス!と考えるぬまっちが、親のマインドセットの変え方や、親や子どものタイプ別による乗り越え方などを解説。反抗期をポジティブに綴った一冊。
撮影/須田卓馬 取材・文/宇野安紀子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2022年10月号「カリスマ教師・ぬまっちに訊く「反抗期というのはそもそも存在しないんですよ」」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。