教育系YouTuberとして、小学生から高校生に向けた学習用の動画を投稿している葉一(はいち)さん。ホワイトボードに手書きした文字、編集されていないライブ感がある授業動画は、まるで先生に直接授業を受けているかのよう。葉一さんが授業動画を通して提唱する「フリーラーニング」は、学校、塾と並ぶ教育の第三の柱として注目されています。そんな葉一さんは小2と4歳の2人の男の子を育てるパパでもあります。教育者として、父として。子どもの可能性や学力を伸ばすためのヒントを、ご本人に聞きました。
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画面越しにもリアルな熱量を
感じてほしいから
手書き・編集なしにこだわり
――葉一さんは2012年から授業動画の投稿を始めています。どんなきっかけで始めたのでしょうか?
僕はもともと個別指導塾の講師をやっていましたが、その塾の月謝の高さに驚いたのがきっかけです。自分自身が学習塾に通った経験がなかったので、塾代がこんなにかかるとは知りませんでした。
費用面で塾を断念する子も多いのかもしれない。そうモヤモヤと考えていたある日、たまたまYouTubeを見ていて、「ここに授業の様子を投稿すれば、お金をかけずに勉強してもらえるかもしれない」と思いつきました。
始める前に決めたのは、「教科書のレベルをまるまる一冊動画にする」ということ。塾に代わって、教科書の学習でつまづいている子の支えになりたいと思ったからです。当初は板書しながら説明していましたが、書いている時間が間延びしてしまって、自分でも見たいと思えないほどの出来(笑)。それで今のように先に板書しておいて解説するスタイルに変更しました。
――1本の動画が15分程度と短いのも特徴です。
人間の集中力は最大15分と言われています。でも実際に目の前で子どもを指導した経験から言うと、そんなには持ちません。大体8分くらいで飽きてしまうんですよね。だから、できるだけ短くまとめることを意識しました。
授業は血の通ったものだと思っているので、編集もしません。間違えたら最初から撮り直します。子どもにとって、目の前にいる先生の熱量を感じることも大事。電子黒板だと無機質になるから手書きの黒板にこだわっています。たまに噛んでしまっても「これもリアルでしょ?」って思っています。
オンライン授業は子どもにとって
「ゴール」が見えないもの
親の声がけだけでも意識が変わる
――コロナ禍でオンライン授業に切り替えた学校もありました。素早い対応を評価する一方で、「動画での授業だとなかなか集中できない」という声も聞かれました。
オンライン授業の課題ですね。先生方は教育のプロですが、映像授業には慣れていない。対面授業と同じようなやり方で進めてしまい、長すぎたり単調だったりして子どもの集中力を削いでしまいます。
子どもたちもオンライン授業に慣れていないので、要点がつかめず、何を覚えたらいいのか分からないんですよね。だから、そこは親がゴールを決めてあげることが大事です。「今日はこの計算のやり方だけを覚えようね」でもいいですし、「今日の映像授業は分数の約分だよ」という形で、単元だけでも意識できるよう声がけしてあげるだけで、子どもの受け止め方が変わってくると思います。
――文部科学省が1人1台の学習用PCやネットワーク環境を整備した「GIGAスクール構想」を勧めるなど、学校のICT化も進んでいます。
机に座って、黒板の前で先生の授業を受けるだけが教育ではないですからね。ICT化によって学びの選択肢が増えるのはいいことだと思います。ただ、指導要領に必ず沿うなど、「古きよき教育」の要素をそのままにICT化するとズレが生じる気がしています。
学校の現場は分かっていると思うんですよね。でもその上にいる、ルールを作っている人たちに「新しいものを作っているんだ」という意識は持ってほしいです。現場が苦しいと先生のモチベーションが下がり、結果的に子どもたちも不幸になると、昨年の休校期間中に実感しました。
――葉一さんは授業動画を通してどんな世界を目指しているのでしょうか。
これまで教育はお金をかけるものと思われていましたが、その認識を崩したいです。塾がない時代は学校だけで、さらに学校では補えない部分が出てくるとそれをサポートする存在として塾が出てきました。でも塾の現場から見ると、その2つでは支えきれていない家庭がたくさんあった。授業動画などを使えば、誰でもお金をかけずに学ぶことはできます。教育の第三の柱として、「フリーラーニング」を当たり前の世界にできたら、きっと教育水準は上がっていくはずです。
そのためにはもっとこの業界が大きくしたいので、授業動画を投稿する人がもっと増えてくれると嬉しいです。ライバルが増えても再生回数を減らすつもりはさらさらないので、より一層がんばっていきます(笑)。
後編は、葉一さんが塾講師、そしてご自身の子育てを通して実感した、「子どもを勉強好きにさせるコツ」「子を伸ばす親の褒めかた」について、詳しく聞いていきます。
◉葉一(はいち)さんプロフィール
1985年生まれ。36歳。塾講師を経て、2012年6月1日にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」(https://www.youtube.com/channel/UCzDd3Byvt91oyf3ggRlTb3A)を開設。ていねいな板書と分かりやすい授業が人気を呼び、2020年7月にチャンネル登録者数は100万人を突破。私生活では小2と4歳の2人の男の子の父でもある。