2児のパパ書評家・吉田大助さんがホストを務めるVERY的誌上読書会。今回は、映画監督・呉美保さんが薦める中学受験小説『金の角持つ子どもたち』に注目。親子それぞれの葛藤と純粋さに心洗われ、子どもの「好き」を信じたくなる一冊です。
「今、語りたい一冊」は?
VERY的 誌上読書会
2児のママで映画監督、最新作
『ふつうの子ども』がアマゾンプライムビデオで配信中
呉 美保(お みぽ)さん
Recommend!
『金の角持つ子どもたち』
子どもも大人も
純粋でまっすぐ。だから
私は救われました
『金の角持つ子どもたち』
藤岡陽子 著 (集英社文庫)
小6になる主人公が5歳から続けてきたサッカーを辞めて難関国立中学の受験に挑戦する。主人公だけでなく、周りの大人たちの葛藤や挑戦にも胸を打たれる。
❝心洗われる中受小説。
子ども、親、塾講師の
視点の切り替えに唸る❞
吉田 呉さんがこの本を選んだ理由をまず伺いたいです。いわゆる「中受小説」ですよね。
呉 普段あまり手に取らないジャンルですが、ある日、ママ友がオススメとして自宅のポストに入れてくれて。ちょうど中学受験をさせるか迷っていた時期で、率直にとても“純”な小説だと感じました。
吉田 どんなところに“純”を?
呉 登場人物の誰もがまっすぐで、応援したくなるんです。私はつい穿った視点で「こんなに頑張る子いる?」「こんなに理想的な夫婦っていなくない?」と意地悪に読んでしまうところがあるのですが(笑)、それでも読後にじんわり残るものがありました。特に塾の先生が話す「金の角」の比喩にはハッとしました。リアルかどうかを超えて、親や先生の「大人の純な気持ち」がふっと見える場面があるんですよね。だから、自分の子どもにもいつか読んでほしいなと思いました。
吉田 章ごとに視点が切り替わるのも面白いですよね。子ども、親、塾講師、それぞれの立場から語られることで、中学受験の構造が立体的に浮かび上がる。我が家は長女がまだ小2ですが、勉強になりました。呉さんのお子さんは受験予定ですか?
呉 小4の長男は昨年から塾に通っていたのですが今春から合唱団にどっぷりハマり結局塾は辞めて…そこに至るまで私もかなり揺れました。合唱団にも塾にも行って、宿題も大量にあって「両方やらせなきゃ」と焦るほど、息子の笑顔がどんどんなくなっていったんです。最終的には、息子が合唱に夢中になる姿を見て、私のほうが救われました。好きなことにまっすぐ向かうこと、それが今の息子にとっていちばんの幸せなんだと気づかせてもらいました。小説の中で子どもたちが自分の道を選んでいく姿と重なって、より深く、響いたのだと思います。
吉田 僕も、子どもには夢中になれるものを見つけてほしいと思っている親の一人ですが、まだこれといったものに巡り合っている感じはなさそうです。
呉 でも吉田さんは、本を咀嚼するプロ、色々詳しく聞きたいです。お子さんも、本はよく読まれますか?
吉田 読みます。ただ、これが将来何につながるんだろう…と考えたりもして。
呉 絶対につながりますよ! 今って、思慮深さだったりコミュニケーション能力だったり、「目に見えない力」が問われる時代じゃないですか。物語の中でいろんな言葉に触れたり、登場人物の気持ちを想像したりする経験って、時間をかけてじわっと内側に積み重なるもの。それが子どもの頃からあるって、ものすごく強いことだと思います。
吉田 そう言っていただけると心強いです。長女が「パパの本棚にある本、早く読めるようになりたい」と言ってくれるのが嬉しくて。とりあえず手に取って軽くめくってみよう、となるのが紙の本の良さだなと思いますね。親が紙の本を読んでいたから、自分もマネしたいと思って読書するようになったっぽいんです。
呉 私も実用書は増やしたくなくてデジタルで買うけれど、小説は紙で買うことが多いです。手触りがあると、子どもも大人も読むモードになれる気がします。本棚に物語が並んでいるだけで、子どもにとっては「入り口」になるんですよね。今は5歳の次男との読み聞かせの時間を大切にしています。我が家は夫が熱心に読んでくれるのですが、親子で同じ物語を共有する時間って、本当に豊かだと思います。本に限らず、映画でも美術館でもいい。親子で一緒に何かを感じる体験を積み重ねることが、心を育ててくれる気がしています。
\ これもオススメ! /
『翼の翼』
朝比奈あすか 著(光文社)
主人公が小2の息子に中学受験を決めたことから始まる、家族の過酷な受験戦争のリアルを描いた作品。期待と不安、親子やママ友との比較、塾通いや成績の一喜一憂など、受験に翻弄される日々を生々しく掘り下げる。
Profile

呉 美保さん
映画監督・CMディレクター。大阪芸術大学映像学科卒業後、スクリプターを経て、'06年に長編監督デビュー。『そこのみにて光輝く』でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞。'24年に『ぼくが生きてる、ふたつの世界』、'25年に『ふつうの子ども』を公開。2児のママ。
[ ホスト ]

吉田大助さん
書評家・ライター。文芸からカルチャーまで幅広く批評を手がける。ロングインタビューをまとめた『別冊ダ・ヴィンチ 令和版 解体全書 小説家15名の人生と作品、好きの履歴書』が発売中。2児のパパ。
撮影/坂田幸一 取材・文/樋口可奈子 編集/中台麻理恵
*VERY2026年2月号「今、語りたい一冊は?VERY的誌上読書会」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。











