いよいよ夏休み! 読書好きの青木裕子さんに、今年の夏の「課題図書」にしたいおすすめ本を伺いました。青木さんが「特別に好きな作品」だと話す一冊とは……? 子どもが「算数好き」になるきっかけになるかもしれない? 絵本も紹介します。
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今月の一冊
この夏読みたい、ゾクゾクするほど引き込まれた一冊
人工知能が発達したあとの世界は…?
私が川上弘美さんの『大きな鳥にさらわれないよう』に出会ったのはずいぶん前のことです。本を手に取る理由は、時と場合によりいろいろですが、やはり好きな作家さんの本を選びがち。川上弘美さんの本は私の本棚に何冊もあるのですが、中でもこの作品は特別に好きな作品で、ことあるごとに人にすすめてきました。著者特有の滑らかな語り口で、スルスルと物語へ引き込まれていくのはすべての作品に共通していることですが、『大きな鳥にさらわれないよう』は壮大さという点で抜きんでていると感じます。
撮影/川﨑一貴〈ajoite〉
舞台は、人類が絶滅の危機に瀕した未来の世界。14の章から成る物語は、綿密に計算しつくされた(としか思えない)構成によって、時に交錯しながら、抜かりなく一つの世界を作り上げ、その世界を様々な視点で切り取ります。そこでは、人類がいくつもの独立した集団を作って生活し、著しく発達した人工知能が人間に寄生したり、クローン発生により生まれる人間がいたり、植物のように進化した人間が登場します。
まるで、これからの未来を予言するような小説
こんな風に説明すると、「あー、つまりSFね」と思われてしまうでしょうか。でもSFという言葉はなんだかしっくりこないのです。著者の作品の多くがそうであるように、「どんな話か」を簡単に説明してその魅力を伝えるのが難しいのですが、あえてジャンルを定めるとすると、解説にあるように 【神話】と言えるかもしれません。そしてギリシャ神話で描かれる神々が人間よりも人間らしいように、この物語は全編を通して人間の本質をあぶりだします。
例えば、 自分とは異質なものを見つけ出〉し、怖れ、嫌悪し、時に排除する人間の姿を。 なぜ人間は自分と違うものを許せないんだろう〉、読者はこの問いを繰り返し繰り返し、突きつけられます。サイエンス・フィクションというには暗示が過ぎる作品だ、と私は思います。今回このコラムを書くにあたって再読した際には、子育て中に頻出の「多様性の時代」とか、「みんな仲良く」なんてワードについて思いを巡らせました。
さて、編集部の方から、この本は、国際ブッカー賞(世界的に権威のある英国の文学賞の翻訳書部門)の最終候補作であると聞きました。……となると、私のおすすめ評など蛇足でしかなかったかもしれない、デスネ。つべこべ言わなくても、間違いなく名作、ぜひ読むべき一冊です。不思議な世界観に引き込まれ、そしてゾクゾクするほど考えさせられる物語、ぜひ皆さんも手に取ってみてください。
『大きな鳥にさらわれないよう』
(川上弘美 著・講談社文庫)
遠い未来、衰退の危機を認めた人類は、「母」のもと、それぞれの集団どうしを隔離する生活を選ぶ。かすかな希望を信じる人間の行く末を、様々な語りであらわす「新しい神話」。泉鏡花文学賞受賞作。
【絵本・児童書】子どもの本のおすすめは?
何かを学ばせようと思って行う読み聞かせはあんまり好きではありません。コスパ重視の現代では、「これをやるとこんないいことがありますよ」というエビデンスに飛びついてしまいがちですが、幼少期の読書くらい「何の役に立つかわからないけど楽しいね」「面白いね」「なんか好き」であってほしいのです。読み聞かせは特に「ここから何かを学んでほしい」なんて打算を抱くべきではないと思っています。ということで、画家の安野光雅さんや数学者 の森毅さんらによる 『美しい数学』シリーズも、純粋に絵本を楽しむ感覚で読んでほしいと私は思っています。
「算数の面白さ」を知るきっかけになったなら
小難しくとらえなくても、本当に面白い。かわいい絵と繰り返しによる心地よいリズム、それからしっかり楽しめるストーリーに引き込まれます。……なんて言いながら、心の奥の方では「算数って楽しいって感じる最初のきっかけになってくれたらいいな」という打算を抱いていない、とは言いません(笑)。でも、それは心の奥の方でね。ばれない程度の親心を抱きつつ、楽しく読んでほしい絵本です(ちなみに数学好きの方には著者・森毅さんの対談本『数学の世界』をおすすめしたいです。ちょっと難しい、けれどかなり面白いです)。
以
『美しい数学』シリーズ
(安野光雅ほか著・童話屋)
安野光雅さんや数学者の森 毅さんらによる世にも珍しい数学の絵本シリーズ。「足し算と引き算」がテーマの『10人のゆかいなひっこし』「順列と組合わせ」がテーマの『3びきのこぶた』など、大人も子どもも数学の世界に誘われる本。
最近の青木さんは?
料理の本に影響を受け、息子さんがキッチンに立つように。ほおずき市や七夕など季節の行事も楽しんで。






青木裕子さん
VERYモデル。小学生2人の男の子の母。「本は紙で読む派」で、忙しい日々のなか自宅やお子さんの学校近くの書店に立ち寄るのが楽しみだとか。