ママになって、そして起業してから「これっておかしい」と思うことが増えたという東原亜希さん。次世代が幸せに生きていくために、そして今、私たちが生きやすい社会にしていくために「おかしい!」と声にしていくことがとても大切だと話します。不定期連載対談の第6回は、昨年の都知事選に立候補し一躍大注目された、安野貴博さんをお迎えします。
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選挙の形がどんどん変わるのに
何も話し合わない話さないのって
変じゃないですか?

❝デジタル民主主義は、
不公平感を減らしていく
新しい力があるはず– 安野貴博さん❞
東原亜希さん(以下東原) 安野さんは昨年夏、都知事選に出馬されたんですよね。そこで驚いたことはありますか?
安野貴博さん(以下安野) 都内1万4000カ所のポスターの場所をどっさりと紙で渡されたことがまず衝撃で。データももらえなかったので、仕方なく自分たちでデジタルマップシステムを作りました。貼られていない所が一目でわかるようにし、ボランティアの皆さんとコンプリートできたので良かったのですが。
――ポスター貼りも、組織力を持った人でないと通常は難しいんですね。
安野 一歩目が立候補のハードルになりますよね。ポスター貼りはネットで募集したのですが、想像の100倍集まってくださって、こうやって民主主義を草の根で支えてくださっている方がいるんだなと知りました。
東原 そのデジタルマップ、選挙管理委員会が作ってほしいところですね。そして候補者全員が使えたらいいですよね。
安野 はい、なのでマップは他の候補者にも公開しました。エンジニア業界にはオープンソースという考え方があるんです。元々立候補したのも、世の中を見渡したとき、僕からみたら今の時代に合っていない政治システムがあったので「直したい、こうすれば良くなるのに」というエンジニア的な本能からでした。
東原 そうなんですね。でもそうやって安野さんのように冷静に判断して正していってもらえるのは心強いです。
安野 日本では東京だけが潤沢な税収があって子育て政策も打ちやすいのですが、東京が潤っているのは東京に住む人だけではなく東京近郊県から通勤して働いている方がいるおかげでもあります。そう思うと、都知事を都民だけで決めていいのかとか、財政を都民だけに還元していいのかなど疑問に思うんですよね。お金を配るのが難しいなら、すでに一部では実現していますが、都が投資して開発したものを他に融通するということも、この不公平問題を解決する一つかなと。
東原 なるほど! 都民でない私も一票欲しい(笑)。
❝都民じゃなくても都知事選に投票!
それも大いにアリな気がします– 東原亜希さん❞
安野 紙での投票しかないと一票は一票でしかないですが、デジタルなら千葉県民に0・1票与えるとか、政策についての意見を伝えられるとか、柔軟なやり方ができないわけではない。デジタル民主主義になれば、意思決定にいろんな人を巻き込めるようになるといういいところがあります。
東原 ワクワクしますね!私自身、母親になって選挙に行くたびに「ママたちの声って本当に届いてるんだろうか?」と思うことがたびたびあるのですが、そういう改革が進めばより効率的に意見が届きそうです。安野さんは選挙に出たことで、色眼鏡で見られたりしたことはありませんか?
安野 それが思ったよりなかったんです。割と地道な選挙活動だったもので(笑)、「あ、出るんだね」くらいでしたね。ただ親には事後報告で、やはり驚いていましたが。
東原 ネットを駆使されての選挙戦でしたが、最近の選挙結果を見ていても、SNSで結果が予想と変わったり、何が起きているのかわからないこともあります。どうやって正しい情報を取ればいいのかなって……。
安野 難しいですよね。ただやはり、SNSでは自分の見たい情報しか見えなくなるというフィルターバブルの問題は、みんなが認識した方がいいですよね。SNSを見ていると自分に近い意見がどんどん上がってくる。僕も選挙中タイムラインだけ眺めていると、99%くらいの人が僕を支持しているように見えるんですよ(笑)。フィルターバブルの台風の目の中にいたわけですが、これは怖いなと思いました。
東原 まさに私も最近感じたことが。我が家では滅多にテレビをつけないんですね。ネットがあれば事足りるし、好きなものが見られれば十分だと思っていたんです。でも先日、車の中で虫歯についてのテレビ番組が流れて、子どもたちが食い入るように見ていたのに驚いて。メモまでして、そこから歯磨きへの意識まで変わったんですよ。それを見ていると、ネットでは絶対虫歯についてなんて子どもは検索しないし、興味がないものも勝手に流れてくるTVも悪くはないのか、と思いました。それがきっかけで歯医者さんになりたいと思うかもしれないし、好きなものを選んでいるつもりが選択肢を狭めている気もしました。
❝経験したことのない人口ピラミッドの形で、
市民の声をいかに届けるか。
これからの選挙・政治には、
新しい方法を模索することが必要だと思います– 安野貴博さん❞
安野 情報リテラシーの観点から言うと、自分の興味がないかもしれないことや知らないことをどうやって自分から知りにいくのか、ちゃんと経路を意識的に作っておくことが大事になるような気がしますね。
東原 安野さんは情報の発信側にもなられていますが、興味のない人に届けるためにどんなことをされたんですか?
安野 わかりやすくというのはもちろんですが、ネット情報は刺激的であったり煽っているものの方がインプレッションが伸びる場合があり、戦略的にやる必要があったと思います。でも煽るにしてもレベル1から100まであり、10までなら許されるか?など届けるのに適切なところの感覚を見極めるのは難しい。また知ってもらうのも大事ですが、どの候補者でもどんどん過激になる支持者にいかに落ち着いてもらうかが課題でもあったと思います。政治がSNSで身近になる反面、選挙がどんどんプロ化していくと、一般の人が立候補しづらいなとも思ってしまいます。それは何とかしたいなと思っていて。政治家ワールドと、それ以外で働いている人たちのワールドが断絶していて交流が少ないですよね。
東原 市民感覚のある方がもっともっと政治の世界に入ったらいいですよね。
安野 そうですね。ただその中でやはりSNSはいい方向にも悪い方向にも働きます。都知事選で無名な私が5位15万を得票できたのはSNSがなければ考えられなかったことです。予想ですが、これからは政治家の方もYouTubeなどで発信して支持者との距離を縮めていける人が勝ち始め、その傾向は弱まることは多分ないと思います。主張はどうであれ、生配信などで密にコミュニケーションするようになるでしょうし、ウェブのインフルエンサー的な立場から政治の世界に入る人が5、6年で増えると思います。
東原 注目されている人はもれなくネットで戦っていますね。
安野 テレビが出始めたころ、元々ラジオで強かった政治家ではなくテレビ映えする政治家が勝つようになりました。それと全く一緒で、YouTubeやインスタ映えする政治家が、既存の政治家に変わっていく、入れ替わるタイミングが今後5、6年で来るのかなと。新陳代謝のタイミングの直前期に今いるのかなという感覚です。
❝若い世代が持っている「選挙に行っても無駄」
という絶望感を、大人が今払拭してあげることが
責任のような気がしています– 東原亜希さん❞
東原 でもネットに強いだけの人が出てくるのもちょっと……。映える政治家がいい政治家かといえば違うでしょうし。
安野 それは違いますね。映える映えないで実力は計れないものの、ただ一定の入れ替わりを促進するという意味では、SNSの台頭を僕はポジティブに考えています。
東原 なるほど! その中でちゃんと見極めたいですよね。それに、若い世代の人口と年配の人口が全然違うので、「選挙に行ったところで…」という絶望感はあると思います。若い子たちの意見を聞いてあげないと絶望しかなくなっちゃう。VERYを読んでいるママたち世代だってそうです。
安野 本当にそう思います。人口ピラミッドがこの形になったのは、日本が世界で初めてくらいなんです。200年前から選挙で政治家を選ぶ民主主義のシステムになりましたが、権力が暴走しないように通常であればどこかでストッパーが効くものです。でもこの形の世界は誰も経験していないので、ストッパーがない状態になっていると思う。意思決定自体も、長期ではなく短期的になってしまいがち。何かできないかなと考えているところですね。
東原 選挙に行く以外に、いま私たちができることはあるんでしょうか。
安野 市民の声を政治に届ける仕組み、経路を作ることができたらいいと思っていて。たとえば台湾では、市民が法律や政策を提案できるウェブ上の政府公認の掲示板があるんです。そこに5000人いいねがつけば、政府が専門家をアサインして実際に検討する。この10年で200本ほど政策ができているらしくちゃんと運用されているようです。そうしたものが日本でもあればいいなと。
東原 日本でそんなことができるのか……なんて言ってたらダメですね!子どもたちも、自分の意見を言って社会を変えていく経験ができればいいなと思います。今は、「校則なのでダメです」を鼻から疑わず、ただ従うだけになっている部分もある気がして。
安野 小さなことでいいので「おかしくない?」と訴えていけば変えられるという成功体験を積んでいくことが大切です。世の中が加速度的に変わっていく中で、選挙が4年に一度でいいのかとか、フラットに見ていけば疑問に思うことはたくさんあると思うんです。
東原 子どもたちの気づきにも耳を傾けたいし、自分たちもおかしいなという違和感をスルーしないようにしたいですね。
安野貴博
AIエンジニア、起業家、SF作家。東京大学、松尾研究室出身。ボストン・コンサルティング・グループを経て、AIスタートアップ企業を2社創業。日本SF作家クラブ会員。2024年、東京都知事選に出馬。一般財団法人GovTech東京アドバイザー就任。
東原亜希
1982年生まれ。モデル、タレント。2002年のデビュー以後、テレビや雑誌で活躍。VERYの表紙モデル。株式会社Motherを起業し、食品やアパレルの企画、販売を手がける。プライベートでは2008年柔道家の井上康生氏と結婚。現在4児の母。
<衣装クレジット>ジャケット¥31,900パンツ¥29,700(ともにフィーニー)ポロシャツ¥30,800肩がけしたカーディガン¥33,000(ともにハイク/ボウルズ)シングルピアス各¥31,900リング¥510,400バングル¥726,000(すべてビジュードエム/ビジュードエム六本木ヒルズ)靴/スタイリスト私物
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撮影/金谷章平 スタイリング/石関靖子 ヘア・メイク/福川雅顕 取材・文/有馬美穂 編集/中台麻理恵
*VERY2025年2月号「東原亜希さんのそれっておかしくないですか?」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。