日本テレビ時代から、人気アナウンサーとして活躍する西尾由佳理さん。健やかな笑顔が印象的です。ご自身の30代は結婚、退社、フリーへの転身、出産と立場も心も揺れ動いた時期だったといいます。「あまり過去は振り返らないんですが」と語る西尾さんにお話を伺いました。
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退社を決めた直後、東日本大震災が起きて……
──33歳で結婚、34歳で日本テレビを退職され、その後フリーになった西尾さん。その決断に至るまでのことをお伺いしたいです。
入社から10年ほど経ち、朝の情報番組や「24時間テレビ」など入社前から憧れていた仕事も任せてもらえるようになっていました。夫と出会ったのはそれよりも少し前。局アナの仕事はどうしても時間的に不規則になります。当時は毎日深夜2時に起床して出社するというような生活で、なかなか会えない彼との時間も大切にしたいと思うようになっていました。結婚まではごく自然な流れだったと思います。2011年の3月末で長く担当してきた朝の番組が終わることが決まり、今後の働き方を模索していた時期でもありました。いろいろな仕事を経験した後、さらに局内でステップアップしていくにはどうしたらいいか。どうにも今後の自分の姿が見えてこないようなジレンマを抱えていたんです。ならば、外へ飛び出してみるというチャレンジもありなんじゃないかと思い立ち、迷った末にその年の8月をもって退社することを決めました。ですが、その決断の矢先に東日本大震災が起きたんです。被災地の現状を目の当たりにし衝撃を受けました。日本中が混乱するなかで番組を終えなければならない……。番組を通して自分ができることはほかにもあったのではないか、中途半端な形で終わっていくような気がして不甲斐なさを実感しました。その気持ちは10年以上経った今も忘れられません。当たり前にあると思っていたものがある日なくなることもある。人生の価値観が大きく変わった出来事でもありました。話をしていて気づいたのですが、こうして30代という括りで過去を振り返ることはほとんどなかったかもしれません。これまで年齢を節目ととらえることが少なかったからです。
──「30代になるから」というように年齢を意識することはあまりなかったのですね。
私は今46歳ですが、30代だからこうしよう、40代だからこうしなきゃみたいに考えたことはなくて、その都度自分の心に向き合って、自然と見えてくる道をなんとか歩んできたという感じです。ただ、子どもに関しては、どうしても年齢のことも踏まえて考える時期があったと思います。その後妊娠、出産を経て、自分より大切なものが存在するという実感がありました。子どもに世界を広げてもらったような感じです。
落ち込んだときの自信回復法は?
──入社後、瞬く間に人気アナウンサーになった西尾さんですが、当時は本番前後に泣いたりしたこともあったそうですね。落ち込んだとき、自信を持てないとき、どう向き合いましたか?
アナウンサーの先輩や信頼できるスタッフのみなさん、在職中にお付き合いをはじめた夫にもよく話を聞いてもらいました。すると、自分では「ダメだ」と思い込んでいたことが大したことではないと気持ちを軽くしてもらえることもあったし、アドバイスをもらうことで違うやり方を模索できたりしました。ある日、先輩に「あなたは日々挽回できるチャンスがあるんだよ」と言われたことがありました。真意まで聞いたわけではありませんが、番組を担うアナウンサーとしての居場所があるということだったのかもしれません。どんな仕事でも、今日が終われば明日の出番が来ます。「うまくいかなかった」と落ち込んでも、明日は巻き返せるチャンスがあると思えるのはありがたいことです。それでも、日々落ち込むことや反省することは多くあり、すべてを消化しきれたわけではありませんが「次がある」と思うことで切り替えられてきた気がします。
仕事と育児の間で悩んだことも
──VERY読者も、産後バリバリ働くのかいったん仕事のペースをゆるめるのか、キャリアと育児の間で揺れている人も多いよう。お子さんが未就学児のころ、西尾さんはどんなことを考えていましたか?
妊娠・出産で仕事を休もうとはじめから思っていたわけではなく、できる限りは続けたいと考えていました。ただ、いざ出産してみると今まで通りに100%仕事に全力投球することは難しかったんですよね。育児のために「今回はできません」と返事をすることには葛藤もありました……。けれど家族と一緒にいたいという気持ちが大きかったので、育児中心でも後悔のない時間を過ごせたと思います。結局は今、自分が何を優先したいのか、どこまでできるのか試行錯誤するなかで決めていくしかない気がしています。まわりからなんと言われようと、自分の中で納得感があればそれでいいんだと思います。
家族といるときの自分がいちばん好き
──西尾さんの中での「納得感」とは、どういうものでしょうか。
そうですね、自分で自分を愛せる状態でいられること……でしょうか。小説家の平野啓一郎さんが著書『私とは何か 「個人」から「分人」へ』(講談社現代新書)などで提唱されている「分人」という考え方にすごく共感したんです。誰しも「本当の自分」が一人いるのではなく、その時どきで関わる人の前で使い分ける複数の人格、そのいずれもが自分の姿であるという考え方です。そのなかで「この人といるときの自分が好き」だと知ることで、ありのままの自分を愛していけるのだと思っています。私の場合は、やっぱり家族といる時の自分がいちばん好きです。つらいな、うまくいかないなと思うことがあっても、家族みんなで笑っておいしいご飯を食べられる時間があれば健やかでいられる。私にとって家族はそういう存在です。
Profile
1977年千葉県生まれ。東京女子大学を卒業後の2001年に、日本テレビにアナウンサーとして入社し「ズームイン!!SUPER」など数々の番組を担当。「24時間テレビ」では総合司会を務める。2010年に結婚、2011年に退社し、フリーアナウンサーに転身。現在は2児の母。趣味は読書。8月24日より毎週土曜夜10時~、ずっとやってみたかったというナショナルジオグラフィック(TV)で放送の「まる見え!マヤ文明の謎解きミステリー」のナレーションを担当。
撮影/秋山博紀 スタイリング/今井聖子(Canna) ヘア・メーク/千葉万理子 取材・文/藤井そのこ
トップス¥35,200(BEIGE/オンワード樫山)パンツ¥100,100(リビアナ コンティ/グルッポタナカ)パンプス¥68,200 ※参考価格(ペリーコ/アマン)ピアス¥25,300 ¥20,900(GARNI/ガルニトウキョウ)リング¥30,800(エネイ)バングル¥42,900(エテ)
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