法学者、大学教授、メディアへの出演など幅広く活躍する山口真由さん。今年、39歳で出産し一児の母でもあります。家族法を専門とする山口さんは「結婚、家族の形はもっとミニマムであっていい」と話します。その理由は? 山口さんが考えるこれからの「家族の形」を伺いました。
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フルセットの「結婚」でなくてもいい
──法学者として、家族法を専門分野にする山口さんにとっての「家族」「結婚」とはどんなものですか?
「家族」という単位については、基本的にはもっと「ミニマム」になっていけばいいと思います。これまでの家族のイメージといえば、良い会社で働いている素敵な夫と家族思いの妻、そしてかわいい子どもたちが2人くらいというような理想形を一つの「フルセット」として想像するのではないでしょうか。「フルセット家族」像は、「こういう結婚でないと正しくない」という一つの圧迫になっていたとも思うんですよね。VERYも近頃は変わってきたようですが、長年そういった価値観を提示してきたといえるのかもしれません。
私はこれからの時代、今お話ししたような「フルセット」にこだわる必要はないのかなと思います。一つ屋根の下にいるかどうかより距離があってもいつも心のどこかで気にかけているとか、そういう心のつながりこそが重要視されるべきものだと思います。その価値観が当たり前になれば、どの家族の形が正しいとか正しくないという話はなくなるはず。条件が整っていることより心のつながりや温かさが家族の中で共有されていることが大事なのではないでしょうか。
──実際に、家族の形が多様になっている今、別居婚や事実婚などこれまでと違う形を選択される人も増えていますよね。
そうですね。しかし、同性婚や別居婚などが「新しい家族」で、従来の伝統的な結婚や家族の形が「保守的な家族」という捉え方になるのもよくないなと思っていて。先ほど話した「ミニマムな家族」というのは、別に「これまでにない新しいスタイル」というわけではなくて、心のつながりという普遍的な定義に基づくことだと思うんです。
そう考えると、伝統的な家庭の形でも別居婚や事実婚でも、結局のところ土台は同じなんじゃないのかなと思います。「家族」という土台の上にいろんな形が形成されるわけで、その多様性を肯定できる世の中であってほしいなと思いますね。
「結婚っていう制度、オプションが少なくないですか?」
──結婚制度に関しては、いかがですか。
私は、結婚という仕組み自体はとても素敵なことだと思っているのですが、現状の結婚制度にはあまりに「オプション」が少ないということも感じています。
夫婦別姓もそうですが、結婚という契約内容についての選べるメニューがあまりにも少ない、というかほぼないですよね。「結婚したら苗字も相続も一律こうなりますから!」みたいなセットメニューになっている。
例えば、歳を重ねてから結婚した場合など、生活を共にしても相続についてはそれぞれの事情に応じて決定できるとか、親密な恋愛関係はもうないけれど子どもは一緒に育てる関係でいたいとか、そういう選択の幅が「結婚」の中に含まれていたらもっと素晴らしい仕組みになるのになと思います。
でも、現在の日本でこういうことを言うと、ものすごく主義主張がある人みたいに見えてしまうじゃないですか。他の選択肢も選べたらいいのに、といっただけで「今決められている枠から外れようとしている人」のような目で見られてしまいます。そうではなくて「結婚で苗字が変わると、銀行口座やパスポートなど名義を変えなければいけないのでとても大変だから、家庭ごとにえらべる制度になったらいいな」という、シンプルな思いなんです。
PROFILE
山口真由(やまぐちまゆ)
1983年生まれ、北海道出身。2006年に東京大学を卒業後、財務省に入省。その後弁護士事務所を経てハーバード大学ロースクール卒業、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。現在は信州大学の特任教授として教壇に立つかたわら、テレビでのコメンテーターとして「羽鳥慎一 モーニングショー」(テレビ朝日)、「ゴゴスマ」(CBCテレビ)などに出演中。著書に『挫折からのキャリア論』(日経BP) 『前に進むための読書論』(光文社新書)など多数。
取材・文/正伯遥子
写真/古本麻由未