──新刊『エプロン手帖』も好評の平野レミさん。3年前、最愛の夫である和田誠さんを亡くしたレミさんは「今も和田さんに会いたくて、会いたくて……」と話します。今も思い出すご夫婦のエピソードを聞きました。
あわせて読みたい
「大当たりの結婚」って後がけっこうつらいのよ
──新婚の頃は、うまくいっていたけど、子どもが生まれて夫婦仲がギクシャクしているという読者の声も多いです。レミさんご夫婦はずっと仲良しでしたね。
和田さんは本当に優しい人だったし、家事や育児もしてくれたから「私ばっかりご飯作ってとか、私ばっかり子育てして」と不満に思ったことがなかったの。だから和田さんが亡くなった今、つらいのよ、一番好きな、良い夫になる人とは結婚しちゃダメね。3番目くらいの人と結婚した方があとが楽じゃないかしらね。今本当に忘れられなくて困っているもの。会いたくて、悲しくて、淋しくて、いつも思い出しているの。
──レミさんみたいな夫婦になるのが憧れという話も聞くんですよ。
私は、結婚報告のハガキに「結婚なんて賭けみたいなものだから、私はこの人に賭けてみようと思います。だからみんなも電話をかけてちょうだいね」って書いて出したの。結果、私は、大当たり。ハズレだったという人もいっぱいいるでしょう。でもね、当たりだと別れた後が悲しすぎるのよ。このつらさったら地獄よ。悲しいし、会いたいし、つらいし。
亡くなった和田さんがのこしてくれたもの
──そんなふうに思える人と出会えるなんてとてもうらやましいですが……。どんな結婚が「幸せ」なのかと考えてしまいますね。
私、結婚をする前に久米宏さんとラジオ番組をやっていたんだけれど、その番組が縁で、和田さんと食事をすることになったんです。「この後うちに来ない?」って和田さんが言うから、「行きます。行きます」って。そうしたら家中本だらけで、色んな面白い話をしてくれて、楽しくて、次の日もまた次の日も行ってね。和田さんは10日間って言っていたけれど1週間くらいじゃないかな。それで結婚しちゃったの。そのとき、和田さんは私が帰ったあとの部屋でこんな歌(下記参照)を作ってたのよ。和田さんが亡くなったあとに楽譜が出てきたの。ちょっと歌ってみるわね。ピアノでこの歌を弾きながら、息子に「和田さんは、このころからもう、お母さんと結婚するって決めていたんだね」って話したのよ。
──素敵なエピソードですね。
和田さんが亡くなって3年。寂しい気持ちがなくなればいいんだけれど、そうもいかないのよね。でも和田さんに愛された思いを大切に心にしまって元気で過ごそうと思ってるの。
【和田誠さんの作った歌♪】
いたずら猫の絵本 のんびりめくる ロッキングチェア ひとりだけのパラダイス 私の部屋
ビデオは5泊6日 あさってあたり見よう 気ままに暮らせばいつも 気分は日曜
だけどちょっぴり寒い あなたが帰ったあと 小さな部屋も広い ひとりだけだと
ラジオがそっと流す明るい恋のメロディ
鏡の中の私 ちょっとにっこり
平野レミ(ひらの・レミ)
料理愛好家、シャンソン歌手。主婦として料理を作り続けた経験を生かし、NHK「平野レミの早わざレシピ」などテレビ、雑誌を通じて数々のアイデア料理を発信。著書に『家族の味』『おいしい子育て』(以上、ポプラ社)、『平野レミのオールスターレシピ』(主婦の友社)など多数。Twitter(@Remi_Hirano)でも活躍中。
『エプロン手帖』
(著/平野 レミ、絵/和田 誠 絵/舟橋 全二)
1,650円 ポプラ社
子ども時代の味覚の記憶から、両親や夫・和田誠さんとの料理にまつわるおいしい思い出まで。食材への敬意あふれるエッセイ集。既刊『家族の味』『おいしい子育て』も好評。
撮影/古本麻由未 取材・文/髙田翔子