──詩、小説、古典の現代語訳、新聞やラジオでの人生相談など多方面で活躍する作家・伊藤比呂美さん。VERYでも以前、人生相談をしていただきましたが、やっぱり悩みは尽きません。現在、早稲田大学等で教鞭をとる伊藤さんに「女の人生」について出張講座を開いてもらいました。今回は、夫婦とセックスがテーマです。
こちらの記事も読まれています
©吉原洋一
伊藤比呂美(いとう・ひろみ)さん
1955年生まれ。詩人。青山学院大学文学部卒業。’80年代の女性詩ブームを牽引する。
結婚、出産をへて’97年に渡米したのち、2018年に帰国。現在熊本に在住。『良いおっぱい 悪いおっぱい』『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』『父の生きる』『読み解き「般若心経」』『閉経記』『ショローの女』など著書多数。
『女の一生』(岩波新書)巻末年表によれば、伊藤さんご自身の30代は、「生活に不満はなかった。よい夫で、仕事は充実して、子どもたちも健康だった。世間ではよい夫婦、理想の夫婦といわれていた。その枠に押し込められるのがいやでいやでたまらなかった」「Nと離婚。以後も家族として同居を続けることにする。いろいろある。ほんとにいろんなことが人生にはある」という波乱の時期でした。
夫婦とセックス
──伊藤さんの人生相談の回答で印象的なのは、「夫婦の問題は夫婦でまず話し合って解決しろ」という回答にしないことです。
私も人生相談を始めた当初は「話し合いなさい」って言っていたんですよ。でも回数を重ねて分かってきたのは「夫婦というのは話し合えないもんなんだな」ということ。大事な話を話し合わないからこそ夫婦関係がどうにか続いているのかもしれません。とくにセックス関連は話すのが難しいですね。アメリカのようにセックスも含め悩みがあるならカウンセリングに行くというのは一般的ではないですし、なかなか解決しません。
──夫婦関係に問題があってもだましだまし結婚生活を続けることはできる。それでも「いつかは破局が来ます」と本の中にありました。それが結局真理なのかなとも思っていて……。
確かに以前本の中でそう書いたのだけど、今はちょっと修正したいです。破局はね、来ないのかもしれないです。ズルズル、うだうだと結婚生活を続けているとそのうちに両方とも年を取っちゃって、セクシャルな欲望も年ごとに、お互いあっさりしてきちゃうんですよね。そうなると今までみたいな深刻な悩みにならない。そのうち子どもたちが巣立って、今まで色々あったけど結局一緒に暮らしている、という夫婦も多くいますよね。例えば、これから離婚して新しい男に替えようなんてこと、よっぽどの理由がないと面倒くさいからやりたくないでしょう。離婚って実行するにはやっぱりものすごくエネルギーがいるし、消耗します。それならもう今のままでもいいかと。でもこれって、結婚は人生のセーフティネットだから我慢してでも関係を続けよ、と周囲から言われてするのとはちょっと違うような気がするんですよ。今まで一緒にいた人と別れて孤独な状態になるのは人間としては、非常につらいものです。ダラダラやっていてもいつかは破局が来る。でもズルズル生活を続けるうちもしかしたら滑り込みセーフでなんとかなっちゃうかもしれない。それが今の私からの回答ですね。
POINT
ズルズル夫婦を続けているとセックスレスでもいいやとなる
■担当ライターが選ぶ
悩んだ時の比呂美本
『女の絶望』(光文社文庫 660円)
「夫と話すことがありません(三十九歳)」「夫のほかに好きな男ができた(四十代前半)」「主人の不倫が発覚しました(三十二歳)」「夫の勃起力が続きません(三十代)」……みんな悩んでいる。離婚、セックス、不倫、育児、介護……など主に既婚女性の悩みの多くを網羅。なぜ、こう思ってしまうのか。ではどうしたらいいのか。悩みの根本原因から解決法まで、ここまで具体的かつ親身に答えてくれる本ははじめてでした。「誰にも相談できない」と思ったときに効く!本です。2冊目には『人生おろおろ 比呂美の万事OK』(光文社文庫)『女の一生』(岩波新書)『閉経記』(中公文庫)も。
取材・文/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2022年9月号「伊藤比呂美先生「女性の生き方」集中講座」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。