生活リズムも価値観も自分優先ではなくなったけれど、 本当は誰にでもあるずっと変わらず好きなことをインタビューする連載「ママですが、これが好き!」。Web版では、産後の不調や、一人時間の大切さについて語っていただきました。
気を付けるのは、とにかく“命を守ること”
——エリイさんは、社会への疑問をアートで訴えかけるアーティスト・コレクティブChim↑Pom from Smappa! Groupのメンバーとして、ヒロシマや東日本大地震、アメリカとメキシコの国境間の「壁」などに対して、挑戦的な作品やプロジェクトを精力的に手掛けてこられました。お子さんが生まれてから仕事に対する意識などに変化はありましたか?
以前は無駄な時間が多かったように思います。でも、子育てをしていると物理的にそういうわけにはいかなくなったので、「時間とは何か」を意識するようになりましたし、時間の使い方を考えるようになりました。
——働き方のスタイルは変わりましたか?
大きな変化はないですね。以前からLINEや私の家で会議していたり、子どもにとっては、生まれたときからメンバーがいるので慣れていて違和感はないです。今も会議が終わったらバーベキューをしたり、メンバーが子どもと遊んでくれたりするので、楽しいですし、安心できます。あと、制作するときはアトリエに行きますが、たいては子どもが保育園に行っている間です。本当に切羽詰まってきたら夫が子どもを見てくれている間に集中しています。
——家で仕事をしていると、オンとオフの気持ちの切り替え方が難しい、とリモートワークをする読者さんからも聞くのですが、エリイさんはいかがですか?
それは難しいですよね。私は元々特にプライベートと仕事の境目がないので、気持ちはなかなか切り替わらない。ただ、今は新連載に向けて文章を書いているのですが、書くと気持ちが一段階上がったようにすっきりします。
——毎日どのようなライフスタイルを送られているのですか?
朝は大体8時15分に起きます。区の子育て支援で提携しているシルバー人材センターの方が、週に何回か朝に訪ねて来てくれるので助かっています。そこから、朝ごはんの準備をするのですが、パンを焼いたり、納豆を混ぜたりしていますね。食事を終えて一緒に絵を描いたり、踊ったりして一通り遊んだら保育園に送っていきます。作品のアイディアを出さないといけないときは、そのままお迎えまで散歩をしていることもあります。
——本誌では、趣味の散歩の話に加えて、お子さんの学校選びについてお話しいただきました。今お子さんは1歳ということですが、特に子育てで気を付けていることは何でしょうか。
当たり前のことが当たり前過ぎて、生活に溶け込んでいくことに気を付けています。今までのように自分一人だけで生きているのではない、という当たり前のことや、ちょっとはいいだろう、という甘い考えを危険だと認識することです。“ネグレクト”って線引きが危ういと思っています。
私の場合は、ひどく怒ったり暴力的な虐待をしたり、というよりは、ぼんやりしていてうっかりご飯を準備しそびれてしまったりしないようにする、ということです。一般的な生活リズムに関しては、自分自身の常識を信じられないというか。本当にその点に関しては恐怖を抱きながら、命を守ることに気を付けています。
家族3人で動くのはもったいない
——出産後に初めて料理をされたということですが、離乳食も作っていらっしゃったのですか?
お粥をブレンダーして、冷凍にしたりしていましたが、私自身が味がお気に入りのベビーフードがあってそれをよくあげていました。チューブになっていてそのまま口から吸えるんですよ。今でもたまにあげています。産後一年以上、体調がめちゃくちゃ悪くて、今振り返ると、あれが産後うつだったのかなぁと思います。当時は友達も気付かなかったし、自分ですら気付いていなかったのですが。体が辛すぎて電車などの公共交通機関にも、一生乗れないんじゃないかと思っていました。
産後1カ月で立ち上がれて、3カ月くらいまでは歩くのがやっとでしたね。家の中の移動すらかなりキツかったですが、見ただけでは分からないことなんだと思います。めちゃくちゃ辛かったのですが、誰にも言わなかったです。1年と数カ月経ってやっと、「あれ、これはもしかして」と気づいた感じですね。子どもは望んで出産したんです。私自身、6歳のときに妹ができて、それまで自分だけに集中していた親の注目から解放されて嬉しかったので、2人目も欲しいのですが、今はやっと体調が戻ってきたところなので。
——赤ちゃんと家にこもっている状態では、自分を客観視することは難しいですもんね。今は一人の時間などは持たれていますか?
一人の時間は大切です。私はいろんな景色を見たいし、お酒も飲みたい!友達と話す内容はいろいろです!仕事や最近知った話とか、選挙の話をしたり……いろいろ話して前向きな気持ちになります。家族3人で過ごす時間も大好きですが、一人が子どもに付いていればもう一人は時間ができるので、どちらか一人は出かけるようにしています。
夫が3人でいる時間を「もったいない」と思うタイプで、日によって「エリイ、出かけてきていいよ」と声をかけてくれたり「俺が出かける」と言ったり、それぞれの時間を過ごしています。そうして過ごしてみて分かるのですが、本当に一人の時間は大切です。
親の向き合い方を子どもは見ている
——ビジネス界でもアート思考の大切さが話題になっていますが、子どものうちからアートに触れさせたいと考える親がなすべきことは何でしょうか?
子どもって、親が物事や人とどう向き合っているかという“姿勢”を見ているんじゃないかと思うんです。まず赤ちゃんは、親や他者の動きや言葉の真似からしていきますよね。だから子どもにどうなってほしいか、よりも、自分がアートとどう向き合うかを先に実践するのがいいのでは。
「私はアートとかよく分からないから」と、負い目を感じる必要はないと思う。美術館に一緒に行くとかだけじゃなくても、日常生活にあるちょっとした絵や色でも私はこう思ったなとか、こんな発見があったなとか声かけをしていくのがいいのでは。そのこころがけで、自分自身もアートに対しての気付きがあるかもしれないですよね。
——日常の声がけから始めればよいのですね。では、実際に美術館に連れて行きたいなと思った場合は何歳からがいいなど、目安はありますか?
自分が納得できるのなら、何歳でもいいと思います。例えば、先日私たちが森美術館で開いた個展“Chim↑Pom展:ハッピースプリング”では、入口に託児所を設置しました。託児所があれば、親は展示を見ている間は丸ごと自分の時間を過ごせるし、子どもも楽しく遊べる。例えば、1回目は親だけでゆっくり最初に見て理解を深めた後に、託児所からピックアップして2回目を一緒に回ってみるのもいいな、と思いました。
——最後に。お子さんにはどんな風に育ってほしいと思いますか?
前向きな心を持つ。細かい事にこだわらない子がいいですね。ささいな事に気を取られて時間を無駄にしていくよりは、あんまり気にしないで、本当にやりたいことや気持ちが動くことを見失わない子どもになってほしいです。
プロフィール
●エリイ 社会への疑問をアートで訴えかけるアーティスト・コレクティブChim↑Pom from Smappa! Groupのメンバー。森美術館で開催された個展では託児所をつけるなど1歳の母としての着眼点が話題に。著書に『はい、 こんにちは』(新潮社)がある。
エリイさんの一人時間の過ごし方や、子育てエピソードは本誌のインタビューでも!VERY9月号をチェックしてみてください。
取材・文/馨都 編集/城田繭子