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ブレイディみかこさん「イギリスの絵本は多様性や政治のことを考えるきっかけになる」

イギリス・ブライトン在住のコラムニスト・ブレイディみかこさん。100万部の大ヒット作『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読んだことのあるVERY読者も多いはず。ブレイディさんの新作小説『両手にトカレフ』は、家庭に深刻な問題を抱える14歳の少女・ミアが図書館で一冊の本と出会うことで、世界が変わっていく様を描いています。インタビュー第2回は、教育の中で読書を重視するイギリスの子ども向けの本のテーマについて。日本でも翻訳されているイギリスの名作絵本もご紹介いただきました。(全3回連載。前回はこちら

ブレイディみかこ
保育士、ライター、コラムニスト。1996年からイギリス・ブライトン在住。『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で新潮ドキュメント賞を受賞。2019年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で毎日出版文化賞特別賞などを受賞。子育て世代だけでなく幅広い層で共感を呼んでいる。

イギリスの絵本は多様性や
政治的なことを描いた作品が多い

——日本では『ぐりとぐら』や『100万回生きたねこ』のように、親世代からずっと読まれているような名作絵本がありますが、イギリスにもそういった作品はありますか?

今はどうだかわかりませんがイギリスでは小学校入学のときに、政府が全ての子どもたちに絵本を贈っていました。息子も貰いましたが、そこに入っていたのがいわゆる名作と言われるような古典ですね。『We Are Going on a Bear Hunt』(邦題『きょうはみんなでクマがりだ』)やSuzy Gooseシリーズ、『Dear Zoo』(邦題『どうぶつえんのおじさんへ』)といういろんな動物が出てくるもの、そのあたりがみんなが読む絵本かな。あとは、GRUFFALOシリーズ(邦題『もりでいちばんつよいのは?』)や、STICK MANシリーズ(邦題『こえだのとうさん』)も有名です。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』にも出てきた、同性愛のペンギンを描いた『タンタンタンゴはパパふたり』も何十年も読まれているみたいですね。息子は小学生の頃は『Wonder』(邦題『ワンダー』)という本がすごく好きでしたが、息子だけじゃなくて友達もみんな好きで流行っていたみたいです。入学に際して政府が本を贈るというのは、これから君たちは本を読んで勉強するんだよというステイトメントだと思います。

『Wonder(ワンダー)』 R・J・パラシオ(作)、中井はるの(訳)/ほるぷ出版
きょうはみんなでクマがりだ We're Going on a Bear Hunt (英語・日本語CD付き)マイケル・ローゼン (著), ヘレン・オクセンバリー (イラスト), 山口文生 (翻訳)/ラボ教育センター
タンタンタンゴはパパ ジャスティン リチャードソン (著), ピーター パーネル (著), ヘンリー コール (イラスト), 尾辻 かな子 (翻訳), 前田 和男 (翻訳)/ポット出版
こえだのとうさん ジュリア ドナルドソン (著), アクセル シェフラー (イラスト), Julia Donaldson (原著), Axel Scheffler (原著), いとう さゆり (翻訳)/バベルプレス出版

——日本の絵本は、人と協力して何かを成し遂げることや協調性の大切さを伝えるものが多い気がしますが、イギリスの絵本はどういうテーマが描かれていますか?

絵本ではないですが、『Wonder』だと多様性の話ですし、人と違ってもいい、違うからといって仲間はずれにされるのはおかしい、みんな違っても共生していくというストーリーが多いかもしれないですね。あとはユーモアがあって面白いものかな。中高生が読むようなYA(ヤングアダルト)と言われるジャンルも日本のラノベとは違っていて、テーマが社会的なことや政治的なことを書いた本が多いです。そういうものを読んでいると、家族で食事をするときの会話でも自然と政治や社会の話になるし、時には親がびっくりするような内容のものを読んでいたりしますよ。

 

——どういうびっくりですか?

こんなに辛い現実をきちんと直視させるんだ、というものですね。イギリスの本の話ではないですが、今年1月に谷川俊太郎さんが出された作品に『ぼく』という絵本があって。子どもが自殺する話なんです。普通は、死にたいと思っても最後は死ななくてめでたしで終わるけど、「ぼくはしんだ じぶんでしんだ」と本当に淡々と自殺してしまうんです。それをなぜ書いたのか、インタビューで谷川さんが聞かれたときに「辛い現実と向き合ってもらわないと、本を書く意味がないと思った」とおっしゃっていて。私が『両手にトカレフ』を書いた気持ちと似ているなぁって。そうやって、子どもたちに辛い現実を直視させる本がもっとあってもいいなと思うんです。

 

スマホの弊害はイギリスでも問題に
読書が苦手な子向けの本もある

——読書を通じて社会の問題ときちんと向き合うということですよね。

日本に比べたら、イギリスの子どもたちはそういう機会が多いと思います。日本の絵本やヤングアダルト作品ももっと厳しいことを書いてもいいし、子どもたちはもっと本当のことを知りたがってると思うんですよね。ヨーロッパの子どもは政治に関心があるのに日本の子どもがそうじゃないケースが多いんだとしたら、それはそういう教育なり文化なりを提供していない大人の責任という部分もあるのかもしれません。

 

——どんな子でもそういうヤングアダルト作品を読んでいるんですか?

いや、そこが格差と言われるところで。みんながみんな、読書習慣が身についているかといったらそうではないです。ミアのような家庭の子はそんな機会は得られないし、経済的な階級が文化的な階級にもスライドされることがあり、朝から晩まで働いているシングルマザーのママ友はそんな時間もなかったりする。イギリスは教育格差がすごいので、なんでもかんでもバラ色というわけではないです。

 

——イギリスでもネットやスマホ依存の問題はありますか?

もちろんあります。教育格差やスマホの弊害で長い本を読めない子どもがたくさんいるということで、イギリスでは分厚い本を読めない子のためにすごく薄い本があるんです。まずはそこから始めましょうと。厚さ1cmもなくて文字も大きいのですが、一冊読むとすごく自信になるからということなんですね。日本でも筑摩書房という出版社がちくまQブックスという新しいレーベルを2021年に作っていて、それがイギリスの薄い本をモデルにしているみたいです。イギリス留学から戻ってきた学校の先生が、日本にもあったほうがいいんじゃないかと言って参考にしたと聞いているので、読書が苦手な10代の子にはいいかもしれませんね。

 

読書によって厳しい現実を知ることで
社会を自分ごととして捉えるようになる

——中高生になってそれなりの作品を読むには読書体験が必要ですし、小さい頃から半強制的にでも読書習慣を身につけてくれるイギリスの教育はやはり魅力的だなと感じました。

一概に素晴らしいとは言えないですけど、国や学校としては家庭を巻き込もうとはしていますよね。やっぱり急に難しいものを読めと言われても無理ですから。あと、辛い現実を直視させる本を読んだほうがいいと思うのは、そういった現実があるのは社会に問題があるんじゃないの?と気づくきっかけになるから。辛くて厳しい現実があるなら、自分たちが変えなきゃいけないと政治や社会について考えるようになる。読書を通じて、現実としっかり向き合うことも大事だと思います。

ブレイディさんの新刊 『両手にトカレフ』はポプラ社より発売中!

取材・文/宇野安紀子

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