できることなら片づけたい、でもできない……、どうしてもできない、永遠にできない? もしかしたらそれは「脳のクセ」のせいかもしれない?という噂を聞き、ADHDの片づけに詳しい専門家にお話を伺いました。今回は、臨床心理士・公認心理師の南和行さんにADHDの人がなぜ片づけが苦手なのか教えていただきました。
※掲載中の情報はVERY2021年6月号(5/7発売)掲載時のものです。
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ADHDの人が片づけられない4つの理由
南 和行(みなみ かずゆき)さん
1979年石川県生まれ。臨床心理士・公認心理師。早稲田大学第一文学部心理学専修を経て、ミシガン州立大学大学院カウンセリング心理学科修士課程修了。ADHD(発達障害)・トラウマ改善のカウンセリングを専門に行う。西原さんのカウンセリングと本の監修も担当。小学生になったばかりの長女、2歳の長男の父。カウンセリングルーム「すのわ」sunowa.net 代表。
Q. ADHDの人はなぜ片づけが苦手なのでしょうか?
A. 大きく分けて以下の4つの原因があります。
①「脳内多動」と「衝動性」のせいで集中できない
②面倒なことはとりあえず先延ばしにしてしまいがち
③空間認知が苦手でスペースをうまく活用できない
④優先順位を決められないので段取りが下手
ADHDの人の脳は常に新しいことを思いつきフル稼働状態。やりたいと思ったら即実行に移したくなる衝動性があり、結果注意散漫になるので、ものを出したことを忘れて出しっぱなしにすることもしばしばです。私自身もその傾向にあるのでよくやってしまうのですが、片づけをはじめても古雑誌等を読みふけってしまって作業が続かないのもよくあること。また、自分の視界から消えると存在を忘れてしまいがちなので、見えない収納はインテリアとしてはよくてもADHDの人には不向きのようです。それから、物事の優先順位をつけられず、ものを捨てることができない人も非常に多いですね。このようにADHDの特性ゆえに片づけが苦手になりやすいのです。
Q. 病院を受診するかどうかの目安はありますか?
A. 判断の目安は「二次障害があるかどうか」です。発達障害の特性があることで、仕事や家庭生活に困難を抱え、二次的な障害として抑うつ状態になり、著しく自尊心が下がってしまうような場合、病院を受診して検査を受けて客観的に判断してもらうことも解決策の一つとして考えられると思います。ただ、私自身もそうだったのですが、診断名がつくほどではない発達障害グレーゾーンの人も多くいます。この場合病院に行っても具体的な療養の指示や投薬などの方法があるわけではありません。結果、解決策を得られず迷ってしまう人もいます。発達障害の人のための交流会などに参加することやカウンセリングを受けてみるのも一つの方法です。
Q. ADHDとASD、どちらも片づけが苦手になりやすいのでしょうか?
A. ADHDとASDがそれぞれ単独の症状として出る人もいれば、それぞれの特徴を併せ持つ人もいます。一般的にADHDの人は衝動的に買物をして収拾がつかなくなり部屋が散らかる傾向があり、ASDの人はこだわりが強くものを捨てることが苦手です。特性の重なりがあることでより片づけが難しくなることもあります。近年は、明らかに不要なものも捨てられずため込んでしまう「ためこみ症」という病気も知られるようになりました。対処が難しい状況のときは医療機関や発達障害者支援センターなどの専門機関に相談することをおすすめします。
認知行動療法とは、自分の考え方や行動のクセを知り、考え方や行動のパターンを変えていくことで生活上のストレスを減らす心理療法。私はこれでずいぶん心が楽になりました(南さん)
大人の発達障害
● ADHD(注意欠如・多動症)
先天的な発達障害のひとつ。「不注意」「多動性」「衝動性」の特性を持つ。不注意、落ち着きがない、後先考えない、など。
● ASD(自閉スペクトラム症)
強いこだわりやコミュニケーション能力の困難などの特徴がある。スペクトラムとは連続するという意味で「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」を含む。いわゆる「コミュ障」「凝り性」。
※他に、読み書きや計算が極端に苦手なLD(限局性学習症)などもある。これらは医学的には区別されているが併存する(複数同時に持っている)ことも多い。
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撮影/古本麻由未 取材・文/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2021年6月号「私の家が片づかないのはなぜ?」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。