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性教育ノベル第12話「好きな人ができたの。3人の秘密ね!」By アミ|Girl Talk with LiLy

●登場人物●

キキ:雨川キキ。早くオトナの女になりたいと一心に願う。親友はアミ。大人びたスズに密かに憧れを持ち、第7話でついに初潮が訪れた。同じオトナの女になった喜びから、スズにガーベラをプレゼントした。

スズ:キキのクラスメイト、鈴木さん。オトナになりたくない気持ちと、すでに他の子より早く初潮を迎えたことのジレンマに悩む。両親は離婚寸前。小学校受験に失敗したことで家では疎外感を感じている。

アミ:竹永アミ。キキの親友で、キキと同じく早くオトナになりたいと願っている。大好きなキキと一緒にオトナになりたい気持ちから、キキが憧れるスズについ嫉妬してしまう。

リンゴ:保健室の先生。椎名林檎と同じ場所にホクロがあることからキキが命名。3人の少女のよき相談相手。

マミさん:キキの母。ミュージシャン。

 

▶︎前回のストーリーを読む

Talk 12.

「好きな人ができたの。3人の秘密ね!」

Byアミ

キキが、私に気をつかってくれているのがとてもよく伝わった。それが私は、とてもイヤだった。

「だからね、スズが手作りポーチをスタンバイしているからね! アミに生理がきたら教えてね! タイミングは、人それぞれだから早ければいいってものじゃないし、未来が楽しみだね! 」

「んー、私はまだこなくっていいなー。嫌だもん、普通に考えて。血が出るって。一回きちゃったら、そこからはもう毎月くるんでしょ? 遅ければ遅いほうがラッキーだと思うー」

強がった。

「ああ! それもそうだね! 確かにそうかもしれない。アミはラッキーガールなのかもだね」

自分は生理がきて喜んでいるくせに、私に話を合わせてくるなんてキキらしくなくて腹が立った。いちいち気を使っているのか、私の未来に対してキキがポジティブになりすぎていて、ムカついた。だけど一番は、そんなふうに感じてしまう自分がイヤ……。

もういいから放っておいてよって、言いたかった。スズと2人で生理のはなしでもしていればいい。その輪に、私は入れない。

「ちょっと用事あるから、今日は先に帰るね」

泣きそうになるのをこらえていたから、キキの目を見ないで言った。すぐに教室を出た私の背中にキキの視線を感じて、そこからも逃げるように私は廊下を走りだした。階段を下りるために右に曲がると、角で勢いよく誰かにぶつかった。

「あ、ごめんなさい」

振り返ると、

「竹永? 泣いてる?」

同じクラスの安達春人。泣き顔を見られたことに動揺して、何も言わずに廊下を駆け下りる。目からあふれ出てくる涙を手でぬぐいながら、下駄箱を目指す。早く学校の外に出たい。早く、学校の人が一人もいないところまで行って、そこで大声をあげて泣きたい。泣くことを我慢することが辛くって、私は急いで階段を駆け下りる。

「え、待ってよ。竹永!」

後ろから、安達の声がする。

「どうしたんだよ、大丈夫?」

どうしてだろう、安達が後ろから追いかけてくる。え、なんで? 今まで話したこともそんなにないのに。

「竹永!」

安達が私の名前を叫んでくる。

「もう、放っておいてよ!!」

焦りからなのか、気づいた時には振り返って叫んでいた。キキに言いたかったセリフを、私は安達に向けて叫んでいた。安達の足が止まった。私は安達にまた背を向けて、そのまま階段を最後まで一気に駆け下りた。安達の悲しそうな目が、脳裏に焼きついた。

 

下駄箱で外靴に履き替えて校門を出てからも、まだ安達の悲しそうな目が頭から離れなくって、私はなぜか、泣きたい気持ちを忘れてしまった。

安達春人。家に帰ってすぐ、去年の学校アルバムを引っ張り出した。うちの学校のクラス替えは2年に一回。つまり、5年と6年の2年間クラスメイトが変わらない。5年1組。安達春人の写真を探す。ついさっき、階段に立ち尽くしていた今の安達からは想像もつかないくらい、まだ幼い顔立ちをした安達が真顔で写真に写っている。集合写真の中にも安達を探す。見つけ出すのに、時間がかかった。

安達、この1年でずいぶんと背も、伸びたんだな。

そういえば、何か書いてくれたかもしれない。後ろの白いページにみんなで寄せ書きをし合ったのだ。ただ、クラス全員が書いたわけじゃない。キキとはもちろん一番最初にお互い書き込みをし合った。あとはよく話す女子とか、隣の席だった男子とか、たまたまその時近くにいた人とかだ。安達が、その時書いたかどうかも覚えていない。でも、急いでページをめくりながら、私は期待していた。安達の字が、そこにあることを。

 

――――あった!

「今年はあまり話せなかったけど、6年になってからもよろしく! 安達春人」

 

最後のページの一番下に、控えめに、小さな字で――――でも、とても綺麗な文字で書き込まれていた。安達らしい、と思ったらほおが自然とにやけていた。いつも騒がしい男子たちとは違って、安達は大人しくて、だからどこか他の男子よりもオトナっぽい雰囲気がある。その安達が走って私を追いかけてきたことが、さっきは意外だった。泣き顔を見られた気まずさもあって、だからとっても焦ってしまった。

待って。安達の書き込みがあるということは、私も安達のアルバムに書き込んだということだ。アルバムを交換して互いに書き込み合う、ということをしていたわけだから。

なにを、自分は安達のアルバムに一体なにを、書いたのだろう。去年は、ううん私はついさっきまで安達を男子として意識して見ていなかった。だからきっと、他のクラスメイトに書いたのと同じような当たり障りのないメッセージを書いたのだろう。「来年もよろしくね!」みたいな感じの。

ただ、せめて、私は字が安達みたいに上手ではないけれど、どうかなるべく綺麗な文字で書いていたらいいな。どうしてだろう、そう強く思っている自分がいた。

夜、ベッドの中に入っても私はずっと同じことをグルグルと思い出しては考え続けていた。

放っておいてと私に言われて、悲しそうだった安達の目。悪いことをしてしまった。胸が痛くなる。泣いている私を追いかけてくれた、安達の気持ち。踏みにじってしまった。謝りたい気持ちが込み上げる。そして、最後には、

 

――――もしかして安達、私のことが好き?

 

何度もその一つの質問にいきついてしまって、私は一人で勝手に照れていた。……恋? もしかして、これは、恋なのかもしれない。ならば、キキに話したい。

「DEARアミ 6年生になっても、これからもどんなことがあっても大親友だよ! 何かあったらすぐに! 一番に! ほうこくしあおうね! 一生大好きだよ!! FROMキキ」

アルバムの書き込みの中で、一番大きく目立っていたキキの文字。私にもキキに報告したいことができたこと、その事実に胸が高鳴っていた。そして、去年はアルバムに書き込みすらしてもらっていなかったスズにも、一緒に伝えたい。

 

「好きな人ができたの。3人の秘密ね!」

明日、保健室に2人を集めてそう言おう。

 

そのシーンを想像したら、今日のゆううつがウソみたいに吹き飛んで、ベッドの中で私はようやくウトウトしはじめた。

 

 

<つづく>

◉LiLy
作家。1981年生まれ。ニューヨーク、フロリダでの海外生活を経て、上智大学卒。25歳でデビュー以降、赤裸々な本音が女性から圧倒的な支持を得て著作多数。作詞やドラマ脚本も手がける。最新刊は『別ればなし TOKYO2020』(幻冬舎)。11歳の男の子、9歳の女の子のママ。
Instagram: @lilylilylilycom

 

▶︎前回のストーリーはこちら
第11話「タイミングこそプレゼント」Byリンゴ

 

 

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