産後は、人生で最も精神的にも肉体的にもハードな時期。それなのに「ママになる幸せ」「母は強し」という前向きすぎるイメージをぼんやり抱いたまま、この一大事に丸腰で挑んでしまう場合の多いこと――。「こんなはずじゃなかった」と思うママが多い現状について3名の著名人に鼎談を依頼しました。すべての夫と妻への緊急メッセージ!
【左】SHELLY/タレント。1984年生まれ。14歳でモデルデビュー以後、タレント、MCとして幅広く活躍。2019年11月に離婚し、4歳と2歳の娘と暮らす。
【中】宋 美玄(そん・みひょん)/産婦人科医、医学博士。丸の内の森レディースクリニック院長。産婦人科医としてメディアで発信するほか、セックスや性教育に関する著書も多数。
【右】田中俊之/社会学者、大正大学心理社会学部人間科学科准教授。1975年生まれ。男性学を専門とし、著書に『男性学の新展開』『男が働かない、いいじゃないか!』などがある。
妊娠中から、当事者意識の
差ができてしまう現状が気になる!
SHELLYさん(以下SHELLY) この本にある「私に何でも聞かないで」にすごく共感。私は妊娠した瞬間からリサーチャーになって、情報をたくさん身に付けたんだけど、元夫はわからないとただ私に聞いてきていたなと。夫も調べた上で意見してほしいし、聞きかじりで皆こうらしいと言われると辛いですよね。もっとプロアクティブに自分も一緒に参加している気持ちを妊娠期から持ってほしいな。
宋 美玄さん(以下宋) 妊娠中からの当事者意識の差は問題ですね。夫の生活が変わらなければ、家事育児の役割が固定されてしまいます。多くの夫は、育児をしてと言われても具体的に言わないとわからないらしくて、完全に指示待ち族だったりする。でも、本来ママもパパも初めてなのに、ママが新入社員を育てるように夫を育てなければいけないのかと思ってしまいます。
田中俊之さん(以下田中) よく「子どもなんて勝手に育つ」と言うけれど、それは育ててない年配者が言っている場合が多いですね。
SHELLY その意味では里帰り出産も気になります。一番大変な時期を見ずに、帰ってきた時にはもう役割も固定されていて、余計当事者意識が薄れてしまうケースもあると思う。
そして、悪気はないまま安全圏からついモノ申してしまう夫ができあがる
SHELLY 本に「アウトソーシングはうまくいく秘訣です」とあります。お母さんの料理を食べてこそ、お母さんが家事をやっていてこそきちんとした家族だという刷り込みから、女性も男性も自由になれていないなと。
宋 私はアウトソーシングをガンガンしています。みんなよその人を家に入れたくないと言うけれど、すぐ慣れるんですよ。
SHELLY 家に人を入れるのを女性が嫌だと言うんだったらわかるけれど、大変じゃないほうがアウトソーシングしたくないって言うのは違うんじゃないかなと思う。男性こそ率先して週1回お掃除来てもらおうよと言ってほしい。しかも、調べて斡旋するところまでやるべき。
宋 私の友だちが半年間夫を説得してやっとホットクックを買うことになったと言っていました。夫にとっては、妻が無償で料理してくれることが当然で、お金を出して調理器具を買うことを必要だとすぐには思えなかったんですよね。家事や介護や保育の対価が低すぎて、女が我慢すればタダと思うものに対して、男性は対価を払いにくい。無痛分娩もお前が我慢すれば25万円かからないのにと、いまだに夫や姑に言われている妊婦がたくさんいます。
SHELLY 本の中にもありましたよね、産み方は妻の意見に任せてと。じゃあ、あなたが歯を抜く時に心配だから麻酔を使わないでって言いたくなる(笑)。みんな出産だと、なぜか口を出していいと思っちゃう。
宋 母乳に関しても、乳児健診や出産の時にいろいろケチをつけられてしまう場合があるんですよ。
SHELLY 言い返せないお母さんもいっぱいいると思う。
宋 母乳神話を押し付けてくる夫だっています。母乳に関してはお母さんがどれだけこだわりたいかによるし、お母さんの気持ちに寄り添ってほしい。最初の1カ月は特に、母乳で悩むことが多いから、世の男性には、いかに産後ボロボロな時におっぱいを出すのがしんどいかはわかっておいてほしいです。
育児が思うようにいかないと
女性ばかりが無力感に悩んでいる
田中 外で怒ってるお母さんを見るとあんなに言わなくてもいいのにと思うけれども、実際相対すると、わざといらつかせてくる時ってあるじゃないですか(笑)。女性だからヒステリックになるんじゃなくて、誰でも幼児と長時間いれば、カーッとなる時はあるんですよね。
SHELLY 「女性はヒステリック」っていうのはまさにそこからですよね。子どもとずっと向き合っているのが女性だっただけで。
田中 実感がありますが、男もやったらなります(笑)。
SHELLY 長時間一緒にいなければ、パパの前で子どもは猫被る。だからたまに土曜日一緒にいたくらいで、「超いい子じゃん、お前のやり方が悪いんじゃない?」とか「言えばわかるよ」とか言われてしまうことも。
田中 仕事はコントロールできる部分が増えていくし、それが手ごたえや成果につながるけれど、子育ては全然そういうものじゃない。第1子の時は自分はこんなに役に立たない人間なんだと思いました。多くのお母さんが味わっているこの無力感を、男性も味わうべきだと思いますね。
宋 子どもがいる人同士でも、育てやすい子かそうじゃないかで大変さは違っていて、「親のしつけがなってない」という話にもなって断絶が生まれますよね。
田中 イヤイヤ期にしても、その大変さはやった人しかわからない。歯磨きとかは、嫌と言われてもやるしかないし、押さえつけて虐待状態じゃないかと思いながらもやっています(苦笑)。
SHELLY うちはイヤイヤ期の時は、ママじゃないとだめだからと丸投げでした。今は離婚したので、元夫が面倒を見ている時は夜中にたまに、映画『エクソシスト』に出てくる女の子みたいに泣いてるけどどうしたらいいかって連絡がきますよ。昔なら「俺明日仕事だから」って言われて、(私もな)って思いながらも私がやらないと収まらない感じがしていたんです。でもなんとかそれを収められるようになると自信がついた。彼も今やっと親としての自信の貯金ができてるんじゃないかな。
>>後編「夫にもの申したくなるのは、日本社会のせいなのかも!?」に続く
ママたちの生の声を集めた書籍!
『友達の夫に贈る100の言葉』発売中!
友だちが妊娠した時にアドバイスしたいのは友だち自身ではなく、
むしろその隣にいる『友だちの夫』――。
この本は2019年10月号の本誌に掲載された
『出産前の友だちよりも心配な「友だちの夫」に贈る100の言葉』
という企画に加筆・修正し再編集したものです。
「どうか、これだけは覚えておいてほしい」という先輩ママの血が通った
言葉たちを、せっかくなら〝これからパパになる夫たち〟に届けたいと考え、
男女問わず手に取りやすい書籍という形に生まれ変わらせました。
「妊娠中のふわふわハッピーから一転、産後の子育て&
夫婦関係がこんなに大変になるなんて。誰も教えてくれなかった」
そんな、SHELLYさんの言葉も発売の後押しになっています!
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撮影/福本和洋 スタイリング/松本ま生 ヘア・メーク/盛田菜生(SHELLYさん・宋さん) 取材・文/有馬美穂 編集/羽城麻子
※VERY2020年8月号「SHELLYさん×宋美玄さん×田中俊之さん鼎談『どうして私たちは産後、夫にモノ申したくなるのか』」より