映画『生理ちゃん』の公開が決まるなど、実は今世の中は“第3次生理ブーム”! これから初潮を迎える女の子のために、生理痛に苦しむママに、よくわからないけど大変そうと思っているパパも必読。パパ&ママでもある3人の識者が生理と日本の未来について真剣に語りました。
生理を恥ずかしいと
思ってしまうのは、なぜ?
佳子 小学生のとき「まだ生理がこない」とみんなで話していたのに、ひとりの子の下着が赤く染まっているのを目撃してしまい。そのときに〝家族以外には内緒にしなきゃいけない〟とインプットされた記憶があります。
田中 経血漏れは、生理をネガティブに感じてしまう大きな要因ですよね。ナプキンがなく脱脂綿を使っていた時代は、経血漏れなんて当たり前。今の女性の社会進出は、ナプキンの進化があってこそですが、高性能になった分、経血漏れが稀になり、余計に恥ずかしく感じてしまう状況があるのかもしれません。インドでは経血漏れを指摘されて自殺、なんて事件もありましたから。
竹下 多くの男性はそもそも生理のことをよく知らないから、経血漏れに気づいたとしても手の差し伸べ方や、恥ずかしさの真意すらもわからない。僕も生理を理解しだしたのは、妻の生理痛を目の当たりにしてからです。それ以前は「生理でイライラしてるの?」なんて、思いやりのない発言をしていたかも。
わかってほしいのは個人差。
教えたいのは選択肢
佳子 女性同士でも生理痛の重さの違いなどで「私が大丈夫だから、あなたも平気でしょ」みたいなことはあります。生理は大変と労わられるよりも、どうしようもない体調不良が起こること、個人差があることを社会が理解してくれるのが理想です。
田中 そうなんです。生理には個人差があるし、その個人差に合った〝選択肢〞も多くあります。小学生でも、先々の選択肢としてプールのときはタンポンが安心とか、生理痛には鎮痛薬以外にも低用量ピルが有効だとか、辛いのを我慢するだけじゃない生理との付き合い方を教えてあげたいです。
佳子 でも、タンポンは怖くないですか? 菌が繁殖して足を切断したなんて怖いニュースも。
田中 トキシックショック症候群のことですね。滅多に起きないことですが、正しい使い方を教える必要がありますよね。
竹下 部下の生理痛の告白で立ち上げた#ladies be openをきっかけに、僕も生理についていろいろ調べましたが、皮下インプラントで生理をなくすという話題も出てきていますよね。
佳子 生理がなくなる?
田中 皮下インプラントはピルと違って「飲み忘れ」もありません。普及すれば、女性たちが生理痛だけではなく、〝生理から解放される日〞が近い将来やってくるかもしれません。「自然に逆らうなんてよくない」というご意見もあるかもしれませんが、女性は人生で平均450回も生理を経験するんです。あまりの辛さに絶望している人もいるのに、必ずしもNGと言えませんよね。
第3次生理ブーム。
理解を深めるチャンス
田中 月経不浄視に基づく慣習が公に廃止となった明治、アンネナプキンが誕生した1960年代に次ぎ、今〝第3次生理ブーム〞が到来していると思っています。本音を語れるいい機会ですよね!
佳子 娘たちの学校は共学ですが、教室でも結構オープンに話しているみたい。ナプキンを一緒に買ったときも「紙袋に入れなくても平気。だってママ、世界の半分が女なんだよ。恥ずかしがるなんておかしいよ」って。
竹下 #No Bag For Meですね。ナプキンも男性でもわかりやすいパッケージだと助かります。たまに緊急事態で「買ってきて」と頼まれても、何cmとかわからない(笑)。たとえば重い日だから◎とか、軽い日だから△とか、一目でわかるユニバーサルデザインを作ってほしい。
佳子 確かに! 海外の女性が日本に来てもわかるデザインにしてほしい。この間、タイに行ったとき現地でナプキンを買ったんですが40個入りと思って選んだものが、まさかの40cmサイズ2個入りで。長いし、足りないわで大変でした(笑)。
田中 私は大量にストック派なので夫に買いに行ってもらうことはないですが、家族の中ではそれぐらい生理はオープンなものでありたいですね。
佳子 うちの娘には、幼稚園ぐらいから〝ママは今日、生理だから一緒にお風呂は入れないんだよ〟と言うようにしていました。そうすると〝生理って何?〞と自然に教えられる状況になる。
竹下 今は、オープンにしなくてもオープンになっちゃう時代。知りたいことは何でも調べられちゃうじゃないですか。他から変に情報が伝わるくらいなら、きちんとした情報をまずは親が教えたほうがいいと思いますね。何か問題が起きたときに、親の顔を思い浮かべてほしいという予防線の意味でもあります。
佳子 生理すら話せない間柄だったら、子どもが予期せず妊娠してしまったとしても、親に相談する可能性は低いですよね。
心と身体のことは
笑っちゃいけない教育を
田中 家庭によって状況が異なりますから、学校での教育も必要。恥ずかしさなく語ることのできる、産婦人科の先生などプロを招いて教えるべきです。
竹下 男性も小さい頃から生理だけでなく、女性の身体にまつわる教育をきちんと受けていれば、セクハラ紛いの発言や、間違えた気の使い方で女性を傷つけてしまうことも減るはず。
佳子 更年期とかお笑いネタで話す人もいますが、女性からすると笑えないですからね。
田中 ネタにされるのは「更年期のイライラに」なんていう、CMの影響もありそうですけど。
竹下 それにしても、理解があればネタにはできない。今知識の足りない男性には、妻やパートナー、会社の部下など、生理などで身体の不調を訴える女性にどう声をかけるべきか、コミュニケーションをプロに教わる機会があってもいいと思います。
佳子 子どもの頃から、生理だけでなく性の話も、体験談も交えて教わるべき。そもそも、性教育を男女に分けるべきではないのかも。
田中 日本は特に性教育が不足していると思いますね。ナプキンの性能は世界一ですけど、ジェンダー指数は低く、意識という面ではだいぶ遅れている。
佳子 マインド後進国!
竹下 今は女性にかかわらず、男性の育休など、個人のいろんな事情を認めるべきだと思いますし、会社などは認めないと成り立たない時代。昔は妻が専業主婦という男性ばかりの職場が多かったと思いますが、いろんな立場の人がいるからこそアイデアが生まれ、ビジネスに成長する。多様性の理解ですね。
佳子 生理の辛さを訴えましたが、男性が女性にわかってほしいことも聞く必要がありますね。
竹下 初めて夢精したときは死ぬほどびっくりしたとか、性行為をリードしなきゃいけないプレッシャーとか、それは男性にもいろいろあります。たとえばハゲは今の日本ではネタにされがちですが、男性にとっては深刻な問題。女性にはぜひ優しい気持ちを持ってほしい。
田中 更年期いじりは許さないのに、ハゲネタでは笑ってしまう。それはナシですよね。外見による差別=ルッキズムも、今取り上げるべき問題です。
佳子 心と身体の問題は笑っちゃいけない。子どもが受ける性教育だけでなく、道徳の授業も見直す必要がありそうですね。
◉プロフィール
左から
◉竹下隆一郎(たけした りゅういちろう)
1979年生まれ。ハフポスト 日本版編集長。慶應義塾大学法学部卒。2002年朝日新聞社入社、「メディアラボ」で活躍。その後スタンフォード大学客員研究員を経て、2016年より現職に。
◉クリス-ウェブ 佳子(くりす うぇぶ よしこ)
1979年生まれ。中学生女子2人のママ。VERYモデルの他、エッセイやラジオのパーソナリティとしても活躍。ストレートな物言いで、生理問題にも鋭い意見をスバリ!
◉田中ひかる(たなか ひかる)
1970年生まれ。今注目の生理のスペシャリスト。著書に『月経と犯罪 女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『生理用品の社会史』(角川ソフィア文庫)。中学生女子のママ。
撮影/須藤敬一 ヘア・メーク/川村友子 取材・文/櫻井裕美 編集/羽城麻子
*VERY2019年11月号「生理を取り巻く環境が少し変わってきたらしい 『生理が恥ずかしいこと』だって、子どもに教えたくない。」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。