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韓国で社会現象『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んで|PART②深緑野分さん

K-POP女性アイドルが「読んだ」と発言しただけで大反響。映画もクランク・イン。17カ国で翻訳決定し、日本でもたちまち9万部超え。VERY本誌2019年5月号でも取り上げ話題に。まさに社会現象になったこの小説を、 著者のチョ・ナムジュさんが書き始めたきっかけは、自身が第一線で活躍していた 放送作家の仕事を、出産をきっかけに続けられなくなったことだそう。 口では「活躍せよ」と言いながら、裏では抑圧を続ける社会構造は、他人事ではありません。
この本を読んで、小説家・深緑野分さんが感じたこととは?

■深緑野分さん(小説家)

日本のほうがましなのでは?
私は全くそんな感じは
しませんでした

私は83年生まれですが、同世代の女性にとっての「あるある」がすごく多い小説なので、違う国の話、他人事だとはとても思えませんでした。読んでいてきつい小説ですし、ラストシーンは特に、「こうくるか」という感じで、きついのですが……。30代は子どもがいるかいないかでとやかく言われ、産んだら産んだで批判され、何かと標的になりやすい世代だと思います。今まで我慢したり、言語化できないもやもやを抱えていた人は多いでしょう。この本を読むと、こういうのが「普通」なのだから仕方ないとあきらめていたことの一つひとつが、「ヤバイことだったんじゃ?」と気づかされます。ジヨンの周囲の男性、夫も父親も弟も彼女の抱える苦しい気持ちを理解しようとしないわけではないけれど、どこかピントがずれている。あの感じは身に覚えがあってとてもリアルに感じました。印象に残ったのは、就職活動がうまくいかないジヨンが父親から「おまえはこのままおとなしくうちにいて、嫁にでも行け」といわれたときに、お母さんが、「いったい今が何時代だと思って、そんな腐りきったこと言ってんの? ジヨンは騒げ! 出歩け!」と言うシーン。そう言っ てくれる身近な女性がいるだけで励まされるし、助かりますよね。

 周囲の同世代の女性たちは、表面的には感情を表に出さなくても、ひと皮めくると知的で自分の考えをしっかり持っている印象。それを表に出すタイミングをはかったり、どんな言葉を使うべきなのか気を使ってすぐには発言しない人が多いように思います。

 この本で描かれる女性を取り巻く現状は厳しく、日本のほうがましなのでは? という意見もありましたが、私は読んでいて全くそんな感じはしませんでした。子ども時代の育てられ方は、韓国特有の男性優位の考え方が根強く、日本とは違うのですが。会社組織の現状や痴漢や性犯罪の被害は日本の現状のほうが深刻だと思います。この本が売れた背景を考えても、日本のほうが民主化も40年くらい早かったのに、今や社会の進化の度合いは韓国のほうがずっと早い印象。日本では、柚木麻子さんの作品のように、ストーリーの中に女性の生きづらさや苦しみを織り込んだ小説はあったものの、これほどまでに直接的に現状を書き連ねた小説はほとんどなかった気がします。日本人女性が同じテーマで書いたら批判も多かったでしょう。韓国のベストセラー小説として、女性の現状が冷静に受け入れられたことも、この本が翻訳されてよかった点だと思います。

◉深緑野分さん
小説家。1983年、神奈川県生まれ。2010年ミステリーズ!新人賞で佳作に入選し、『オーブランの少女』(東京創元社)でデビュー。著書に直木賞・本屋大賞候補、神奈川文化賞未来賞受賞の『戦場のコックたち』(東京創元社)、直木賞候補、2019年本屋大賞ノミネート、Twitter文学賞第1位(国内編)の『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)などがある。

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印象的な装丁画は日本オリジナル。描いた榎本マリコさんも1982年生まれ。彼女のインスタには、「どこかへと逃避してしまいたい現実、(中略)まとわりつく息苦しさ、閉塞感。絶望と背中合わせの、希望」と。筑摩書房/¥1500+税

◉あらすじ
2015年秋、前年出産したばかりの主婦・キム・ジヨン。3年前に結婚し、妊娠のため、新卒入社した広告代理店を退職し、現在はIT企業勤務の夫と娘とソウル郊外のマンションで暮らしている彼女が突然、自分の母親や友人の人格が憑依したように振る舞い始める……。話は1982年にさかのぼり、キム・ジヨンの誕生から、幼少時代、受験、就職、結婚、育児までの半生を克明に回顧していく中で、女性の人生に当たり前のようにひそむ困難や差別が淡々と描かれる。(以下ややネタバレ)ラスト(2016年)ではこの小説のほんとうの書き手(設定上)が登場し、とどめのポンコツぶりを発揮する。

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ⒸMINUMSA

◉著者/チョ・ナムジュ
1978年ソウル生まれ、梨花女子大学卒。卒業後は放送作家として社会派番組「PD手帳」や「生放送・今日の朝」などで、時事・教養プログラムを10年間担当。2011年、長編小説『耳をすませば』で「文学トンネ小説賞」に入賞して文壇デビュー。2016年『コマネチのために』で「ファンサンボル青年文学賞」、『82年生まれ、キム・ジヨン』で2017年に「今日の作家賞」を受賞。今年、邦訳が刊行された『ヒョンナムオッパへ』(『ヒョンナムオッパへ──韓国フェミニズム小説集』に収録・白水社)は、学生時代からの恋人に精神的に支配されていく女性の心情とその後の決意を書き、こちらもVERY世代必読の書。

取材・文/髙田翔子(82年生まれ!) 取材・文・編集/フォレスト・ガンプJr.

*VERY2019年5月号「韓国で100万部突破!映画化も決定!『82年生まれ、キム・ジヨン』が 私たちに問いかけるもの。」より。
*掲載中の情報は、誌面掲載時のものです。

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