生活リズムも価値観も自分優先ではなくなったけれど、本当は誰にでもあるずっと好きなこと。誰かの助けになればと始めた塗り絵が、今は趣味になったと語る安藤美姫さん。そこには彼女の優しさと芯の強さがありました。
※掲載中の情報はVERY2022年07月号掲載時のものです。
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ママですが、これが好き!
フィギュアスケーター・安藤美姫さんは……
『塗り絵』が好き!
❝喋らなくても、親子で
同じことに没頭できる時間です❞
ステイホーム中、ママと子どもが
楽しめる何かを発信したかった
まっさらな紙に鉛筆とペンで下絵を描き色を塗る、塗り絵を始めたのは2年ほど前のステイホームの時期でした。外出できず家で子どもとの過ごし方に親御さんたちが悩んでいる状況に私も共感するところがあり、何かできないかと考えたのが塗り絵の下絵をSNSで発信すること。幼い頃通った絵画教室や美術学校出身の母の影響で、休日は家族で山に出かけ写生を楽しむほど身近だった絵。9歳でスケートを始めてからは離れていましたが、塗り絵なら子どもも集中できて親も休めるし、楽しい息抜きになりそうと思い出したんです。第一弾はみんな一緒だよというメッセージを込めwe are togetherの文字が入ったひまわりの絵を。すると、介護施設や養護学校の先生からも使いたいと連絡を頂きました。配色を想像しながら手先を使うことは脳の刺激にもなるそうです。そんな発見もあり、今も娘と一緒に下絵から描き続けています。じっくり取り組めるよう緻密なモチーフにして日本文化にも触れられる干支のシリーズを投稿中。SNSを通じ、たくさんの方々と楽しんでいます。
前例がなかった
〝現役スケーターでママ〟
出産や子育てについてはスケート界で前例がなかったためすべてが手探り状態で、産後1カ月にはアイスショー出演の予定がありました。ドクターと相談して2週間休んだ後、すぐ大阪へ移りスケート靴を調整し練習。ジャンプこそ跳べませんでしたが、当時は出産を公表していなかったこともあり、誰も産後だとは見ていなかったんじゃないかと思います。仕事をセーブせず前を向いてこられたのは母をはじめ友人や、信頼できるコーチ、さらにそのご家族まで、助けてくれる人が多かったから。前例のない中で仕事もしていくことは苦悩がありそうなイメージを与えてしまいそうですが、不思議とプレッシャーはなかったです。スケーターとしてではなく、一人の女性として娘を産んだので、不安よりも、娘に出会えること自体が幸せでした。
親子関係が良好であれば
その家庭は幸せだと思います
今は名古屋、大阪、東京でスケートの指導をしていることもあり、東京に拠点を置きながら半分ほど実家のある名古屋も行き来する二拠点生活をしています。赤ちゃんの時のほうがラクだった……?(笑)と思うほど、正面から立ち向かってくる娘とは良いことも悪いこともシェアできる関係でいたいです。娘が生まれた時、海外ではコングラッチュレーション!だったのに、日本ではバッシングもありました。遅くまで子どもを預けて働くことに批判的な意見を頂くこともありました。でも、ぐちゃぐちゃになったキッチンでフルーツとコーンフレークになぜか生卵を入れてご飯を作ってくれたことも、時々ママのスケートを指摘してくる手厳しい姿も、とにかく一緒にいるのが楽しい。私と娘が笑って日々過ごしているから、それがすべてだと思います。日本はまだ子育てにおいて人目があるように感じますが、いろんな価値観があり、何より人はひとりでは生きていけないから助け合って子どもを育てていくことは決して後ろめたいことでも、恥ずかしいことでもないはず。娘の世代が子育てをする時は、もっともっと柔軟な社会であってほしいと願っています。
PROFILE
●安藤美姫さん
あんどうみき・フィギュアスケーター。国際大会で女子史上初の4回転サルコウを成功させ、2006年、2010年に2度のオリンピック出場を果たす。引退後はスケーターのみならず、女優として舞台に出演するなど活躍の場を広げ、現在は小学生の娘と二拠点生活中。
撮影/佐藤航嗣〈UM〉 スタイリング/山本有紀 ヘア・メーク/信沢hitoshi 取材・文/高橋夏果 編集/矢實佑理
*VERY2022年7月号「ママですが、これが好き!」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。