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ブレイディみかこさん「子育ては子どもに選ばせることが一番大事」

イギリス・ブライトン在住のコラムニスト・ブレイディみかこさん。100万部の大ヒット作『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読んだことのあるVERY読者も多いはず。ブレイディさんの新作小説『両手にトカレフ』は、家庭に深刻な問題を抱える14歳の少女・ミアが図書館で一冊の本と出会うことで、世界が変わっていく様を描いています。インタビュー第3回は、子どもの頃から本をたくさん読んでいたブレイディさんが、読書と出会ったきっかけや人生を変えた本のこと。ブレイディさんが子育てで大切にしていることもうかがいました。(全3回連載。前回はこちら

ブレイディみかこ
保育士、ライター、コラムニスト。1996年からイギリス・ブライトン在住。『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で新潮ドキュメント賞を受賞。2019年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で毎日出版文化賞特別賞などを受賞。子育て世代だけでなく幅広い層で共感を呼んでいる。

子どもを本好きにしたいなら
リビングに本棚を置くのがいい

——子どもに本を読んでもらいたいなら、目につくところに本がたくさんあることが重要なんじゃないかなと。電子書籍も便利ですが、紙の本があることで自然と子どもが手に取る機会が増えるような気がしています。

それは大きいと思います。イギリスの家はリビングに本が並んでいることが多いですね。本がバーッと並んでいることで「私はこういう人間です」と知らせるような感じ。そういう家で育った子は自然にいろいろ見るようになりますよね。本棚はリアル書店と一緒で、偶然の出会いがあるじゃないですか。ネットだとAIがオススメしてくれるので自分があまり手に取りそうにない本を手に取ることはないけど、本棚ってちょっとタイトルが引っかかると思って手に取ったら普段手に取らない本だったりして。そういう偶然の出会いから世界は広がるから、本棚はすごく大事だと思います。

 

本が友達だった子ども時代
一冊の本が人生を決めることもある

——ブレイディさんのご自宅はいかがでしたか? 文章を書く仕事をされていると子どもの頃から読書好きという印象がありますが、本に親しむようになったきっかけや、ターニングポイントとなった本についてお聞きしたいです。

『両手にトカレフ』のミアは、私が10代の頃に経験したことや感じたことを反映している部分があって、私もミアと同じ、ヤングケアラーだったんだと思います。小学生の頃から妹のお世話や家事をしていたので、あまり遊ぶ時間がなくて。本が友達だったので、すごく本を読みましたね。母親が時代小説や瀬戸内寂聴さんが好きで、自宅に本がたくさんあったんです。寂聴さんが金子文子や伊藤野枝や岡本かの子など、大正の時代を生きたいように生きた女性たちの評伝を書いていたのを読んで、その後、金子文子自身が書いた『何が私をこうさせたか』という作品を古本屋で見つけて読んだときに、やられたというかびっくりして。あれだけ辛く厳しい体験をしながらなんだかんだ負けないし、キツい体験をしている割には伸びやかなんですよね。育児放棄されて学校もまともに行けなかったのにすごく頭が良くて、思想も豊かで。あそこまでキツい体験はしていないですがそこそこ辛いこともあった私にとっては、何だってやれるんじゃないか、階層や環境のせいで諦める必要ないっていう気持ちをくれましたよね。だから、金子文子の存在はすごく大きいです。『何が私をこうさせたか』という自伝は私を変えてくれましたね。

 

——一冊の本が人生を変えるということが起きたんですね。

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がすごく売れて、希望の本として受け取られて、めでたしめでたしで終わっている部分があって。けど、あの本を読んだ息子から「底辺校でも音楽やクラブ活動に力を入れたらランキングが上がって、幸せな学校の幸せな少年の話になってるけど、実際はクラブ活動すらできない子もいて、そういう子たちにとってはこの学校って全然違うように見えてると思うよ」と言われて。私も個人的に交流のある子がいるけど、ただ、そういう子たちの経験していることってあまりにも辛すぎてノンフィクションでは書けないですよね。だから、小説のミアやチャーリーが実在するわけではないけど、実際にイギリスにいるいろんな子たちの要素を入れて、そうして書いてみたら自分の10代の頃の記憶もすごく蘇ってきて。今のイギリスの10代と自分の10代の頃のいろんなエッセンスを書いた作品です。

 

子どもを信じているから
私、子育てしてないんです(笑)

——小説では、ミアと友達のスマホでのコミュニケーションも印象的に描かれていますが、息子さんとネットやスマホの使い方について話し合ったりしますか?

何にも言ってないですね。私、本当に子育てしてないんです(笑)。というか、信じているので何も言わないです。息子もゲームにめちゃくちゃハマっていた時期がありましたけど、ある日、コロナ下にネットの接続ができなくなったことがあって、業者も来られなくて何日かゲームができなかったんです。そしたら、もうしたくなくなったって。飽きちゃったみたいというか、成長したのかなって。本人もいろいろ試行錯誤してやってるみたいだし、私は何も言わないですね。コミュニケーションの中心もスマホですけど、時代に乗ってやっていけばいいんじゃない?って。

 

——SNSやネットに触れさせることに抵抗感を覚える人も多いのですが、小説を読んで悪いことばかりじゃないんだよなと気づかされました。

インターネットって最初はこうだったよねって。もっと素朴でお互いを支え合うような良い場所だったはずで、ミアの体験がまさにそんな感じ。それが今やネガティブなことも聞くようになって、なんであんな風にずっといられなかったんだろうというメッセージもあります。でも、人間ってそういうものだと思うので、もしかしたら次の段階に移行する過渡期なのかもしれないし、子どもたちは過渡期の中で生きていくものだから、何かをしちゃいけませんとは言いたくないなと思っています。ゲームもスマホも一方的にいけないものって何もないはずで、最近のイギリスの調査では、実はゲームをずっとやってたらIQが上がると言われたりもして。何事も成長していくときの過程だなと思って見守っていたらいいんじゃないかな。ああしろこうしろと押さえつけるほうが歪んでいっちゃうから。

 

本も将来も子どもに選ばせて
失敗させることが一番の勉強になる

——子どもを信じて見守ることが大事と。

本でも何でも、子どもを信じて任せて、子どもに選ばせることがすごく大事だと思います。日本の若い人たちと話をすると、自分で選ぶ経験をしていない人が多いなぁと感じます。進路にしろ、親が選んだりしていて、あまり自主的に選ぶ経験をしたことがないと言っていて。自分で選ばせることが一番の人生の勉強だと思うので、自分で選ばせて失敗させる。子育てはそれに尽きると思います。

 

ブレイディさんの新刊 『両手にトカレフ』はポプラ社より発売中!

取材・文/宇野安紀子

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