新年度が始まって徐々に新しい環境に慣れてきた頃。でも、依然コロナ禍の不安定な生活の中での入園や進級はやっぱり不安なことも多いし、戸惑うことも。つい、自分の子を周りと比べて焦ったり、自己嫌悪に陥ったり…。そんな、比較して疲れちゃうママたちに、〝子どもの視点〟を何より大事にしている柴田愛子さんからもっとラクな気持ちで子どもに向き合うための、愛あるメッセージをいただきました。
※掲載中の内容はVERY2021年6月号掲載時のものです。
『子どもってそんなにヤワじゃない、
どんな環境でも自分に必要なものを
奪い取って育っていきます』
昔の子育ては地域ぐるみだったけれど、今は子育てのほとんどが母親一人の肩にのりすぎていて、たくさんのママが頑張りすぎているように思います。家事に育児に仕事、忙しい毎日の中で「~しなきゃ、◯◯すべき」って責任を感じて疲れちゃってるママが多い気がするの。私は「べきおばけ」って呼んでるんだけど(笑)、そんな発想からもっと自由になってほしい。基本的に親の役割は「食べさせる、寝かせる、うんちが出たか気にする」の3つ。親が〝やらなきゃ〟という思いが強すぎると結局は親も子どもも苦しい育児になっちゃう。何も特別なことをしてあげなくても、お互いが機嫌よく暮らせたらそれがいちばん。元気に生きていればOKが原点です。
だから、大事なのは機嫌よく暮らすためにどこを省くか、手を抜くかっていうこと。例えば、夕飯はお惣菜を買ったっていい、毎日お風呂に入らなくたっていい。今のママはみんな真面目で、手を抜く=子どもの心が貧しくなっちゃうって心配しがちだけど、そんなことはなくて、子どもが欲しいのは愛情。それに、子どもが少し大きくなってきたら「お腹空いたねー、あ、ご飯の炊き方教えてあげる!」みたいに、子どもにやらせてみるのもおすすめ。お風呂を沸かすのもご飯を炊くのもボタンひとつでできちゃう時代、6歳でも十分生活できる能力はあると思っていて。お互い機嫌よく暮らすための共同生活の一員として、子どもも立派な戦力。ご飯を炊くこと一つとっても親がやらなきゃ!って思い込んでいるけど、もっと子どもを巻き込んでもいいんじゃないかしら。ママが自分を犠牲にしたり、我慢したりするよりも自分自身のために輝いていることの方がずっと子どものためになるんだから。
コロナ禍が、子ども自ら
〝身近な刺激〟に気づけるきっかけに
子どもは自ら育つ力を持っています。誰だっていい子になりたいって思ってる。だから、他の子と比べて、うちの子は育ちが遅いんじゃないか…、なんて心配することはその子を否定してしまうこと。幻の子ども像に引っ張られて大人の価値観を押し付けてしまわないようにしたいですね。子どもはまだサナギのようなもの。中から外を見て、自分なりのペースでちゃんと成長してるもの。最近はその大事なサナギの時期を待てない風潮があって、大人がどんどん周りを剝がしていっちゃうけど、それこそ本末転倒。ほっとけば育つものをそんなことしたら不自然な育ち方になっちゃう。よそと比べて何もしてあげられてないとか、どこか連れて行ってあげなきゃって頑張らなくても大丈夫。子どもは思っているよりずっと逞しくて、どんな環境だって自分に必要なものは奪い取って成長していきます。
コロナ禍は我慢を強いられることが多いけれど、狭い空間にたっぷり時間ができたことは、実は子どもにとってすごく大きなこと。今まで見逃していたものを見つけられるチャンスが増えるから。特急列車に乗って見えていた景色と、各駅停車から見える景色は違うはず。遠出できなくても、できないからこそ、子どもは近くのいつもの公園でこれまで気づかなかった新しい発見をするかもしれないじゃない。「この前みたアリと違うアリが巣に餌を運んでる!」とか、強烈な刺激がないぶん、身近な刺激を自分で見つける力がより、ついてくるんじゃないかしら。
向かい合ってのお昼ご飯が難しくなってからは、「りんごの木」では、雨の日だってお散歩!(笑)。外でお昼を食べています。「雨だから今日は外に行けないね」じゃなくて、子どもたちは雨でお外に遊びに行くと、「雨って楽しい!」って大はしゃぎ。お昼を食べる時、4、5歳の子たちは雨がかからないところをうまく見つけて食べるのね、でも2、3歳はそうはいかなくてどこで食べたら濡れないか、最初はわからないの。そのうち、トンネルの中とか高架下とかを発見して、ここだと濡れずに楽しく食べられるって気づきだす。そしたら、次の時も、「あ、あそこで食べる!」みたいに自分だけのとっておきの場所をとっても嬉しそうに確保してます。大人は子どもに新しい刺激を与えることで満足感を得ているけど、日常の中で子どもは自分でちゃんと新しい刺激を見つけてぐんぐんいろんなことを吸収しているんです。
『ママも子どもも、
お互い機嫌よく暮らせたら
それがいちばん』
これからの時代、
〝自分で自分に
満足できる子〟が幸せ
コロナをきっかけに、たくさんのことが変わってきているけれど、子育て、教育においてもそう。日本はこれまで、教えて学ばせるという文化できたけれど、徐々に主体的に学ぶスタイルに変わっていくはず。十把一からげの教育が通用しなくなってきて、最近ニュースで話題になっていた〝ブラック校則〟も一つの例だけど、不必要なものはどんどん省いていく時代になっていく気がします。これまでは〝そういうもの〟としてなんとなく受け入れていたものに対して、一度立ち止まって疑問を持ってそぎ落としていく。そんな流れが広まって、子育ても人との比較じゃなく、あくまでもその人らしい自由なものになればいいなあって願います。
今まさに、大きな価値の変換が起ころうとしていて、いい学校、いい社会、経済的豊かさといった従来の社会的価値観では、これからの子どもの幸せは保証できないんじゃないかしら。そんな時代だからこそ、大事なことは自分で自分に満足できること。自分に満足できる大人に育てるためのベースはやっぱり家庭にあって、親と子が機嫌よく暮らせることがいちばん。いろんなことが変わっていっても、この価値観だけはいつの時代も普遍だと思います。
保育の現場で目にした、毎日を精一杯生きる子どもたちの心の中で起こるドラマを綴った愛情たっぷりのエッセイ。温かい眼差しで語られる子どもたちのエピソードはくすっと笑えて心に響くものばかり。左から)『こどものみかた 春夏秋冬』(¥1,320/福音館書店)、『柴田愛子流「りんごの木」の保育 とことんあそんで でっかく育て』(¥1,760/世界文化社)
【 PROFILE 】
保育施設「りんごの木」代表
柴田愛子さん
私立幼稚園に10年保育者として勤めた後、「りんごの木」を立ち上げる。〝子どもの心に寄り添う〟を基本姿勢とし、保育の傍ら、保育者や保護者向けの講演や執筆、またセミナーを通じて子どもたちの育ちのドラマを発信している。
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撮影/前 康輔 取材・文/北山えいみ 編集/羽城麻子
*VERY2021年6月号「柴田愛子さんインタビュー「あなたの子どもが、いちばんすごい」」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。