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パパが家庭進出すると、自身も、家庭も、社会も、もっとよくなる

「女性の社会進出」の前提は「男性の家庭進出」。その前提は「男性が安心して家事育児できる社会づくり」。ジェンダーギャップ後進国の日本は、まだまだ「男社会」。つまりパパが変わらないと何も始まらないのだ。そのことに気づいた新米パパが発した檄文が本書です。著者の前田晃平さんにお話を伺いました。

前田晃平 フローレンス

前田晃平(まえだこうへい)

1983年東京都出身。慶應義塾大学中退。認定NPOフローレンス代表室。令和元年、第一子の娘さんの誕生に際し、2カ月間の育休を取得。

 

きっかけは育休中に感じた“違和感”

 

――もともとはnoteに連載されていました。

 

育休中に自分が感じていた世界とメディアで言われている世界と感覚がずれてるぞ、と思い書き始めました。SNSでも「ジェンダーギャップ」や「少子化対策」がよく取り上げられていますが、スポットライトが当たっているのは女性で、男性も半分の当事者なはずなのに、そちら側の話が聞こえてこないのはどういうわけなのか? という違和感がきっかけです。

 

――日本のジェンダーギャップは大きいです。

 

教育、医療という分野では高い点数を取っていますが、政治、経済の分野が足を引っ張っている。例えば上場企業に占める女性役員の比率や女性政治家が少ないとか(WEF「ジェンダーギャップ指数2021」より)。

 

――オリンピック関連で小池さん、丸川さん、橋本さんはスリートップ、社会進出をしてリーダーに上り詰めた「輝く」女性なわけですが、後に続きたいというロールモデルには……。

 

妻や女性の友人から聞いていると、彼女たちの悩みは「輝いている」とかそういうことのもっと手前にあって、いま働いている環境をどうするか、ということのほうがおそらく大事なのかなと。

輝いている、というのはたぶん違うと思います。別に輝かなくてもよくて。日々の生活を粛々と送っていて、結果的にいける人はいけばいいし。この「輝く」というフレーズがおかしい。じゃあ、逆に男性で輝いてるのは誰なんだよ、みたいな話にもなるわけで。

 

女性の選択肢は多くなっている?

 

――かつて日本では半数くらいの人は見合い結婚をして(恋愛結婚が見合い結婚を越えたのが1960年代後半〈2016年出生動向基本調査より〉)、女性は嫁入り修業か就職しても当然のように寿退社して専業主婦になっていました。周りがみんなそうだったから、悩むこともないし、選択肢はなかったかわりに自己責任も問われず、逆にいまは選択肢は多いかわりに、なんでも自己責任にされているような……。

 

日本では主たる家計の担い手は95%以上が男性。東南アジアですら20~30%は女性が担い手になっています。婚外子率をみても、日本は2%くらいしかないけれど、ヨーロッパでは50~60%のところもざらで、結婚しないでも子どもは欲しい、という生き方を多くの女性が選択している。日本女性の選択肢は多くなっているように見えるけど、実は多くなっていない。伝統的家族という社会の規範が圧殺しています。主たる家計の担い手にもなってないし、結婚しないという選択をしたら、少子化がどうのと責任をなすりつけられる。VERYを読んでらっしゃるような方たちで、かつての自分の決断を貫き続けることができた人っていうのはまだだいぶ少ないのではないか、というイメージがあります。選択肢は客観的には増えているけど社会は許容していないとデータが示しています。

 

子育ては原則・大変

 

――女性の高学歴化や社会進出によって少子化が進む、という言い方はウソだ、と本の中で書かれていますが。

 

この話のキモは、日本国内に限れば事実だということです。実際、20代から30代の就業率を合計特殊出生率をグラフにしてみるとしっかりと負の相関関係があって。事実じゃん、という話になりますが、他の先進国でそうなっていない。

 

――日本はジェンダーギャップも後進国だから。

 

女性は男性と同じように働きたいのに、社会がそれを許容していないので生き方をねじ曲げなければならず、それがデータ的にも出生率の低下として反映されているわけです。

 

――先進国は許容している。

 

女性が男性と同じように働けるように家事・育児といった「無償ケア」労働を社会なり夫なりが負担をしていて、粛々と働けるし粛々と子どもを産めるから出生率も上がるという、きわめてシンプルな話ですよね。

 

――これは自戒をこめてなんですけど、読み物ぺージで「子育て大変」「ワンオペ地獄」「手伝わない夫どうしよう」みたいな企画が多くなると、子育てってイヤなもの、押し付け合うものということになってしまうのでは、と思っていて。

 

子育ては原則、大変だと思います。それはもう「超大変」だと思います。

 

――原則大変。経験者は語る、ですね。

 

ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンはその研究で、「親は日々の子育てを相当に不快な仕事だと感じている」ということを明らかにしました。その一方で、同じ親たちが「子どもこそ自分の幸福の一番の源泉である」と言っています。つまり人間の幸せは不快な時間を快な時間が上回ることではない。自分が何のために生きるかということで、子どものため、家族のため、コミュニティのために日々動けてるし、生活できてるな、ということが「幸せ」なんだと思います。

 

――なるほど、「大変」の対極が「幸せ」ではなく、大変かどうかと、幸せかどうかは別の軸だと。

 

子育てしていて大変な時間のほうが量的には長いけど、やっぱり子どもがちょっとでもニコッとしたらそれで全部許せちゃうみたいな。幸せの質、その密度は、圧倒的です。とはいっても、やはり限界はあります。今の社会の問題は、この子育ての「大変」が女性に偏りすぎていることです。子育ての幸せとか、子どもへの愛だけでは、やりきれないことだってあります。

 

――コロナの世の中になって、思わず、というか、図らずも「家庭進出」することになったパパたちも増えました。一方、「ごはんまだ?」とか言う夫にイラついている家もあるようですが、なにかいい方向につながる希望はあるのでしょうか。

 

山口慎太郎東京大学教授の研究によると、テレワークの実施で男性の家事・育児時間が増えている、という統計も出ていて、まだ研究途中ではありますが、良い兆候があるのも事実だろうな、と思います。実際コミットしていなくても、それをしている奥さんを目にする時間も間違いなくあるわけで、私はチャンスではないかと、前向きに捉えてます。女性の側にもお願いがあるんですけど、私も妻とよくケンカになるんですけど、海外では「マターナル・ゲートキーピング」というのですが、ただ家事・育児をしてほしいのではなく、自分流の家事・育児をしてほしいという傾向がある。洗濯物のしまい方、干すときのルール、洗い物のしまい方とか。そうすると夫がよかれと思ってやったことが、地雷を踏むことになり、女性の側からは「おまえは余計なことをすんな」、男性の側からは「もう絶対やんねえよ」というかんじに。

 

――ものの置き場所を間違えると大きなため息をついたりしますよね。

 

所属する組織に対する責任を果たしてきたのが昭和、平成の男性です。その間、家族との時間はないがしろにされ続けてきたので、女性は家庭というものの中で独自の世界を作り上げ、結果、その世界から男性は排除される、ということにつながってきました。男性がやることなすこと的外れで腹が立つのもすごくわかりますが、一緒に家事、育児をしていく協力体制を築きたいですよね。いま、過渡期だと思っていて。この本の話をツイートした時、女性から「男性は家庭進出したがってないでしょ」「そんな本書いても無駄」というようなコメントが付いたんですけど、男性の心のありようはもうとっくに変わっていると思っています。新卒の男性の8割は、自分に子どもができたら長期間の育休を取りたいと思っている。

 

――それができないから困っている。

 

心は変わっている。後はそれをどうやって行動に移すか。お互い歩み寄るステージに来ている。この本がそういう夫婦の会話のきっかけになったらうれしいなと思っています。

 

『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!~ママの社会進出と家族の幸せのために』(光文社/1,540円)

育休取るなんて「オレ、イクメン!」と甘い了見で挑んだ新生児の育児。押し寄せる慣れないタスク、慢性的な睡眠不足、キレる妻……。2カ月後、世界は別の場所だった。豊富なデータと体験で綴ります、「これを読むまでパパと呼ばせない!」

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