離婚活動、略して「リコカツ」。結婚や就職と同じように、“離婚”は人生の大きな決断です。だからこそ傷ついていても丸腰で臨まず、ちゃんと準備する……そんな「リコカツ」を経て無事に離婚、現在は一人娘と幸せに暮らしているというAさんに取材してきました。
ドラマ『リコカツ』も話題になりましたが、リアルな離婚までのプロセスとは?
1回目は、Aさんが離婚を決意するまでをお届けします。
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新宿駅近くの珈琲店に、待ち合わせ5分前に現れたAさん。艶のある控えめな巻き髪とVネックのセーター、指にはカルティエのジュスト アン クル リング。初対面のマスク越しにも柔和さと芯の強さが伝わってくる女性です。
そんなAさんが離婚したのは去年の春のこと。
「元夫とは友達の紹介で知り合い、約一年半の交際期間を経て結婚しました。商社マンでけっこう遊んでいることはわかっていたけれど交際を機に落ち着いたように見えて、当初は安心していたんです。
とはいえ一人娘を出産した後も、平日は飲み会、休日もゴルフや結婚式などの付き合いがとにかく多く、子育てはワンオペ。それでも優しかったし、夫の海外転勤に備えて仕事を辞めていた私は黙認していました。今思えば、何も言わなすぎたのが悪かったのかな。ある程度のお付き合いは仕方ないと、物わかりのいい妻だったと思います」
その後予定どおり海外転勤。慣れない土地で子育てに奮闘する中、まず一度目の“衝撃の事実”を知ります。
FaceTime履歴に女性の名前。
「顔を見て喋るって、何?」
「子どもがDVDを見るため夫のPCを触っていたら、FaceTimeの履歴が出てきてしまって。そこに同じ女性の名前がずらっと並んでいたんです。それを見て、顔を見て喋るって何だろう?って。
私は夫のスマホを見ないタイプ。なので完全にノーガードだったんですよね。メールでその名前を検索したら、やりとりがざくざく出てきました。『会いたい』『好きだよ』…。不貞行為があるとはっきりはわからなかったですが、十分推測されるものでした」
ひとりでは抱えきれないと思ったAさんは、夫とすぐ話し合いました。
「夫からはもう一度チャンスをくださいと土下座で謝られました。そして不貞行為はないとの一点張り。クレジットカードの明細を日本から取り寄せたりもしましたが、最終的にはccに私を入れてもらい、相手の女性に『妻を大変傷つけてしまったので、もう会いません』というメールをしてもらうことに。お相手から謝罪はなかったのですが一応返信はありました。それですべてを水に流し、カードの明細は封を開けずにとっておくことにしましたが、この一件のことは義理の母にも報告はしてもらいました」
その時は改心したように見えた、というAさん。カード明細を開けなかったところに、夫への気持ちや期待が残っていたことがうかがえます。
「やっぱり子どもがいたことも大きくて。浮気されても最初は乗り越えるものだという認識でした。それからお詫びにということで、家族旅行に連れて行ってくれたんです。
でも旅先で私が体調を崩してしまって。高熱で辛かったのですが、その時の夫の対応がめんどくさそうというか、冷たく感じて…あれっ、私への気持ちはないのかな?って」
そんな旅先でのモヤモヤした気持ちを引きずったまま、母娘で休暇を日本で過ごすため夫を残し一時的に日本へ帰国したAさん。宿泊先のホテルでまた新たな疑念を募らせることになります。
「私は初めてのホテルだったのですが、チェックイン時に『ご住所変わられましたか?』と聞かれて。さりげなく聞くと、誰かが私の名前で夫と以前泊まっていたようなんです」
スマホの指の跡から
パスワードを推測し…
またザワついたAさんは、夫の赴任先へ戻った後、密かに証拠集めを開始します。
「やり直せるのか、離婚したほうがいいのか考えるためにも、証拠を集めようと思いました。このとき知り合いに弁護士さんを紹介してもらったのですがやはり『離婚するしないに関わらず、どういう人生でも歩めるように証拠を集めて何かあった時の準備をしたほうがいい』と助言をもらって。有利に話を進めるためには不貞行為がはっきりわかるものが必要だと言われました。そこで、いつ何があってもいいように、写真、LINEや会社のメール、プライベートのメールから証拠を探すことにしました。
酔って帰ってきたタイミングを狙い、夫のスマホ画面についた指紋の位置でパスワードを推測。ロックもなんとか解除に成功しました。LINEの履歴を、証拠集めのために作った専用のメールアドレスを作ってそこに送り、その送信履歴も削除。たまにパスワードが変わっていてロックがかかったことがあったのですが、その度に子どものいたずらではないかとシラをきり、バレませんでした」
決定的な証拠が見つかったのは、会社から支給されていたタブレット。
「なんと社内の友人たちと不倫の情報を全部シェアしていたんです。独身時代から、女性をどう落としていくかを楽しんでいるような悪友たち。でも結婚式にも来てくれて奥さんぐるみで仲良くしていた人たちです。仲間とのやりとりで、どこで出会い、どうやって落として、どこでセックスしたかなど不倫の一部始終をシェアしていて。友人たちも盛り上がっており、夫も喜んでネタを提供している感じでした。
決定的だったのは、お相手が社内の既婚女性でお子さんが生まれたらしいのですが、その件について元夫が『僕の子じゃないとは言い切れない』と書いていたんです。これで全体感がわかりましたし、不貞行為があるとはっきりしました」
「主婦のくせに」…
侮辱する夫の書き込み
そしてやりとりの中に、Aさんを侮辱するような書き込みもしていたといいます。
「商社勤務のせいか稼いでやっている、養ってやっているという自覚が強いようで、『働いてもないくせに俺の稼ぎでこんなものを買ってる』とか、『主婦のくせに』とか。そんなに買い物しているわけではなかったのですが…。海外転勤になるとボランティア以外妻が働くことは禁止されていましたが、こんなふうに言われるなら、専業主婦になるんじゃなかったって悔しくて…」
ついに封印していたクレジットカードの明細を開くと、あらゆる価値観の不一致が見えてきたのだそう。
「海外赴任するまで、商社の一般的な給料をいただいていたのに毎日飲み会、タクシー帰りでカードの支払いが火の車で。それを見かねた私の祖母が、老後の資金を切り崩して、『これでリセットしなさい』とまとまったお金を渡してくれたことがありました。でもカード明細を見ると、そういうお金も女性とのホテル代などに消えていたことがわかって…。大好きだった祖父母のお金が、そうした行為に使われたのだと思うと本当に許せなかった。
ほかにも、海外滞在中に夫の父親が急死し葬儀に参加したのですが、寝ずの番を買って出た夫が、なんとその最中に浮気外泊をしていたこともわかりました。
浮気だけでなく、こうした人間性を疑うようなことがあり、これは将来車椅子を押したり押されたりする関係にはなれないな、離婚したほうがいいなと心が決まったんです」
そしていよいよ、「リコカツ」に本腰を入れることになるAさんの戦いを、<2回目>でお伝えします。
Aさんのリコカツ年表
2014年・秋/夫の不倫に気づくも、話し合いにより和解。
2015年・春/再び夫の不倫疑惑が浮上。弁護士のアドバイスにより証拠集めを開始。その後、不倫が確定。離婚を決意するとともに、娘の日本の幼稚園受験の準備を開始。
2015年・秋/娘の幼稚園受験、合格
2016年・春/娘、幼稚園へ入園。日本へ帰国し、夫と別居を開始。夫へ不倫の事実を知っていること、離婚を考えていることを初めて伝える。日本で仕事を開始し自活の道へ。
2017年・春/夫へ離婚届を渡す。
2017年・夏秋/不貞相手への慰謝料請求を依頼。慰謝料300万円を受け取る。
2018年・春/娘、小学校へ進学。
2018年・秋/離婚合意書を夫へ渡す。そのまま親権交渉へ。
2020年・春/養育費交渉などを経て、離婚成立
※第1回は太字部分のお話
離婚までの覚えておきたいまとめ
・夫を責める前にまず証拠集め
・証拠を集める際は、専用のメールアドレスを作っておくと便利
・集まった証拠は時系列でまとめておく
・夫と話し合う時はボイスレコーダーを回す
・相性の合う弁護士を選ぶこと
・慰謝料の相場は最大で300万円
・養育費は子どもの成長にあわせて再協議が繰り返される
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▶︎【VERY妻の「リコカツ」体験談②】証拠集め〜親権獲得。大事なのはタイミングと順番
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取材・文/有馬美穂