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「人工肛門になっても人生は輝く」日本初のオストメイトモデル・エマさんの挑戦

「失敗」なんて存在しないのかもしれない

   昨年からはNHK でエマさんのドキュメンタリー番組が放送されましたね。

見てくださった方は覚えているかもしれませんが、番組に登場する4歳の女の子ですら、ストーマから自分の排泄物が丸見えになるのが恥ずかしいと言っていました。ストーマには便を受け止めるパウチをつけるのですが中身が見えてしまう透明のタイプが大半で、私たちも排泄物が直接見えるのは抵抗があるんです。私自身は、中身の見えない不透明タイプを選んで使っていて、これが国内でもっと普及すればいいのにと思っていました。

ただ、番組の放送後に話を聞いてみると、介護する人は透明タイプでないと相手の体調がわかりづらいとか、高齢者や抗がん剤の副作用のある人はわざわざ新しいタイプを探すよりも、病院で使っていたもののほうが慣れていて負担が少ないといった理由もあることがわかってきました。今まではただ、自分の気づいた不便や課題のことだけを考えて発信していたけれど、色々なシチュエーションを視野に入れなくてはいけません。それでも、色々なパウチの種類があることを知らないままのオストメイトもいるので選択肢は増やせるようにしたいんです。ひとつ問題が解決できたと思うとまた次の課題が見えてきます。

今思うと受験や学生生活は、人生には永遠にゴールなんてないということに気づく最初のきっかけだったと思います。必死に勉強して大学に入ったと思ったら、キャンパスは黒山の人だかりで「あれ? あんなに勉強したのにこんなに人がいるの?」と思いました。経歴だけ話すと順風満帆みたいですが、そんなことはなくて、9割が通過するといわれる医師国家試験も病気とは関係なく落ちたことがありますし、劣等生だったんです。でも、その経験がなかったら、今ごろ知識不足で医療事故を起こしていたかもしれない。ギリギリで受かっちゃダメなんです。病気で苦しんでいたときは、私はもう一生真っ黒な世界で生きていくんだと思いましたが、こうして立ち直ることもできました。

病気でキャリアが中断したことも含めて、何か別の形で還元できることがあるかもしれませんし、その失敗が本当に失敗だったかどうかは、後になってみないとわからないです。一時的には絶望するかもしれないけれど、「失敗」って実は存在しないのかなとも思いました。私は医師としてのキャリアは何もないですが、今まで体験したことが私にとっては財産で、何か少しは世の中に残せるものがあるのかもしれないと、その先の風景が見えるようになってきました。

 

トーマの女は強いんだぞ!

   お子さんは今8歳。お母さんがオストメイトであることはどう思っているのでしょう?

ストーマにつけるパウチなどの装具は年々進化して臭いや中身が漏れづらい工夫がされているのですが、失敗も時折あるんですよ。毎度のことながら絶望的な気持ちになります。添い寝をしている最中に中身が爆発してベッドを汚してしまったりするときは、息子も「うわあ」と思うことがあったと思うのですがあんまり言ってこないですね。今でこそ息子はパウチをつけていることに関しては全く抵抗がないようですが、ストーマになったばかりのころはけっこう怯えていました。真っ赤な腸がむきだしになって見えるので子ども心に怖かったんだと思います。以前、ゲームセンターでゲームをしたとき、たまたま私が勝ったんですよ。そうしたら「ストーマの女は強いんだぞ! なめるな!」と言ってました。息子の通う学校にはダウン症などハンディキャップのある子もいるので、障害があることもごく自然なことと思っているのかもしれませんが、そんな受け止め方をしているのかとびっくりしました。

「お腹のストーマは病気に打ち勝った勲章」だと思えるように。そんな思いでオストメイトモデルとして活動を続けています。(撮影・小林正嗣)

 

  オストメイトの人の抱える悩みや課題としてはどんなことがありますか?

手術後に専門のナースが来て、体の具合やライフスタイルに合わせてどの装具がいいのか提案してくれるのですが、なかには私の使用しているような中身が全く見えないパウチの存在は全く知らされていなかったり、なるべく補助金の範囲内で納められるよう不透明タイプを選ぶ人もいます。海外の様子を見ていると、パウチに絵を描いて楽しんだり、友人にどうカミングアウトするか、性生活はどうしているかとフランクに話しているのですが、日本にはそういった場がほとんどないに等しいんですよね。自分で調べて考え、自分で乗り切るしかないという現状は私もつらかったので少しずつでも変えていきたいです。

多くの人は、必要に迫られない限りカミングアウトしないんです。NHK に取り上げられたあと「実は私の家族もオストメイトです」という声がたくさん届きました。オストメイトは全国に約21万人います。これは東京の文京区の人口とほぼ同じですから、それを思うとけっこう多いと思いませんか? でも普段は自分から言わない人が多いので、なかなか気づかれることがないのです。なかには障害を言い訳にしたくないという強い人もいますが、仕事上、上司に伝える必要があるとか、育児中なので何かあったときのために周囲に知らせておきたいといった理由がない限り、隠したがる人がほとんどです。言ってしまったほうが配慮してもらえて楽なのに、なぜだろうと思いました。

私は医療者だったので、隠したいとか恥ずかしいという気持ちはなく、これで今まで食べられなかったとんかつも食べられるという嬉しさのほうが先にきましたが、マイナスのイメージを持つ人はまだまだ多いんです。オストメイトの人がそれを隠さないでもいられる環境や意識を作っていかないといつまでたっても一般社会に周知されません。ストーマになることが最悪ではなく、これで命が救われる人もいるし、生活そのものを以前より楽しめる可能性があることを知ってもらうためには、私たちが情報開示していかないと、いつまでも実態がわからず偏見や恐怖がつきまといますが、なかなか言いづらい現状がある。これは私の中で今もジレンマです。

 

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