コロナ禍のストレスフルな生活。ただでさえ心配事の多い妊婦や妊活中の人にとって、何が正しいのかわからないこの状況は辛いものがありますよね。ウィメンズヘルスリテラシー協会によって特別に行われた「コロナ時代の妊娠・出産リテラシー オンライン講座」を、出産を終えたばかりのライターが受講してきました。登壇したのは、丸の内の森レディースクリニック院長の宋美玄先生と、アルテミスウィメンズホスピタル産婦人科医長の太田寛先生。その内容をレポートします!
◉まずは感染症の基礎知識をおさらい
感染症に詳しい太田先生によれば、
「“コロナウイルス”には7つあり、4つはいわゆる普通の風邪と呼ばれるもの。5番目はSARS、6番目がMERSで、7番目が今回の新型コロナウイルスです。感染拡大が続くなか、また収束には年単位の時間が必要と思われることから、数年以内にあなたもかなりの確率でかかると言ってもいいかもしれません。
だから、このコロナ禍では、
・感染した人を責めない
・感染者のプライバシーを尊重する
・自分もそのうち感染すると考える
・無理なく続けられる対策を行う(コストは100円/1日以下、負担を感じないくらいの時間で済むなど)
・他の病気・リスクとのバランスを考える
ことが大切です。感染症は新型コロナだけではないので、他の感染症のこともきちんと気にして、風疹や麻疹など有効性がわかっているワクチンはしっかり打って。
引き続き、調子が悪い人や濃厚接触者は休む、手洗い・消毒・換気・対人距離を取るなどの対策が大切。反対に言えば、感染を防ぐための劇的な対策はまだありません。
現在までに分かっていることを考えれば、公園などの屋外や換気の悪くないスーパーに、マスクや手洗いなどの対策をして出かけるぶんには、感染は起こりにくいと言えます。一方で帰ってきて品物をアルコールで全部拭いたり、シャワーを浴びるなども効果はありますが、長期戦では続けにくいのではないかと個人的には感じています。
また首から下げる除菌グッズをたまに見かけますが、あの類の空間除菌グッズは意味がありません。外で空気が循環している場所では、感染に必要なウイルス量を吸い込むことはほとんどないので、外で1人歩いている時などのマスクは基本的に必要ありません。熱中症が心配な子どもには特に注意してあげてください」
◉妊活・不妊治療、延期すべきですか?
宋美玄先生によれば、「これはかなり質問がありました。誰も責任が取れないので明言はできないのですが、感染拡大が始まった4月では学会からも『不妊治療は延期できる人は延期して』と発表されました。これはまだ実態が分かっていなかったから。不妊治療の病院もその頃は空いていましたし、うちでも20代など延期できる人はしてもいいと答えていました。
でも今は、30代後半から40代の方には、妊活を延期したまま様子を見てとは言えない状況。この戦いは年単位になると思われるので、数年待って妊娠が難しくなってしまうかもしれないことと、天秤にかける必要があります」
「ワクチンも開発が急がれていますが、今のところ終生免疫ではないと言われています」(太田先生)
「1年でおさまらない雰囲気のなか、妊娠希望の人はどこかで腹をくくるしかない状況。最近は、20代など若い方も含めて、新たに妊娠して検診に来られる方も増えている印象です。妊婦が新型コロナにかかった場合、重症化しないのでは?と言われていますが、症例が少ないので分からないとしか言えません。赤ちゃんも同様です」(宋先生)
「母乳中にもウイルスが出るとされていますが、だからといって赤ちゃんに感染が起こるかは分かっていません。感染には一定のウイルス量が必要ですが、ひとかけら発見されたからといって感染するかは別問題。胎児のうちにかかって障害が残るかどうかもまだ分からない。ただ、これまでのコロナウイルス一般のことを考えると、あまり大きなことは起こらないのではないかという印象です。ただこれも、まだ分からないとしか言えません」(太田先生)
◉新型コロナウイルスで
変わった出産ルールとは?
「分娩時も手探り。産科でのガイドラインが統一されておらず、病院によって対応はさまざまです。4月、5月はどこの病院も感染リスクを減らす方に動き、立ち合い出産や面会の禁止が行われ、移動も制限されていました。今は立ち合い出産が認められているところは多いですね。
ただ今も、もし感染したら、36週に入っていればすぐ帝王切開になり、母子分離が行われます。出産方法も選べず、離れて辛いと思います。
入院時にPCR検査が強制の産院では、陽性の場合感染しているとは限らないけれど帝王切開になり、母子分離が必至に。また、妊娠中新型コロナにかかった場合、陰性化してもそれまで通っていた産院に戻ってこないでと言われた例も聞きます。
こうした話を聞いて引きこもってしまう妊婦さんの気持ちもよくわかります。でもそのことで血栓症になってしまったり、他のリスクもバランスよく考える必要があるのでは」(宋先生)
「分娩台でのマスクは、本当は我々もして欲しくないと思っていますが、大声が出る分娩時はリスクが高いため、基本的にはしていただいています。苦しい場合は鼻を出したり、マスクの上から酸素マスクをつける対策をしています。マスクをしていても血液中の酸素飽和度が低下しないことは確認していて、赤ちゃんへの影響はないとされています」(太田先生)
「分娩室を換気したらという声もありますが、赤ちゃんを冷やさないために換気しないシステムになっているんですよね。また、無痛分娩のほうが、叫んだりしないぶん、エアロゾル感染は減らせると言われています」(宋先生)
「病院側も、かけたくない制限をかけて、手探りで悩みながらやっているというのが実情。妊婦さんたちにはご不便をかけていますが、病院スタッフでクラスターが起きると、その産科が機能しなくなり他の妊婦さんが転院しなければならなくなる。お互いに譲り合い、なんとかやっていけたらなと思いますね」(太田先生)
◉信頼できるところから
情報を常に取り、アップデートして
「私も東日本大震災の後に妊娠しました。あの時も、みんな不安が強かったですよね。とにかく『サバイブしなければ』という気持ちだったのを覚えています。
個人的には生きることって、もともと危険がいっぱいの世の中を、サバイブすることだと思っているんです。だから今回も、サバイブしていくしかないのかな、と。個人的には、過剰に心配したり、ものすごい対策をし続けるのもどうなのかな?と思っています。みんなができる範囲の対策をして、年単位のwithコロナの時代を乗り切っていきたいですね」(宋先生)
【宋美玄プロフィール】
産婦人科医、丸の内の森レディースクリニック院長。『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)、『医者が教える 女体大全―――オトナ女子の不調に効く!自分のカラダの「取扱説明書」』(ダイヤモンド社)などの著作でも注目を集める。待望の新刊は『産婦人科医が伝えたいコロナ時代の妊娠と出産』(星海社新書・9/28発売予定)。
【太田寛プロフィール】
産婦人科医。アルテミスウィメンズホスピタル勤務。京都大学工学部卒業後、日本航空に勤務。2000年東京医科歯科大学卒業。茅ヶ崎徳洲会総合病院、日本赤十字医療センター、瀬戸病院などを経て現職。
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取材・文/有馬美穂