「3・11をきっかけに“子どもと本”を通して思うこと」を語り合いました
~日本ペンクラブ主催フォーラム
「子どもたちの未来、子どもの本の未来」
@信濃むつみ高等学校~
3月11日を忘れないように日本ペンクラブが2012年から毎年開催しているフォーラム「子どもたちの未来、子どもの本の未来」にVERY専属モデルの滝沢眞規子さんが招かれ、あの人気作家の浅田次郎さんとの対談が実現。
親子ほどの年の差、異色の組合せ、対談は温かな雰囲気のなか進み、お互いの視線から見た興味深い話を聞くことができました!
小説家
浅田次郎さん
ミステリーから歴史小説まで多彩なジャンルで作品を発表。「鉄道員」で直木賞受賞。他に「壬生義士伝」「蒼穹の昴」など。
VERYモデル
滝沢眞規子さん
VERY表紙モデル。3児の母で、私服コーデやお弁当作りなどブログやインスタで見せる丁寧なライフスタイルに、読者ママたちから多くの共感を集める。
「人の死」について親子で考えた3・11
その答えをくれたのも絵本でした
3・11あの地震が起こったときは、お二人は何をしていましたか?
浅田赤坂プリンスの旧館で雑誌の撮影をしていました。自分たちは大丈夫だと思いましたが、盛岡に住む娘夫婦が仕事で定期的に三陸に行っていたので、連絡が取れないから不安でしたね。
滝沢私も都内で撮影中でした。子どもたちの下校時間と重なっていたので心配しましたが、学校に留まったようで体育館に集合していて、お迎えに行き再会しました。やっぱり、自分のことよりまず家族のことが頭をよぎりますよね。
浅田さんは、あの日を境に何か執筆活動で変わったことは?
浅田やはり自分に何ができるのか、ペンの力で何ができるのかは考えました。結論は「今まで一生懸命やってきたことを、今までと同じように一生懸命やること」でした。連載のクオリティを落とさず、世の中が動揺しているからといってストーリーが変わってはいけない。色々な意見がそれぞれあると思いますが、僕はそれが自分の使命だと考えました。
滝沢さんは、被災地を訪れたのですよね?
滝沢はい。昨年2月にチャリティで集まったお金をおもちゃに替えて、気仙沼の児童館に持って行き、地元のママたちとお話をさせていただきました。物やさまざまな支援は足りているけれど、こうやってまだまだ苦しい思いをしている人たちがいることをときどきでいいから思い出してほしいとおっしゃっていたのが印象的でした。子どもたちとも、時折、震災のことを話すようにしています。
その3・11をきっかけに出会った絵本があるとか?
滝沢あの3・11はうちの子どもたちも東京で大きな揺れを体験し、そしてテレビで東北で起きている大変な事実を目の当たりにしました。
一瞬で多くの命が奪われてしまった事実を目にして、“人の死”について子どもなりに考えるようになったようです。「人って死んじゃったら悲しいよね」「人って死んじゃうとどうなるの?」という会話が増えたのですが、私は母としてそれに対して上手く説明できなかったんですよね。
そういうときに出会った本があったので、今日ご紹介したくて持ってきました。「わすれられないおくりもの」という本です。
物知りで皆に慕われていた年老いたアナグマさんが亡くなってしまうのですが、残された森の仲間たちは何日も悲しんで泣いて過ごします。新しい季節が来た頃に、アナグマさんに教えてもらったことを思い出すんです。キツネはネクタイの結び方、カエルはスケート、ウサギは美味しいパンのつくり方を。
「死」を迎え入れ、乗り越えるということを教えてくれる作品なんですが、下の娘はかなり心に響いたそうで、いまでも度々読んでとせがまれます。
私も震災から考えたことはさまざまありますが、子どもたちも小さいながら思うことは色々あったようですね。
子どもに読書を強要しない
人に決定的に必要な「想像力」を育む
滝沢さんはお子さんにたくさん本を読み聞かせをしていらっしゃるようですが、子どもが本を読まない時代になったと言われますね。
浅田僕らもテレビ世代ですが、今の子たちはもっと手っ取り早く映像を見ることができます。でも映像はイメージを一律に強制してしまうんだよね。
活字の良さはそれを自分の中でもう一度再生産できること。『想像力』につながる。登場人物はどんな顔をしているんだろう? どのくらい哀しいんだろう? とかね。将来どんな道に進もうが、想像力は必要です。
その子供の幸せを願うなら、ぜひ読み聞かせから。活字からノウハウを得るのではなく、物語を読んで想像力を膨らませるという繰り返しをやらないといけないと思います。
滝沢本当にそうですね。私も子どもたちと本について話すときは、そこから学んだことを聞き出そうとするのではなく、想像力を広げるような問いかけの仕方などを心がけようと思います。
浅田本を読まなくなることは大変な問題。想像力が貧困になる。子どもも大人も本を読むことは大切です。でも子どもには本を読むことを勉強にしてしまってはダメ。
子どもに本を読め、読め、言わない。小説や物語は「娯楽」なんだよ。面白いから読む。親も本から学ぼうとしない。自分たちが楽しみ、それを子どもに伝えればいいんです。小難しい本は二流だと思います。
滝沢浅田先生は、お孫さんに絵本を読んであげることはあるんですか? 浅田先生に読んでいただくなんて贅沢(笑)。
浅田書斎に「ご本読んで」って持ってくることがありますね。私も娘が小さいときは読んであげましたよ。子ども向けの本だけじゃない。分かっても分からなくてもいいから自分が朗読するつもりで読んでいました。日本語の音の美しさを感じてくれればいい。ちょっと背伸びした本でもいいと思います。
近著は戦争小説『帰郷』
戦争を書き続ける使命感とは?
今回のフォーラムは、長野県松本市で開催されています。
浅田さんの近著『帰郷』(集英社) の舞台がこの松本市でしたね。
浅田実は松本の地を踏むのは今日が初めてなんです(笑)。
滝沢ビックリです。何度も通われているのかと思っていました! 私も、主人が長野県の更埴市(現在の千曲市) 出身なので、長野県には年に1、2回訪れているのですが、松本は初めてなんです。
浅田6篇の短編集の中の1つが、テニアン島で玉砕した松本連隊の生き残りが主人公なんです。
滝沢さんは、『帰郷』を読まれたそうですね?
滝沢読ませていただきました。戦争って残酷で、夢もないような日々を送っていた人たち、私たちには想像もつかないような生活をされていた方たちがたくさんいて、読んでいてまるで映画を見ているように一気に読んでしまいました。
浅田僕も昭和26年の生まれなので、戦争は実際には知らないんですよ。物心ついたときの東京はもう今みたいな感じですよ。完全復興。闇市もない。傷痍軍人はいたけど、戦争の爪痕は実感していないんです。
滝沢戦後生まれの作家が戦争を書くのは珍しいと聞きました。浅田先生が、戦争小説を書き続ける理由は?
浅田戦争の小説って売れないんだけどね(笑)。使命感みたいなものがあるんです。誰かが常に書いていなきゃいけないと思います。
滝沢戦争の惨さを語り継ぐ使命感ですか?
浅田そう、当然1つは歴史的使命感。でももう1つは、文学的使命感ですね。日本には戦争文学という世界にも珍しい文学ジャンルがあるんです。戦場で自己を見つめるという小説。戦争を語り継ぐという使命のほかに、そういう文学を書き続けるという使命もあるんです。
戦後生まれの浅田さんが書き続ける戦争。
滝沢さんはそのまた次世代ですが、
お子さんたちにはどう伝えていきたいですか?
滝沢うちは長女が中学1年生なんですが、この『帰郷』も私が読んでいると興味を示していました。
テレビやインターネットでも情報をとれる時代ですが、ただ戦争の概要や亡くなった方の数とかじゃなくて、文学を通してあの当時人々がどのような気持ちでどんな生活をしていたのか、生き残った人たちがどんな気持ちで生きてきたのかなどを知って、過ちを繰り返さない大人になってほしいと思いますね。
本日は、ありがとうございました。
滝沢さんが“人の死”について
子どもさんと考えた、2冊の本
滝沢さんが東京から持参した私物の絵本。対談の中で紹介した「わすれられないおくりもの」(評論社) と、もう1冊「レアの星」(くもん出版)。どちらも大切な人の死について考えさせてくれる絵本で、お子さんたちも大好きなんだそう。
「日本ペンクラブ」とは?
国際P.E.N.は、文学・文化に関わる表現とその普及にたずさわる人々が集まる唯一の国際組織で、創立は1921年にさかのぼります。
日本ペンクラブはその日本センターとして、「国際P.E.N.憲章」に基づき、「文学の普遍的価値の共有」「平和への希求と憎しみの除去」「思想・信条の自由、言論・表現の自由の擁護」を基本理念として活動をしています。
設立の背景には、戦争に対する危機感がありました。戦争に至る社会と世界は、いつ、どこにおいても味方と敵を作りだし、生命と人権を軽んじ、言論・表現の自由を抑圧する――そのことを身に沁みて知った文学者たちが、国境と言語、民族と宗教の壁を越えて集まったのが始まりです。
フォーラム「子どもたちの未来、子どもの本の未来」は、3月11日を忘れないように、2012年から毎年、同じテーマで開催している講演。
子どもたちを取り巻く環境が大きく変わろうとしているこの時代に、戦争、原発、命といった問題について、大人たちはどう考え、何を伝えるべきなのか、子どもたちの未来、子どもの本の未来について討議しています。
- 今回のフォーラムの会場となったのは、信濃むつみ高等学校。
会場の運営を、生徒ボランティアの皆さんがサポートしてくれました。
帰り際、滝沢さんも皆さんと一緒に記念撮影。
浅田先生とも盛り上がったタキマキさんとオシャレについて
対談の中では、アパレル職経験のある浅田先生とファッションについても盛り上がりました! 「嫌いな服を着せられることもあるでしょ?」という浅田先生の意地悪な質問に「ありますね……」と本音をポロリする場面も(笑)。
でも「それをどう素敵に見せるか逆にやる気が上がります!」と頼もしい言葉も。
普段からシーン合わせて服を選ぶと言う滝沢さん。「今日は、学校が会場ということできちんと感がある服を選びましたが、観客の皆さんとの距離も近いアットホームな会場とのことだったのでパンツスタイルで温かみもあるコーデを選びました」とのこと。
ブラウス¥54,000パンツ¥43,000(ともにアディアム/アディアム インターナショナル
〈アディアム 東京ミッドタウン店〉)その他はスタイリスト私物
アディアム インターナショナル〈アディアム 東京ミッドタウン店〉☎03-3402-1019
【このイベントに関するお問合せ】
光文社ブランド事業部
TEL 03-5395-8143(土日祝日を除く平日 10:00~17:00)
brand-event@kobunsha.com
撮影/中田陽子 スタイリスト/池田 敬 ヘアメーク/平元敬一 取材・文/嶺村真由子 デザイン/瀬尾侑平