YouTubeやNetflixの視聴が増えたことで、地上波のニュースと接する機会が減った今の子どもたち。子どもが将来、ニュースをしっかり理解できるようになるためにママが今からできることって?有識者に伺いました。
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「見たい動画」ばかり観る姿にふと不安になることも…
どうやって子どもを
ニュースに触れさせればいいですか
マイクラが大好きな息子。家ではゲームをするか、ゲーム実況のYouTubeを見るか。マイクラについてはすごく詳しいけれど、先日「総理大臣」という言葉を知らないことがわかり驚愕。聞いたこともなかったなんて……なんとかしないとまずいかも?(7歳男の子のママ)
テレビがない我が家。子どもたちには工作のアイデアなど必要な時だけタブレットでYouTubeを見せています。親の私の情報源はほぼスマホ。雑音のない環境だけど、いつまでも好きなものだけを見る生活でいいのか不安です。(3歳、6歳男の子のママ)
たまに見たテレビニュースで「これって何?」と子どもに聞かれても、私がよく理解できていないのでしどろもどろ。そんな自分も嫌になり、家族揃ってますますニュースから遠ざかる日々。これでは良くないとわかってはいますが……。(5歳男の子、8歳女の子のママ)
「とはいえ、大人だってニュースにきちんと向き合えていない…どうすれば?」
で、自分はどう思う?を
問い続けるしかない —武田砂鉄さん
僕らが子どもの頃はテレビのワイドショーを観て芸能人の誰それが結婚して誰が離婚した、なんていわばどうでもいい情報ですけど、ひとまず事実として知る、という流れがありました。でも今はネットを徘徊していると、事実とそうでないものが入り乱れている。流れてくるニュースのうち、どれが事実なのか大人だってわかっていない、さらに全体量を把握することもできない、私たちが見ているものは氷山の一角なのだ、と子どもには繰り返し伝え、大人も自覚するしかないのではと思います。以前、治安の悪い場所へ海外取材に行ったとき帰国後、会う人会う人、危なくなかった?とか、すごいやばいところだったでしょ?と聞くのですが、実家の親だけは、「で、あんたはどう思ったの?」って言われたことがありました。「ま、危ないってわかったでしょ」じゃなくて「どう思ったの?」って聞かれると、自分の中で情報整理できたあとで答えられるし、いや、そんな1週間いただけじゃわかんないよとも言えるし、回答の幅が広がるんですよね。
たとえば子どもに「ショート動画でこう言ってるよ」と話を振られたら、「その動画観て、どう思ったの?」って一緒に考える。親子であっても、自分の考えと違う人の意見を聞く。テキストにすると非常に無難という感じがしますが、ニュースの接し方に関しては、その無難を怖がってはいけないと思います。基本的にSNSは自分の好きな情報しか流れてきません。好きなものの理由ってぱっとすぐ言えるけど、何かこれ嫌だなって思った時に、なんで嫌なんだろう?と立ち止まって考えることは結構難しい。ただしそういう機会があったほうが、世の中の情報に惑わされない耐性が付くと思う。まずは自分のSNSを見直して、あえて嫌いな人、そこまで好きじゃない人をフォローしてみるのはどうでしょう。実は僕も意識してやっています(大真面目)。
PROFILE
武田砂鉄さん
たけだ・さてつ 1982年東京生まれ。出版社勤務後、ライターに。雑誌・web連載多数。TBSラジオ『武田砂鉄のプレ金ナイト』パーソナリティー、文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ!』火曜日レギュラー。
『テレビ磁石』武田砂鉄(著)
「でも、テレビって、昔からこういうものだったはず」(まえがきより)。2018~2024年の週刊誌連載から厳選したコラム163本を、大幅に加筆・修正して収録。「もう古い」と言われ慣れたメディアの変わらなさ・変われなさを見つめ、垂れ流しの情報から主体的に“今”をとらえた痛快時評集。武田節に笑いながら「ニュースとの距離感」をつかめる一冊。ニュースから遠ざかってるな…と思う人こそ。
「動画漬けの我が子。将来、ニュースを理解できますか?」
小さい子なら、ニュースよりも絵本を
読んで感情をシェアするほうが大事 —蒲原慎志さん
子どもも大人も、「ニュース」のイメージが狭いのかも、と思います。政治、経済、国際的な話題が主で、知っておくべきことだけど、難しくてよくわからない。わからないからもっと遠ざかる、の悪循環。でも、ファッションもお菓子の新発売も、生きている社会そのものが全部ニュースなんです。誰もが必ず触れている。まずは「わからない」「よく知らない」という罪悪感を手放して欲しいです。その上で、子どもが動画ばかりでニュースを全然知らないのでは、という漠然とした不安もよくわかります。ただ小学校低学年くらいまでの時期は、ニュースに触れた時に動く心、感情を育むほうがよほど大切。成長すれば語彙が増え、自然にニュースを理解します。その時に、感じる心がなければただの情報。例えば戦争のニュースを目にして「ふーん、人が死んでるんだ」だけになるのは怖いですよね。その出来事の先に誰がいるのか、どんな感情があるのか。思いを馳せられる人になるには、ポジティブもネガティブも多様な感情を感じて、表現して、受け取ってもらう経験をたっぷり積むことが大事です。
だから小さいうちは、絵本にたくさん触れて欲しい。絵本は想像力と語彙力を養うための絶好のアイテム。感度の土壌を育むのにうってつけです。子どもが夢中になるニュースメディアがあれば助かるのに、との声も理解できますがなかなかないのが現状です。ただ、子どもにとって最大のメディアはやはり親。「忙しくてそんな余裕は」と身構えてしまいますが、必要なのは解説ではなく感情のシェア。ニュースに出合った時「ママはこれを知って辛い」「おかしいと思う」「嬉しいね」などの気持ちを伝えればいいんです。父親はまたそれと違う感情かもしれない。ニュースを通じて身近な大人の感情に触れ、子どもは自身の感情を知っていきます。
毎日ひとこと、「10秒ニュース」なら
誰でも実践できるはず
実践するなら家庭で「10秒ニュース」はいかがでしょう。NewsPicksが中高生向けに取り組んでいる「10分ニュース」のライト版。親が触れたニュースを10秒でいいので、日頃から口に出して子どもに伝えるだけ。「あのお菓子の新しい味出たんだって」「お米が高くて困った」「また選挙あるんだよ」とか。解説も答えもなくていいんです。毎日数秒ならきっとできる。子どもの土壌に雫を落としていく感覚です。
担当ライターが10秒ニュース、やってみた
[Before] 3歳ごろ、ニュースの映像が怖いと泣き出した娘。それ以来8歳になる今までニュースをほぼ見ない生活。YouTube漬けの姿に一抹の不安……。
[After] 「なんで戦争してるの?」などド直球な質問にきちんと答える自信がなくニュースの話題を避けてきたけれど、解説ではなく感情のシェアを10秒するだけでいいとわかり、親側がプレッシャーから解放されたことが大きかった。「大統領選どうなるのかな?」から「推しがパリコレ行ってる!」まで、自分の中で完結させていた話題を娘に気軽に話すように。ふとした時に娘からその話題が出ることも増え、こんな自分でも種まきできるんだと実感!
PROFILE
蒲原慎志さん
かもはら・しんじ NewsPicks Education 事業責任者。全国の小中高で、総合の時間や教科の時間で講師を務め、教員研修も担当。中高生向けのプログラム「10分ニュース」(5分で各自ニュースに触れ、残り5分で気になったニュースを仲間と分かち合う)に取り組む。
イラスト/STOMACHACHE. 取材・文/西原 章 編集/中台麻理恵
*VERY2025年1月号「今、どうやって子どもをニュースに触れさせれば」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。