最近、ヘルメットをつけた赤ちゃんを見る機会が増えた気がしませんか? 「病気なのかな?」「かわいそうだな……」と感じた経験がある人もいると思いますが、これは頭の形を矯正するための治療法なんです。まだまだ情報が少ないヘルメット治療について、実際に経験したママたちに取材。見た目だけの問題ではないこと、0歳のうちにしかできないこと。正しく知ったら「かわいそう」じゃない!
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悩みに悩んだけど…やってよかった!
ヘルメット治療は
かわいそうじゃない。
知っておきたいヘルメット治療、
キホンのキ!
どんな治療?
赤ちゃんの頭の歪みを、オーダーメイドのヘルメットタイプの矯正器具によってキレイな丸形に戻していきます。
どんな仕組み?
頭とヘルメットの接触部分は成長が止まり非接触部分は成長するので、隙間を作って「拡大させて追いつかせる」が概念。
歪みがあるとどうなる?
変形のレベルが高い場合、将来、噛み合わせの悪さや肩こり、腰痛の原因になる可能性があります。ネット上で散見される、偏頭痛や歯並び、斜視、発達発育への影響は、医学的にはありません。
保険は利く?
ヘルメット作成とその後の定期受診は自由診療。医療費控除の対象にはなります。
どこにかかればいい? 相談するなら?
頭の形専門のクリニックや、一般の医療機関の頭の形外来や脳神経外科など。まずは小児科に相談してみるのも手。頭蓋矯正治療は、知識と技術を習得した医師がしっかりとサポートできる環境で行うことをお勧めします。
治療を始められる時期は?
0歳2カ月〜10カ月が推奨。(※1)
通院の頻度は?
初回に計測し、ヘルメット作成。その後は月1回の通院が一般的。
赤ちゃんを抱っこしながら、頭の形をスキャンして歪みを計測。
治療期間は?
約6カ月間
費用は?
40万〜60万円台
ヘルメットの装着時間は?
1日20時間以上、入浴時以外はつけることが推奨されています。(※2)
(※1 骨の柔かさによって個人差があります。※2 病院や医師によって指導は異なります)
ママたち3名のヘルメット治療エピソード
「気にしていた周りのネガティブな
反応がなかったことが予想外でした」
Data
水口絢詠さん 長男1歳10カ月
治療歴:0歳4カ月〜9カ月
病院:国立成育医療研究センター
費用:44万円
妊娠中にへそのおがタスキ状に体に巻いていたことも関係しているのか、産後も入院中から右しか向かず、肉眼でもハッキリわかるほど右側が平らな状態に。生後2カ月の予防接種時に小児科で相談したら、「確かにそうだね」と、その場で成育医療センターに紹介状を書いてくれました。予約が取れたのは2カ月後。診察を受けると歪みレベルが高めだったことと、成育では生後半年が治療開始のリミットだと知り、その日のうちに決意。覚悟を決めるため、治療費44万円はあえて現金で支払いました。病院からは「かわいそうだねと言われる可能性もあります」と告げられていましたが、実際はそんなこともなく、むしろすれ違ったお婆さんから「今はこんな治療があっていいわね〜」と声をかけられたくらいです。成育はアメリカ製のミシガン式と、日本製のプロモメットの2種類のヘルメットがあり、私は後者を選択。プロモメットは薄くて軽く、丸洗いも消毒もできるので、よく耳にする「洗えなくて手入れが大変」というヘルメット治療のデメリットは当てはまらず、順調に改善して4カ月半で終了することができました。
「4カ月の頃スマホアプリで
頭の形を計測したら〝歪みあり〟。
急いで調べ始めました」
Data
佐藤果林さん 長男0歳9カ月
治療歴:0歳5カ月〜9カ月
病院:愛育病院
費用:55万円
生まれた時はキレイな丸い頭だったものの、向きぐせが強く左ばかり向いていて、傾斜ができてしまいました。いくら向きを直しても治る気配がなく、だんだん不安に。そんな中、4カ月健診の時に置いてあったパンフレットに頭の形を測定するアプリのQRコードが載っていて。早速測ると改めて歪みを確信し、産院でもあった愛育病院で治療することに。しかし、保育園に相談したら、区の福祉課と園が話し合って作製した「原則お断り」のプリントを渡されてしまい……。医師に診断書を書いてもらい、美容目的ではないことを訴えました。〝保育園でヘルメットが外れた場合も(園の先生による)再装着はなし〟など、いくつか約束事をかわしてなんとかクリア。着替えもヘルメットを外さずにできるよう、首が大きく開くものや、下から脱げるキャミタイプの肌着にしたりと工夫しました。開始当初は1日23時間装着し、その甲斐あってか1カ月経った頃には夜のみの装着でOKと言われるまでに。ヘルメット内のスポンジの取り替えや乾燥させる作業は大変でしたが、目に見えて成果が現れるのでやってよかったと心から思います。
「上の子たちと明らかに違ったため
双子の治療を決断。
費用は43万円×2人分でした」
Data
左納いずみさん 五男&六男1歳0カ月
治療歴:0歳3カ月〜0歳11カ月
病院:PASSOクリニック
費用:43万円×2人分
生後すぐから常に右方向を向いていた息子たち。何度向きを変えても、向きぐせが直らず、明らかに頭の右側がぺったんこ。1カ月健診で相談したところ、お医者さんは「気にしなくていいよ」。そう言われたものの、お世話をするたびに気になり、すでに5人育ててきた経験値からも〝これはおかしい〟と感じました。そこで頭の歪みについてネットでリサーチしたところ、治療するなら今しかないこと、見た目だけでなく、嚙み合わせなどに影響が出る可能性もあることを知って。「1日も早く治療しなければ」という危機感を覚え、近所に見つけたクリニックへ行きました。2人分となるとなかなかの金額になりますが、親としてやってあげたいと感じ、自分の貯金をおろしました。内側のスポンジがズレるたびに直したり、夏は汗や臭い対策に(水洗いNGのため)消臭スプレーを吹きかけてドライヤーで乾燥させるなどの手間は正直大変でしたが、せっかく始めたからには、やり遂げたいと強い気持ちを持って頑張りました。
医師が語る「日本におけるヘルメット治療の現状」
「〝赤ちゃんの頭の変形〟への
理解が深まり全国で治療数は
少しずつ増えています」
東京女子医科大学 小児脳神経外科
千葉謙太郎先生
頭蓋矯正用ヘルメットは、赤ちゃんの向き癖を含めた諸原因によって生じる頭蓋骨の変形を矯正する目的で開発されました。美容目的と思われがちですが、頭蓋骨の歪みは将来、噛み合わせの悪さや肩こり、腰痛など、身体面への影響に繋がる恐れがあり、これらを予防する目的で、1990年代にアメリカで頭蓋矯正用ヘルメットの開発が始まりました。日本では、当施設で2007年に倫理委員会の承認を経て、一般臨床でのヘルメット治療が開始されました。2020年には多分野の医療スタッフによって「日本頭蓋健診治療研究会」が発足。少しずつヘルメット治療の認知が医師の間でも広まったことで、乳児健診の際に頭の変形について相談しやすい環境や、また治療できる病院が、全国的に増えているところです。
とはいえ、今でも「気にしなくて大丈夫。この程度の歪みはそのうち治ります」と病院で診断され、悩みつつも矯正治療の適切なタイミングを逃してしまうご家族も多く見受けられます。ヘルメット矯正治療は必ず行うべきものではありませんが、「自然には矯正されない変形率の頭蓋変形がある。月齢の若いうちならヘルメット治療という選択肢がある」という知識を正しく知ってもらいたいです。治療できる時期が限られているからこそ、頭蓋変形のことを正しく知って、治したいと考える親御さんが適切なタイミングで適切な選択肢に出会えることが重要だと考えています。
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撮影/西原秀岳〈TENT〉 取材・文/井上さや 編集/翁長瑠璃子
*VERY2022年11月号「ヘルメット治療はかわいそうじゃない。」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。