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在米25年ジャーナリストが語る「日本に足りないペアレンティング意識」

ニューヨークの地下鉄で、生まれたばかりの赤ちゃんを発見したダニー。彼はその赤ちゃんを、同性パートナーのピーターと育てることに…。実話をもとにした絵本が日本でも発売され、話題を呼んでいます。ニューヨークに長らく暮らした訳者・北丸雄二さんインタビュー後半は、子どもにどう多様性を伝えていくかについてもお話を伺います。

前半のインタビューはこちら

『ぼくらのサブウェイ・ベイビー』¥1,980(サウザンブックス)作:ピーター・マキューリオ 絵:レオ・エスピノーサ 訳:北丸雄二

——日本にもある人種的、民族的、地域的な人権問題。見えないことにしている部分は多いと思います。私たちは今、どういうマインドを持つことが必要ですか?

 

北丸雄二さん(以下北丸):人間は言葉を使う生き物だから、言葉で表現しない限り、理解・納得できないんです。言語化することで、気づきを定着することができます。日本は言葉にしないことが美徳とされたり、「女は黙ってろ」と言われたりしてきました。今だって、喋らない女性の方が好かれたりする。でもそうじゃなくて、ちゃんと喋れる女の人が好かれる世の中じゃないとダメなんですよ。「女・子どもは黙ってろ」というおじさん社会じゃダメなんです。

 

——しかもおじさん社会の主役は、おじさんだけじゃないですよね。

 

北丸:最近思ったのですが、おじさんってみんながジャイアン的ってわけじゃないんです。むしろジャイアンは少ない。今は優しい男が増えてきているし、妻と一緒に家事育児をしたりするでしょ。でもそういう人がジャイアンみたいな人の前で、黙ってうなずいていたりする。ジャイアンは言葉ではっきりいってくるから、たとえば「女は黙ってろ」と言ったらこちらも反論が可能です。でもその向こうでニヤニヤして黙っている、男の特権に気づいていない普段は優しい男が、実はすごく手強いんです。ムキになってもしょうがないという反応をされる。

 

——おじさん社会は、強いおじさんが作っているのではなくて、おじさんの周りのうんうんってうなずいている男たちによって支えられていると。

 

北丸:そう。それがこの社会の、ほとんどの空気だと思う。だから男性こそ、気づきが必要なんですよね。時には怒らないといけません。でも、彼らをやっつけるのではなく、救ってあげると思ってほしい。男たちもがんじがらめになって、息苦しい時もあるんですよ。アメリカの男たちは、トランプ派以外は変わってきましたし、日本を一歩出ると全然違うと気づいてほしいですね。

 

男の中にも、弱虫と泣き虫を

ちゃんと飼い育てておくべき

 

——アメリカの男性は、弱さを認められるようになってきている。

 

北丸:そう、弱さを愛おしむことって男女問わず大事。人の中には、弱虫、おじけ虫、泣き虫ってあると思うんです。それを男だって、きちんと自分の中で飼い育てておきたい。弱虫でも泣き虫でもいいと男の中で認めてくれていれば、おじけた時に、2人でどうしようか?という話になる。女の子はその点、泣き虫や弱虫も認めるように育てられています。だから素直にもなれるし、そこからの可能性を作り出すことができる。男は強くあれとがんじがらめで、かわいそうなものですよ。

ケヴィンは今、数学とコンピューターサイエンスを専攻する大学生に。

——男の子を育てていると、強くあれ、泣くなとつい言ってしまいそうになります。

 

北丸:男の子にはいわゆる男らしさがあるのは自然なことだと思います。テストステロンというホルモンもありますし、生理的、生物学的な側面もある。でも、強さに憧れているままで、優しくなれるんですよ。人間には生物学的な側面と社会的、文化的側面があります。男も生物学的、生理的に男であるというだけでなく、文化的、社会的に構築される男性性というものがあります。後者の「男性」性は時代によってずいぶん変わってきました。テストステロンに支配されるがままの野生で野蛮な男たち、人殺しを奨励された戦国時代の男たち、それとは違って燃え盛る火の中に飛び込んででも他の人を助けようと思う勇気もまた、男性性の一つの方向性です。力が強いなら逆に心は優しくなくちゃダメだ。男らしさが捨てられないなら、文化的、社会的にどういう男らしさが好ましいかを考え、その方向性を奨励する文化、社会にしていくことはできると思っています。

 

——そう思うと、サブウェイ・ベイビーを育てたカップルは、優しい男たちですよね。

 

北丸:男同士で育児に一生懸命になる姿は、日本ではまだまだ想像がつかないかもしれないですよね。養子制度も、男女が揃った家族でないと子どもに悪影響だとか、ちゃんとした家族ではないとアメリカでも言われてきました。でもそんなことはないと証明されてきて、子どもたちへの偏見も正されていきました。以前は、ゲイであることすら犯罪で精神障害とされる歴史もあった。それを訂正するのに50年はかかっているし、有史以前からならもっとです。でも人間は言語化さえできれば、思考が進む。日本は日本語に守られているから、外の情報が入ってきにくいのですが、海外ではさまざまな新しい自由でハッピーな情報がたくさんあるということを、知ってほしいです。

 

——もっと外の情報に触れないといけないですね。北丸さんが実際に低学年に読み聞かせするなら、どうお話しされますか?

 

北丸:海外ではこの絵本だけじゃなくて、ゲイやレズビアンのカップルが家族になって子どもを育てている話が色々出版されています。幼稚園、小学校でもすぐ手に入るし、性的少数者がいるのが当然として教育が進んでいる。あとは欧米の子どもたちって、すごく「喋る」んですね。例えばテレビのインタビューされてもすごく喋る。これって、日常どれだけ話しているか、言語化しているかの表れだと思うんです。絵本を読み聞かせるだけでなく、それ以前にどういう話をして、どう語りかけているかが重要ですよね。とにかく会話してほしい。

 

——日本の小1の男の子の感想に「男同士で結婚できてずるい」というのもありました。

 

北丸:性格にもよるけれど、基本的に子どもってニュートラルだから。全く偏見がない時に読み聞かせることにより、人を憎むことをせず、どんな人もかっこいいんだというマインドで育つことができると思う。意地悪な言葉は、家で言わなくても外で聞いてくることもある。でも、せめてお父さんお母さんは、意地悪ではない、優しい言葉で埋め尽くしてあげてほしい。

 

——大人だけでなく、例えばテレビドラマやアニメでも、固定観念を押し付けたりヘイトを煽る内容もあったりします。あまり見せないようにしたいと思ってしまうのですが…。

 

北丸:今は憎悪とかヘイトなど、偏見差別をないものとして生きることはできません。でも、それにぶつかった時に、「客体化する」ことが必要。絶対化、絶対視するのではなく、客体化する。

 

幼い頃はテレビやアニメは一緒に見て、

“ペアレンティング”することが必要

 

——なるほど。そういうアニメを見てツッコミを入れたりしていますが、一緒に見ることが必要そうですね。

 

北丸:ツッコミも一つの技術ですよね。映画やテレビやアニメにしても、大人がそばにいて、「これは絶対じゃないんだよ」と教えてあげることが必要。これがペアレンティングなんです。ペアレントはメンターであり家庭教師、先生なんですよ。その先生が、いろんな情報を一緒に受け止めてニュートラルにして、どう進めるか考えさせる。差別を見た時に、なかったことにと目を塞ぐのではなく、気づかせてあげることが必要です。親も、メンターになれるような技術と思想、生き方を持たないといけないですよね。でもいつもついてあげられるわけではないから、小さいうちに思考回路を育てて、一人で見ていても一人でツッコミが入れられる子どもにしてあげればいい

 

——ツッコミ作品ではなくて、『サブウェイ〜』のような、突っ込まなくていい作品も出会わせてあげるのも必要ですね。

 

北丸:ぜひ。日本に住んでいるとこの社会だけがすべてと思ってしまうけれど、これがすべてだと思わないでほしい。言語化する時もつい過激になってしまうことも多くて、過激になるのを避けるのも技術が必要なんです。その技術を身につけるために、考え続けることが必要なんですよね。でも人間は、考えるようにできているものです。そして、普通であらなければならない、普通が幸せだと思ってしまうと、それに縛られて幸せじゃなくなる。みんな違うのが普通だとみんなが思うことで、幸せにたどりつけると思うんですね。今、普通の概念を変えていくことが必要なんです。自分の「普通」を、ぜひ解放してほしいです。

 

 

北丸雄二さん/ジャーナリスト、作家。在NY25年を経て18年から東京。ラジオ及びネット番組などでニュース解説の他、東京新聞毎週金曜に「本音のコラム」連載中。2021年『愛と差別と友情とLGBTQ+』で紀伊國屋じんぶん大賞2022で2位。6月には翻訳の英国演劇『アナザー・カントリー』がよみうりホールで上演。

取材・文/有馬美穂 編集/羽城麻子

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