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在米経験25年ジャーナリストが伝えたい「家族の形」の多様性

ニューヨークの地下鉄で、生まれたばかりの赤ちゃんを発見したダニー。彼はその赤ちゃんを、同性パートナーのピーターと育てることに…。実話をもとにした絵本が日本でも発売され、話題を呼んでいます。ニューヨークに長らく暮らした訳者・北丸雄二さんにお話を聞きながら、家族の在り方についても考えます。
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『ぼくらのサブウェイ・ベイビー』¥1,980(サウザンブックス)作:ピーター・マキューリオ 絵:レオ・エスピノーサ 訳:北丸雄二

——『ぼくらのサブウェイ・ベイビー』で赤ちゃんだったケヴィンは今、大学生になっているそうですね。この絵本を日本に紹介しようと思ったのはどうしてですか?

 

北丸雄二さん(以下北丸):地下鉄で発見された男の子の話は、2000年のニュースで記憶していました。昨年のはじめ後日談がBBCのニュースサイトで報じられ、絵本になったことと養親がゲイカップルだったことを知りました。それですぐ、日本でも紹介したいと思ったんです。世界では、男女が結婚して子どもを育てる以外にも、こうして新しい家族がたくさん生まれています。でも日本ではそれが目に見えていない気がしていて。日本では「家族」が、あまりに当たり前の形で、当たり前にあるものとして考えられているけれど、決して当たり前というのはないんだとずっと伝えたかったのです。

 

——アメリカ生活が長いからこそ感じられたことだと思うのですが、「当たり前」とは改めてどういう意味でしょうか?

 

北丸:日本でもみんな働き方も違うし、子育ての仕方も違う。だからいろんな家族の形が本当はあるのに、公で話すことがないように感じます。そのことで、みんなが「普通」という幻想を持ち続けていられる。でも、「普通」というのはみんなが一緒なのではなくて、いろんなものがあることが普通なんですよ。他の人と違うことが居心地の悪いことだと思っているから、違うところは黙っていて、同じところだけを確認し合って「自分も普通だ」と思って安心している。そして、妻や夫はこうあるべきという思考回路の中から、抜け出せていないように感じていました。でもみんなが違うのが普通だと思えば楽になるし、他にもいろんな考え方があるんだよということを伝えたいんですね。

 

——確かに日本ではパパとママと子ども2人のような家庭が「普通」で、例えばシングルであったりステップファミリーは「特別」な家だとみられることも多い気がします。

 

家族は、家族であろうとしない限り、

家族ではいられないんです

 

北丸:僕はニューヨークで雄と雌の猫を飼っていたのですが、ある日子どもを産みました。最初は仲良く家族だったのに、それぞれ友人に引き取られて3、4ヶ月もすると、再会しても家族だということを忘れてフーッと威嚇し合うんです。もちろん人間は猫とは違うんですが、それでも、家族は家族であろうとし続けない限り、家族ではいられないというメッセージにも思えて。家族でいようとする努力、意志もなく「家族だから」というのを簡単に安心材料にしていると、簡単に壊れてしまう。そうした機能不全家族が、20世紀後半のアメリカの大きな社会問題でもあったのです。そこから、家族を再生しよう、取り戻そうという意識が生まれてきたのだと思います。

 

——家族は血のつながりではないと。

 

北丸:日々の積み重ねの、ちょっとした努力や意志、そしてそれを表現することが家族の愛にも必要なんです。「家族は○○だ」と捉えるのではなく、家族がどうありたいかを考えることも、家族の一つのアイデンティティであって。

 

——「こうありたいな」と思うことを含めて、家族の形なんですね。

 

北丸:言葉にするだけで、もっと言えば感じるだけでも、日々の生活が変わってくる。言語化は大切ですよね。例えばアメリカから始まった#MeTooによって、日本でも性暴力やパワハラの問題が炙り出されています。10年前と全然、女性の置かれている立場が違うはずです。アメリカの方が断然言語化をしていくので、言葉によって今もどんどん変わっていっていますが、日本でも刺激されて勇気を持って話さなければという人がたくさん出てきました。何もVERY読者の方に一緒にデモをしろと言いたいわけではなくて、「そうだよ」と共感するだけでも、次に何かあった時に手助けができると思うんですね。

 

——日本でも声を上げる人が増えましたね。

 

北丸:性暴力について声を上げた女優さんにしても、目立つ立場にあるからこそ、表現することを責任として引き受けている感じがします。そういう人を私たちが大切に思うことが始まっている。まだまだここ数年の話ではありますが、アメリカですらここ10年くらいですから。100年単位で戦っているのだから、長い運動だと思いますよ。

 

——女性だけでなく、性的少数者の方の立場も変わってきたとお感じになりますか?

北丸:ミャンマーにしろ、ウクライナにしろ、タリバンのアフガニスタンにしろ、現地の女性たちが迫害されている向こう側では、LGBTQの方たちが迫害されているんですね。報道はされなくてもLGBTQの方たちも処刑されていて、ジェンダーとセクシュアリティの問題はつながっている。反対にLGBTQの差別が少ないところは、女性たちも解放されていますよね。人種的、民族的、地域的な人権問題は日本にもあるにもかかわらず、あまり議論に上らず、「まあまあまあ」で済ませてきている。私は当事者としてもLGBTQの問題から、すべての問題にたどりつきたいと思っているし、逆に女性の立場から、すべての問題にたどりつくこともできます。主語を奪われているもの同士、つながっていけたらと思っているんです。

 

 

北丸雄二さん/ジャーナリスト、作家。在NY25年を経て18年から東京。ラジオ及びネット番組などでニュース解説の他、東京新聞毎週金曜に「本音のコラム」連載中。2021年『愛と差別と友情とLGBTQ+』で紀伊國屋じんぶん大賞2022で2位。6月には翻訳の英国演劇『アナザー・カントリー』がよみうりホールで上演。

 

 

 

取材・文/有馬美穂 編集/羽城麻子

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