姿勢の悪さ、内股など、気になるクセを注意しても、なかなか直せないのが子どもというもの。親も「腹筋がないから」「なで肩で痩せているから」と体型や体格のせいにしてしまうことが多いのでは?外で思い切り遊び回って体を鍛えれば改善されるかもしれませんが、習い事などで忙しくて時間がない上、コロナ禍で外出もしにくい……。そんなお悩みを抱えるママやパパも多いでしょう。
スポーツ選手やオリンピック強化選手への指導経験を持ち、キッズの運動神経向上のための指導を行ってきたパーソナルトレーナーの石塚景太さんの元にも、こうしたお悩みが持ち込まれるようです。特に多いのが「猫背」「内股」「気になる歩き方」。今回は、前編に続き、家で簡単に「5分で」できる体操を教えてもらいました。
「姿勢良く」の声がけだけでは直らない理由とは?
石塚さんのもとに寄せられる相談のうち、かなりの数を占めているのが「猫背や姿勢の悪さ」。その中のひとりが小6のBちゃん。自宅での勉強中にママが声をかけても、一瞬だけ背筋を伸ばせるものの、すぐにまた崩れてしまうそうです。姿勢が良くなるイスなども試しましたが、一向に変化はありませんでした。
「そもそも、意識して姿勢を良くするということ自体が無理なんです」と石塚さん。
「スポーツをする人は、無意識のうちに真っ直ぐ立つ、前屈みになるなど姿勢をコントロールして動く習慣が身に付いています。基本的に、背筋を伸ばすという動きは無意識で行われるもの。運動もせず、座っている時間が長い人にとっては背中を丸めているのがラクなのは当たり前です」
姿勢を良くするために大事な筋肉は、背中と太ももの筋肉。これは椅子から立ち上がる際に使う筋肉でもあります。
「お年寄りを例に挙げると分かりやすいかもしれません。歳を取ると立ったり座ったりという動きがなくなるので、どんどん背中が丸くなっていくのです。この2つの筋肉を効率よく鍛えるため、Bちゃんには勉強の合間にできる手軽な体操を試してもらうことにしました」
Bちゃんにアドバイスしたのは、壁倒立。壁に向かって倒立し、足をつけて10秒ほどキープするのを3回繰り返します。壁倒立が苦手な子は、パパやママが足を持ってサポートしてあげましょう。最初は5秒からでもOKです。
「上半身の圧力を高めて体を支えるので、自然と背筋が真っ直ぐになり、背中の筋肉も鍛えられます。血流が良くなって肩周りもスッキリするので、勉強中のリフレッシュにもなるでしょう」
実は、これまで倒立ができなかったというBちゃん。苦手意識もあってなかなか練習する気にならなかったそうですが、石塚さんへの相談をきっかけに毎日少しずつ取り組みました。すると、夏休みの一ヶ月で見事できるように。Bちゃんのママからは「姿勢も改善された上、秋の運動会の組体操ではみんなと同じように倒立ができた」といううれしい報告もあったそうです。
「片足だけ内股」には飛行機のポーズ
小1のCちゃんのママから受けたのは「片脚だけ内股になってしまい、お尻を振るように歩いているのが気になる」という相談。石塚さんがCちゃんに会ってみると、確かに右足が内股になっている上、体重を右側だけにかけているように見えました。本人はあまり気にしていないようですが、ママは足の長さにも影響が出るのではないかと心配な様子です。
「利き手、利き目のように『体重をかけやすい側』もある」と石塚さんは話します。
「歩いたり走ったりと足を交互に出すことで体の左右差がなくなっていくものですが、立っているだけ、座っているだけといったように停止している時間が長いと、ラクに体重をかけやすい側の骨の上に乗っかってしまいます。小さい子は骨が柔らかいため、股関節に悪影響が出ないか心配です。また、大人になって腰痛につながる可能性もあります」
Cちゃんに試してもらったのは、「飛行機のポーズ」。両手を広げ、片足に重心をかけながら徐々に上体を倒し、骨盤の高さがそろったら飛行機のようなポーズをとります。片足ずつ、10秒キープを2セット行います。
「Cちゃんはお尻の筋力もなく、体重を支えるための体の動きも身に付いていません。このトレーニングで筋肉を鍛えつつ、左右のバランス感覚も整えていきたいと考えました」
さらに、「両足で踏ん張る感覚が身につくから」と、家にあったトランポリンで両足飛びにもチャレンジしてもらいました。C ちゃんは習い事も多くて忙しかったので、週に2〜3回を目標に飛行機のポーズとトランポリンをやってもらったところ、3ヶ月ほどで改善が見られたそうです。
「毎日やるのが理想的ですが、まずは無理のない範囲からで構いません。小さい子ほど体の動きは身に付けやすいです」
「足指ぐるぐる」でつま先立ちを改善
歩き始めの子がつたない歩き方をするのはよくあること。でも5歳のDくんの場合、成長してもつま先立ちで歩くクセが治らず、なにか運動機能に問題があるのではないかとママから相談を受けました。
石塚さんから出たのは「触覚過敏」というキーワード。毛糸のセーターやマフラー、服のタグがチクチクするのを嫌がる子どもは多いですが、同じように足裏が地面につく感覚を嫌うことも少なからずいるというのです。
「小さいうちはつま先だちや足の側面で歩くのが楽しい時期もあります。3〜5歳なら無理に直さなくてもOK。でも、そのまま変な歩き方を続けるのは良くありません。転ぶ心配もありますし、筋肉が固まってしまいます」
石塚さんがアドバイスしたのは「足の裏に触れること」。とてもシンプルですが、足の感覚を鍛えるためにも手で触れることは大事だそう。さらに足の指の間に手指を挟んでぐるぐる回すのを左右10回ずつ。慣れてきたら、足の指でタオルを掴んで手繰り寄せるという動きを左右2回ずつ行います。
「タオル掴みは足指のコントロール性を高めます。また、目をつぶった状態でママやパパが足の裏に指を当て、何本か当てさせるといった遊びも、足裏の感覚を意識しやすくなるのでおすすめです」
さらにDくんの生活スタイルについて尋ねたところ、保育園でも上履きを使用し、家では靴下を履いているとのこと。そこで家の中だけでも裸足で生活させるよう提案したところ、時間の経過とともにつま先立ちのクセがなくなったそうです。
親だけが気になるクセ、心配事はほかにもいろいろとあるでしょう。でも、「体の動かし方や身体感覚を掴むことで徐々に変わっていくので、あまり心配しないで」と石塚さんは優しく諭します。
「運動を習慣付けるのは大人でも大変です。できた時は褒めてあげて、楽しい気持ちで運動させてあげてください。まずは1カ月だけでも、という気持ちで、親子で楽しく取り組みましょう」
\教えてくれたのは/
◉石塚景太(いしつか・けいた)
JATI-ATI 日本トレーニング指導者協会認定トレーニング指導者、JCCA-コアベーシックインストラクター。19年3月、東京・目黒駅に「buzz fit」を開業。小さい子どもからプロスポーツ選手まで幅広い層を指導する。顧客のリピート率も高く、パーソナルトレーニング歴8年でのべ1万回のレッスンを開催。運動能力の向上に加え、体の違和感に応じたきめ細やかな対応に定評がある。