イスにずっと座っていられなかったり、いつもソワソワ、指をモジモジしてしまったり。なんだかうちの子って落ち着きがないかも……。保育園や幼稚園、学校から指摘を受けたわけではないのに、日頃の様子から我が子の発達が気になるというママも少なくないかと思います。でも、その落ち着きなさ、単に「体の動かし方がわかっていないだけ」ということもあるようです。
スポーツ選手やオリンピック強化選手への指導経験を持ち、キッズの運動神経向上のための指導を行ってきたパーソナルトレーナーの石塚景太さんは、「最近の子どもは『感覚不足』になりがち」と指摘します。
「人は視覚や聴覚などの五感に加え、バランスを保つ平衡感覚や力を加減しながらモノを持つ固有感覚といった身体感覚を使って生活しています。例えば椅子に座って体を傾けても倒れないのは、知らず知らずのうちに平衡感覚を使っているからなんです。ただ、体を動かさないとこの身体感覚は鈍ってしまいます」
何かと忙しく、外遊びが少ない最近の子どもたち。昨年からのコロナ禍で、さらに外に出づらくなり、オンライン授業や暇潰しのテレビやゲームで目が疲れたという話も聞きます。「画面ばかり見すぎてしまうとモノの適切な距離がつかめないという弊害も生まれる」と石塚さんは続けます。
「テレビやゲームに集中すると、利き目ばかりで使う癖がついてしまいます。人は両目で立体視してモノとの距離をつかむので、片目しか使えないとキャッチボールなどの球技が苦手になります。また、自分では正面を向いているつもりでも、首が左右どちらに傾いてしまう子もいます」
体の動かし方が分からないために、大人からは「不器用」「落ち着きがない」と見えてしまうことも少なからずあるようです。でも、運動が苦手なために嫌いになり、さらに運動しなくなるという悪循環が生まれるのはなんとか避けたいところ。なんとか楽しく運動に取り組んでもらいたいものです。
そこで、石塚さんが担当した具体的なお悩み解消事例をもとに、運動が苦手な子でも楽しく取り組める「おうちでできる5分体操」を教えてもらいました。
“感覚不足の子”に
「棒くぐりジャンプ」
小3のAくん。特に運動が好きというわけではないのに、夜になってもソファやベッドの上をぴょんぴょん飛び跳ねたり部屋をウロウロと歩き回ったりと、落ち着きがありません。毎日22〜23時まで寝付けず、おしゃべりも止まらないので、ママはヘトヘト。学校では協調性があって授業態度も良く、特に先生からは指摘もないとのこと。それでも、「この歳で、こんなに落ち着きがなくて大丈夫?」と心配になり、石塚さんに相談をしました。
話を聞いてみると、Aくんの習い事はピアノのみで、スポーツはなし。また、学校は6時間授業が多く、日中のほとんどを座って過ごしていることも分かりました。
「Aくんは『感覚不足』なのではないかと感じました」と石塚さん。
「体を動かす機会がないので、さまざまな身体感覚が得られていないのかもしれません。大人でも急に目が見えなくなったり耳が聞こえなくなったりしたら、不安になりますよね。感覚がないと、それだけで落ち着かなくなってしまうんです。目の感覚が足りないと感じる人は動くものをすぐ目で追ってしまうし、触覚が足りないと感じる人は指先を動かして何かに触りたくなってしまう。Aくんも自分に足りない身体感覚を埋めようと、つい体を動かしすぎてしまうのかもしれません」
一般的に、身体感覚は子どもから大人になる過程で発達していくそうですが、小学校低学年くらいだとAくんのように体力と感覚のアンバランスさから「落ち着きがない」という見え方をしてしまう子もいるそう。
石塚さんがAくんに試してもらったのは「棒くぐりジャンプ」。1メートルくらいの長さの細い棒を大人が水平に持ち、その上を飛び越えてからくぐって元の位置に戻るという体操です。
「棒の高さを目で測ることで空間認識能力が高まります。さらにどの程度の力で、どうやって飛び越えるかを自分で考えることで、動きの感覚も身に付きます。ギリギリ飛べるかどうかという高さに棒の位置を調整してあげることで、ゲーム性も高まって飽きずに続けられます」
集中力の高まる夕方にやるのがベスト
ポイントは、体操を行う時間。運動した後はすぐに興奮がしずまらないので、あまり遅くない時間ににやるのがベストだそう。
「小学生は日中に時間を取るのが難しいと思いますが、遅くとも夕方、夕飯を食べる前にやりましょう。夕方は交感神経と副交感神経が切り替わるタイミングでなので、集中力が高まる時間でもあります」
ただ、大人でも運動を習慣化するのはなかなか難しいもの。もともと運動に苦手意識を持っていた子が楽しく取り組むためには、どうしたらいいのでしょうか。
「最初から100パーセントを求めなくていい」と石塚さんは断言します。
「あまりにもできないことが続くと本当に運動嫌いになるので、できるかできないかというレベルに挑戦させるのがコツ。棒くぐりジャンプなら、最初は絶対にクリアできるだろうという簡単な位置から初めてください。それができたら、次はできるかできないか分からないという高さに持ってきて、子どもにチャレンジする気持ちを持たせるのがコツです」
毎日5分間、Aくんとママとでこの体操を続けたところ、心身ともに疲れて寝付きも良くなったそうです。また石塚さんからは、身体感覚を伸ばすための、こんな変わった提案も。
「触覚は人に触れること、触れられることでも育ちます。だから、ママやパパがハグやタッチをしてあげるだけでもずいぶん変わってくると思いますよ。ぜひ楽しんでお子さんと触れ合ってください」
後編では、姿勢や歩き方、子どもの体の歪みが気になったら試したい「5分体操」を紹介します。
\教えてくれたのは/
◉石塚景太(いしつか・けいた)
JATI-ATI 日本トレーニング指導者協会認定トレーニング指導者、JCCA-コアベーシックインストラクター。19年3月、東京・目黒駅に「buzz fit」を開業。小さい子どもからプロスポーツ選手まで幅広い層を指導する。顧客のリピート率も高く、パーソナルトレーニング歴8年でのべ1万回のレッスンを開催。運動能力の向上に加え、体の違和感に応じたきめ細やかな対応に定評がある。