コロナ禍による外出時間の減少とお家時間の増加、タブレット学習、リモート授業が一般化して、子供の目を取り巻く環境には心配事が増える一方。一生ものの我が子の大切な目を健康的に育むために、私たち親が知っておきたいこと、できることを年齢別に改めて考えてみました。
\教えてくれたのは/
国立成育医療研究センター
感覚器・形態外科部
眼科診療部長 仁科幸子先生
1989年慶應義塾大学医学部卒業後、眼科学教室入局。1994年より小児の目の病気を専門として、診療や研究に取り組む。日本小児眼科学会理事、日本弱視斜視学会理事。
就園前(0〜2歳頃)
生まれてすぐはぼんやりとしか見えていなかった視力が2歳頃までに0.5前後まで発達。最も感受性が高い時期で、日常生活では目への適切な刺激が必要です。遺伝性の病気や弱視・斜視などは早めの健診で早期発見を。
【Case1】
深刻な目の病気には
家族性のものも。
気になったら
生後1カ月頃までに目の検査を
先天白内障、緑内障、網膜芽細胞腫、若年性の網膜剥離など、目の病気には遺伝性のものがあり、ほぼ検査をすることでしか発見できません。少し怖い話になりますが、発見が遅れると一生治らない場合もあります。家族に遺伝性の目の病気があったり、気になることがある場合はまずは生後1カ月頃までに最初の目の検査をして我が子に目の病気が潜んでいないかを確かめましょう。
【Case2】
赤ちゃんは
教えてくれないから…。
目のトラブルの
サインを見逃さない
生後2、3カ月頃になると物をじっと見たり、目で追うように。人の顔以外にも、赤色や光るおもちゃに反応しやすくなります。静かな場所でゆっくり好きなおもちゃを動かして反応を見てみましょう。生後5、6カ月頃には物に手を伸ばしたり、目で見ながら手や指を動かすように。片目を隠して物を見せ、一方だけ嫌がる場合は病気のサインかもしれません。日頃から観察しましょう。
【Case3】
視力の成長段階に
適した刺激を与えていく
赤ちゃんのうちは、まず家族の顔に反応するので笑顔でコミュニケーションを。おもちゃは認識しやすい鮮やかな色彩を選んで。1歳頃はパズルなど目で見ながら手を使う遊びや、ゆっくり動くものを見せて刺激を。2歳頃には意識的に遠くの山や公園の木などの景色、飛行機などを見せるようにしましょう。寝転がるなどして左右片側だけで物を見ることは×。この時期のデジタル機器の使用はおすすめしません。
就学前(3〜6歳頃)
自治体の3歳児健診では視力検査が加わり、初めて目の病気に気づくことも。多くの自治体では次の目の健診は小学校の就学前健診です。目に何か問題がある場合は見落とさずこの時期に治療を開始したいところです。
【Case4】
幼少期の
デジタルデバイスは
目には良くないと
心得て、正しい
付き合い方を
デジタル機器を使う時は明るい場所で姿勢良く座り、画面を正面に置いて最低でも20㎝離れます。動きの早いコンテンツは避け、20分見たら5〜10分間の休憩タイムを取り、1日の視聴時間は1時間程度に。スマホなど小さな画面は目への負担が大きいので、できるだけ大きな画面を選ぶように。寝転がりながらの視聴やベビーカーで移動しながらの視聴はやるべきではありません。
【Case5】
将来の目のために、
幼少期から
良い習慣づくり
大きくなってからでは変えにくい生活習慣は幼少期から身につけさせるのがコツ。本を読む、お絵かきなどをする時は手元から20㎝以上離し、明るい場所で正しい姿勢で。テレビやデジタル機器の視聴はデバイスとの距離、姿勢、時間、コンテンツの管理が大切。早寝早起きを心掛け、偏食を避ける。良い習慣が身につけば目のためだけでなく一生の宝物になるはずです。
【Case6】
50人に1人の
割合でいる弱視。
3歳児健診後も
就学前健診までは
弱視に注意
弱視は、眼鏡をかけても視力が十分に出ない脳の発育不全ですが、早期発見・治療でほとんどが改善されます。逆に目の成長が終わる8歳前後までに治療ができていないと、十分に治すことが難しくなります。3歳児健診で見つかることが多く、治療用眼鏡を常用して治療します。早期発見・治療が重要なので、物を見る仕草に違和感を感じたり、気になる症状があれば、早めに眼科に受診を。
Case【Case7】
眼鏡を嫌がり
かけてくれない…。
一緒にできる
対処法を知っておく
〝お気に入りのフレームを選ぶ〟〝「本やテレビを見る時だけ」など短時間からかけ始める〟、〝家族みんなで眼鏡をかける〟、〝治療のための眼鏡の大切さを話す〟などして、徐々に眼鏡に慣れる環境をつくり、眼鏡をポジティブなものとして受け入れられるようにしてあげましょう。もちろん正しい度数、フレームが心地よくフィットしていることも必須です。治療用眼鏡は、条件が揃えば8歳まで保険が適用されます。
就学後(7歳〜)
視機能の発達がほぼ完了。ここからは、近視にならない、進ませないことが大きな課題です。日々の生活ルールを整え、太陽光を浴びる外時間を過ごし、デジタルデバイスとの正しい付き合い方を心がけましょう。
【Case8】
目のさまざまな機能の
発達がほぼ完了。その後も
定期的な目の検査をしましょう
視機能の発達がほぼ完了する6歳以降は、獲得した視機能を守っていくこと、近視を進ませないことが大切です。体が成長する時期は、目の奥行きも伸び近視になりやすい時期。引き続き17歳頃までは1年に1度程度のペースで目の検査を続け、病気が発生していないか、近視が進んでいないかなど定期的に眼科医に診てもらいましょう。
【Case9】
近視を進行させないための
生活ルールを。
デジタルデバイスと
上手に付き合おう
増えている子供の近視は、将来の緑内障や網膜剥離といった失明につながるリスクを高めます。近視の進行を防ぐには、最低でも1日1時間は外で過ごし太陽光を浴びること。これは学術的な根拠があり、曇りの日でも有効です。デジタルデバイスを見る時は手に持たず机に置いて正しい姿勢で「かしこまって見る」習慣を。親の視聴行動も子供たちは見ていることを忘れずに。
【Case10】
すぐ壊すから…と
安いフレームでいい?
妥協しない眼鏡選びを
活発な子供は頻繁に眼鏡を壊してしまうので「どうせすぐ壊すから安いフレームでいい」とつい思いたくなりますが、その際に「かけ心地のいい眼鏡かどうか」という視点を忘れずに。大人だってかけ心地のよくない眼鏡はストレスですよね。眼科で正しい処方を受けたうえで、子供の顔の特徴に合った、かけ心地のよい眼鏡を選びましょう。子供の眼鏡を専門に扱うお店もあります。
近視は世界中で進行しています。
いまは子供の目が育つ
大切な時期であることを忘れずに
生まれてすぐの赤ちゃんは視力が非常に弱くほとんど目は見えていません。脳の成長と共に視機能も徐々に育ち、6歳頃になると目の機能はほぼ完成します。特に0〜2歳は刺激に対する感受性が高く、目の成長にとって最も大切な時期です。
視機能には、視力の他に遠くや近くにピントを合わせる調節力、瞳をバランスよく動かす眼球運動、両眼で物の奥行きを見る立体視などがあり、感受性の高い小児期に障害を受けてしまうと、十分に発達しません。逆に視機能の成長過程で早めに異常を発見して治療を行えば、よりよく発達する確率が格段に上がります。小児期に視機能が発達しないと、たとえ眼鏡をかけても視力が出ません。まずは、成長段階にある子供の目がきちんと育つように生活の中で正しい目への刺激(視覚刺激)を与え、万が一、目の病気がある場合は早期発見と治療が大切だと知っておきましょう。子供の目の病気は見つけにくいものです。定期的な目の検査を心がけ、些細なことでも気になることがあれば、迷わず眼科で診てもらいましょう。
取材・文/魚住 綾 イラスト/macco 編集/永吉徳子
*VERY2021年8月号「\年齢別/子供の目を守るために私たちができる10のこと」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。