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子どもが初めて“死”に直面したとき母がとるべき対応とは?

毎日子どもの成長を追いかけていると、「死」を考える機会はなかなかないもの。でも、死と直面するときは誰にでもいつかやってくるものでもあります。ペットの死、親族の死……そのとき、親たちがとれる姿勢とは? 幼い子どもたちが、そして母親である私たち自身が、突然訪れる「死」にどのように向き合えば良いのか。臨床心理士の大草正信先生に聞きました。

◉大草正信先生
臨床心理士・学校心理士。心理臨床で長年培ってきた経験を生かし、年齢問わず心の問題を相談・解決していける場を目指して大草心理臨床・教育相談室「お~ぷん・ラボ」を主宰。大学非常勤講師や各地教育委員会のスーパーバイザーなども多く務める。

よくあるケースで解説!
あのとき母としてどうしたらよかったの?

 

◉Case1:ペットの死

「そんなに泣かないで
気持ちを切り替えよう!」
と励ましました(T.Sさん)
かわいがっていた鳥が朝起きたら突然死んでしまっていて、7歳の娘はかなり取り乱しました。少し静かに見守っていましたがあまりにもずっと声をあげて泣きじゃくっていて学校に行く時間も迫っていたので、「そんなに泣いてないで気持ちを切り替えよう」と言ったら、イヤと言われましたが、頑張って行かせました。その後も、たびたび思い出しては泣くので、早く忘れるよう小鳥の話題をなるべく出さないようにしましたが、いつまでも忘れないで泣くので、心配になりました。

 

◉先生のコメント
泣きたいときはそれをとがめず、「大切な鳥が死んじゃったんだから悲しいよね、泣きたいだけ泣いていいんだよ」と気が済むまで泣かせてあげましょう。それがお子さんの死の悼み方だからです。いつまでも泣いていると、立ち直れないのではないかと心配になるかもしれませんが、気が済むまで泣き切ると立ち直れます。むしろ、泣いてみても気が済まないときに、泣くことが続きます。

 

 

◉Case2:友達のお父さん

お友達のお父さんが亡くなって
元気のない娘。
何も声をかけられませんでした(K.Nさん)
7歳の長女のお友達のお父さんが亡くなりました。亡くなるとはどういうことか頭では分かっている年齢だとは思うのですが、泣きじゃくって取り乱すという予想に反して、娘を含め子どもたちはお葬式でも帰る途中もずっと無言で、帰った後も娘は元気がありません。私も一週間ほど色々考えてしまって落ち込み、娘に特に声をかけてあげることもできません。でも、娘は、あちらの家庭が落ち着いてから、一緒に学校行ってあげたい!とお友達を誘って元気に登校しました。言葉はなくても、子どもだから分かりあえるものがあったのかな?と思いました。向こうのママからも、子どもたちが元気に誘いに来てくれて救われたと言われました。

 

◉先生からのコメント
子どもに限らず死を悼む態度は、十人十色で、こうでなくてはいけないというものはありません。だから、子どもがひたすら無言でいたのなら、「死を悼んで、黙っているんだね、それでいいよ」と声をかけつつ、それが子どもの死の悼み方なのだと肯定して受け止めることが大事です。だから、お子さんの気持ちを尊重してあげていることはとても良いことだと思います。死を悼み切れると、自然に必ず普段に戻ります。大人には分からない感情や関係性もあるでしょうから、あまり干渉しすぎずに子どものあり様をありのまま「それでいいよ」と声をかけつつ、見守ることが一番です。

 

 

◉Case3:ペットの死

愛犬を亡くしても涙を見せない息子。
「悲しくないの?」と
思わず言ってしまった(M.Yさん)

愛犬を亡くしたとき、長女は感情を表に出せる子でたくさん泣いていたのですが、7歳の長男はあまり感情を表に出さず、愛犬について話をそらし、悲しんでいるそぶりを見せませんでした。2人になったときにも、違う話や意味のない話をわざわざするので、私も少し苛立ってしまい「悲しくないの?」と言ってしまいました。すると長男は声を出して泣きました。「泣きたいときは泣いたらいいし、私も気持ちを分かってあげられずごめんね」と2人で泣きました。まだ幼い心で格闘していたことを分かってあげられなかったのかもしれません。

 

◉先生のコメント
子どもはつらくて泣いたりめそめそしたりしたくないので気丈夫に感情を表に出さず、話をそらし、悲しんでいるそぶりを見せないようにしていたのです。これも子どもの死を悼むあり方のひとつです。なのに、「悲しくないの?」は子どものしていることを否定する物言いになります。でも、この場合、お母さんの一言をきっかけに声を出して泣いたお子さんをきちんと受け止めてあげているので、問題なし。そこで悲しみに浸り切ることができて癒えたと思います。

 

 

◉Case4:子どもの友達

行きたくないと言う息子を無理やり
お葬式に引きずって
いってしまいました(M.M さん)
息子が11歳のとき、息子が親しくしていたお友達が闘病後に小児がんで亡くなりました。病院にも通い、遺体にも対面していましたが、告別式になって、突然「行きたくない。面倒くさい」とかなり拒みました。でも最後のお別れは絶対した方がいい!と引きずるように連れていってしまいました。

 

◉先生のコメント
働きかけた結果行ったのであれば、無理やりでも何の支障もありません。なぜなら息子さんは不本意でも最後は「行くか」と思ったのです。そうでなければ決して行くことはありません。このようなときは、子どもの「行く」という行動と、その行動をするために「行こう」と思いをつくったことの両方を褒めること。悲しくてしょうがないのに「行こう」と思ってよく頑張れたね、と言ってあげましょう。子どもが自分のしたことに納得できて心が安定します。

 

 

十分に悲しむことができたら
回復できるのが人間。
「食べたくない、眠れない」
気持ちも肯定してあげて

 

編集部(以下H) 「死」と対面した我が子に、母親として正しい対応、間違った対応はどういったものなのでしょうか?

 

大草先生(以下O) 死に対面して感じ思うことは人によって様々なのが生身の人間。こうあるべきという形式論はさておき、お母さんの考えや子に対する配慮で、自由な対応をしていいと思います。

 

 どんな振舞いでも子どもに悪影響はないということですか?

 

 親からの最初のアクションは何でもかまいません。大切なのは、投げかけた言葉や態度に対する子どものリアクション。小さなことも見逃さず肯定的に受け止めてあげてください。

 

 具体的にどういうことでしょうか。

 

 例えば泣いている子に、元気を出そう!と声をかけても良いですが、その後も泣きやもうとしないなら、その子がそうしていたいとき。無理に気持ちを切り替えさせようとするのは、その子の悲しみ方を否定することになってしまいます。「ポジティブな言葉で相手の行動を否定すること」は最もしてはいけないこと。この場合も泣き尽くすくらいまで一緒に死を悼んであげるのがいいと思います。

 

 確かに、子どもを思うがあまり良かれと思って「元気出して!」と言ってしまいそうです。でも例えば眠れない、食事をとれない、などはずっと子どもがこのままだったらと心配になります。

 

 親が勧めてもそうならないときは、頑張って寝よう、ではなく、眠れないくらい悲しいことだってあるよ、寝られるようになってから眠ればいいよと肯定して寝られるまで一緒に付き合ってあげるといいです。食べられないときも、元気になるために食べなさい!ではなく、食べたくないときもあるよね、作っておくから食べたくなったら教えてね、と言ってあげる。何事も「そう思って、そうしているんだね、それでいいよ」と受け止めるのが大切な基本です。

 

 逆に、お葬式などでニコニコしていて困ったという話もよく耳にします。

 

 緊張すると表情が緩みにこやかにしてしまうことは子どもに限らず大人でもあります。笑顔もはしゃぐのも悲しみや戸惑いの表現のひとつ。周囲に気を遣い、叱ったり抑えつけたりしてしまいがちですが、周りの目が気になったら「これがこの子の悲しみ方なんです」と説明して了解してもらうといいと思います。

 

 そうやって寄り添ってあげることで気持ちは元に戻るのでしょうか?

 

 人間には自然回復力があります。だから死を悼み切れると自然と元に戻れるのです。ただ、周りが不適切な関わりをするとその能力が妨害されるので、そこだけは親として注意しなければなりません。三日くらいで嫌な気持ちや苦しい感情は軽減し始め、五日くらいで大体沈静化して普段の生活に戻るのが健康な人のありようです。それがうまくいっていないと感じたら専門家に相談してください。

 

 母親自身もつらい気持ちを背負っているとき、子どもの前ではどのような態度をとればいいのかも気になります。

 

 何かしようと思っても「できない、無理」という思いに妨害されると心が正常に働かなくなるので、自分の気持ちに素直になることをオススメします。母親としての思いが明確であれば、気丈にするのも悲しむ姿をありのまま見せるのも子に悪影響を及ぼすことはありません。

 

 子どもに死について聞かれたときにはどうしたらよいですか?

 

 死に直面にしたとき大切なのは説明の内容ではなく、質問に真摯に応える親の態度です。質問攻めに辟易していい加減なあしらいをせず、何度でもしっかりと応答してあげましょう。

 

 普段一緒に読む絵本に死を考えるものがあると備えによいのでしょうか?

 

 第一に大切なのは直面したそのときの対応ですが、普段からそういったものに親しんでいると知らず知らずに構えができて、急なことにも子どもの心に混乱が渦巻くことを避けられると思います。

 

 

先輩ママがおすすめ
子どもと「死」を考える絵本

◉このあと どうしちゃおう 「ポップな表現と絵で死後の妄想が楽しく表現されている本。読んでいて死が怖い、死んでしまった人がかわいそう、という娘のイメージが完全に払拭されたようです」作・絵 ヨシタケシンスケ(ブロンズ新社)
◉くまとやまねこ 「絵本なのに最愛の友を亡くした場面から始まり衝撃を受けましたが、悲しみと向き合い、徐々に受け入れて希望を見つけるストーリーは、大人もジンと心に沁みます」作 湯本香樹実 絵 酒井駒子(河出書房新社)
◉ずーっと ずっと だいすきだよ 「私自身が子どもの頃、この本がきっかけで好きな人に素直に好きと伝えることの大切さを深く知りました。息子はまだ小さいけれど、受け継ぎたい絵本のひとつです」作・絵 ハンス・ウィルヘルム 訳 久山太市(評論社)
◉いつでも会える 「死だけでなく誰かに会えなくなったときなどにも通じるお話で、お友達家族が遠くへお引っ越しするときに役立ちました。シンプルなので小さな子どもへの読み聞かせにもぴったり」作・絵 菊田まりこ(学研プラス)

撮影/柿沼 琉〈TRON〉(静物)、蓮見 徹(取材分) 取材・文/白澤貴子 デザイン/安藤恵美 編集/城田繭子
*VERY2019年11月号「ペットの死、親族の死……わたしたちがとれる姿勢って? 子どもが初めてと向き合ったときに」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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